依頼
転生者が度々現れる世界なので、ジャガイモはすでに発見されてます。
大地母神殿から依頼主フールへの依頼は農村への治療依頼だった。数日前に辿り着いた冒険者の話では東に10日程行った村で村人に次々と病が出ているという。
「おいおい。流行り病じゃあるまいな?」
「神官様の見立てでは、[冬火病]らしいので、問題ないそうですが……」
雇われ店長の追及に神官見習いの少女はしれっと答えた。フールは成る程と言った顔をして頷くが、私には何の事だか分からない。
「[冬火病]とは何だ?」
雇われ店長が私と同じ疑問を尋ねる。すると神官見習いの少女が質問に答え始めた。どうやら少女は[薬師]資格の取得を目指して薬学を学んでいるらしい。
「[冬火病]というのは、冬に手足の指が炎に焼かれた様に黒く変色する病です。放っておくと……」
少女は店長に話を続けてゆく。フールは、それをエール片手に聴いている。
どうやら凍傷を[冬火病]と呼んでいる様だ。だが村人が次々と凍傷を起こしているのは腑に落ちない。いくら農村でも暖房設備はあるだろうに。
「……と言うように酷くなると気が触れて幻覚をみたりします。ただ神官様によれば[冬火病]は発生地域から遠くに伝染る病ではないそうです。」
「だが、村に行けば伝染る可能性高くなるんだろう?」
「はい」
そして説明を終えた少女と店長がフールに視線を向けた。なるほどエルフは感染症にはかからないし、[薬学]にも優れている。
人間の学ぶ[薬学]の基本はエルフから教えられた[エルフ薬学]が主流だからだ。でもエルフでも凍傷にはかかるだろう。凍傷は酷い血行不良なのだから。
「報酬は金貨20枚。お連れ様には半額の金貨10枚。経費は別で半額前払いです」
改めて依頼書を少女が読み上げる。日銭稼ぎに苦労している冒険者達からは羨望の溜息が漏れた。店の手数料は依頼の成否にかかわらず大抵10%なので店長も受けて欲しいはずだ。
「検討したいので明日まで時間を。ただ受ける場合には少なくとも一人。神聖魔法を使える神官なり下級神官なりの同行が必要と伝えて下さい」
フールはエールを飲み干し席を立った。私も薄いエールを急ぎ飲み干す。護衛の仕事なので、なるべく酒は控えているが、これぐらいは良いだろう。
私達は階段を上がり部屋に戻った。
☆☆☆
「人間の医学薬学レベルは低い」
部屋に戻って開口一番、フールがそう呟いた。そして私にロイター近郊の今年の麦の出来具合を調べる様に告げた。
私はどうも勘違いをしていたらしい。フールの推測が当たっていれば、[冬火病]とは[麦角病]の事ではないかと思い当たったからだ。[麦角病]は麦角菌による毒素の中毒症状で、酷い血行不良が起こりえる。
たしか麦や稲に感染する病で前世知識によれば小麦よりライ麦に多いらしいかった。文学部にいた文から聞いた覚えがある。文は小説家志望だけあり博学だったから。
「今年は麦は不作だったはずです。値が高いと下の店長が申しておりました」
夕食のメインが馬鈴薯ばかりなのは、その為だろう。塩で茹でたジャガイモだが量だけは多く出てくる。
「黒い麦穂も混ぜてしまってるとお考えで?」
「不作なら[オーガの爪]も混ぜてしまっているでしょう」
前世では悪魔の爪と呼ばれた麦角菌に感染した黒い麦穂がこちらでは[オーガの爪]と呼ばれているらしい。
「フール様は依頼を受けるおつもりですか?」
「ええ、しかし楓。竜人は人間より教育がされてるとはいえ、貴女は博学ですね。[オーガの爪]が病原体と分かるなんて」
「忍を生業にしてますゆえ」
誤魔化した私にフールは黙って微笑む。しかし受けるのか……。雪の中を普段で10日かかる村まで行くと考えるとウンザリする。
それに病原体が分かっても、粉にされて混ぜられてしまえば除去は不可能。どうするつもりだろうか。貧しい農村に食料の破棄を求めれば今度は飢えが村を襲う。
「[オーガの爪]は加工すれば薬になります。エルフの里ではなかなか手に入りません」
フールは、もしかして[オーガの爪]欲しさに行くだけなのだろうか?エルフは人間を見限っている様な節がある。里で学んだ歴史からすれば人間側に非があるので是非もないが。
「至高神の加護ある貴女がいるのに大地母神の神官を求めたのは、治癒魔法の為ではありません」
「大地母神の魔法には麦から毒を取り除くものがあったはずです」
私の思考を先回りしてフールが答えた。表情には出てないはずだし、魔術で思考を読まれたりはしていない。雇われてから感じているが、フールはなかなかの曲者だと思っている。
「色々準備が必要です。頼みましたよ楓」
そう、寒いなか装備を買ったり集めたりは私の仕事になる。フールには雑用込みで雇われてるからだ。
私は黙って頭を下げた。
竜人族の祖は転生した日本人なので、竜人の文化には日本的要素が多く見られます。
楓も忍者ですし……。
私の黒歴史がまた1ページ。




