朝食
寒い地方は二重扉が基本です。
外扉の次に小スペースがあり、内扉がついてます。
「フール殿。おはようございます」
一階にある食堂に降りて行くと、依頼主のエルフは、すでに朝食を摂り始めていた。エルフは返事をせずに黙って頷く。ここ1ヶ月いつもの事だ。
昨夜はこの世界に来る前の死んだ時の夢を見た。親友の文とは二度と会う事はない。だから彼女が小説家になり直木賞を取る夢を叶えたかどうかは分からない。
だがそれが死ぬと言う事。神殿で祈り至高神に願えば、向こう側の世界の事を尋ねる事は可能かも知れない。だが恐らく返事は無いだろう。
信仰心の薄い私に至高神の啓示があったのは転生時の約束があったからで、神聖魔法が使えるのはその余禄に過ぎない。
「朝食を」
カウンターの店員に声をかけ銅貨をカウンター横のボウルに入れると、黒パンとスープがトレイに乗せられ出てくる。スープは塩漬け野菜と塩漬け肉の煮込み。チーズをつけるなら別料金だ。
ここロイターの街は大商会パーピー商会所有の都市。その為か冒険者の店の名称も[冒険者紹介所]と素っ気ない。主人も独立したオーナーではなく、商会の雇われ店長。
別途に金を払わない限り、毎日同じメニューだが、平民の冬の食事にバリエーションなどない。冬を越す為の保存食は小麦と芋以外は塩漬けが基本になるからだ。
夢の為か前世の食の豊かさが思い出され、少し切なくなった。
☆☆☆
朝食を終えると、いつもなら食堂に居る他の冒険者達の大半は外に出てゆく。日給銅貨12枚と安値だが、商会が雪掻きを雇うからだ。
雪掻きは重労働だが、基本人力しか頼れないこの世界では、あぶれ者の冒険者にはうってつけの仕事。朝晩の最低限の食事と一晩の宿代が銅貨12枚だから蓄えが少なくとも、働けば生き延びられる。
しかし今日は誰も出て行かない。何故なら朝から雪と風がやや強く。商会が雪掻きを募集しないだろうからだ。その場合、金の有無に関わらず朝から酒を飲み、暖かい食堂にたむろする。
余程の借金持ちで無ければ、商会へのツケ、つまり借金で最低限の飲み食いは出来るシステムで冬の3ヶ月間は踏み倒して逃げ出す者は居ない。
ロイター近郊では、装備、準備なくしての冬の旅は死に直結する。それが嫌な冒険者は冬になる前にロイターからは去っているのが普通。私も依頼が無ければ冬のロイターには留まらなかっただろう。
と。
店の入り口の二重扉が開いた。見れば1人の見習い神官が寒そうな顔をして入って来る。
「とっとと、閉めろい!」
吹き込んだ冷たい風に扉近くの冒険者が吠えた。まだ少女の見習い神官は一瞬怯んだが、冒険者を無視して進み、雇われ店長に鞄から取り出した依頼状らしき物を渡す。
そしてこちらを、正確には依頼主のエルフの方を見た。嫌な予感がする。雇われ店長も書類に目を通すと、こちらに頼んでもいないエールを2つ盆に乗せ近づいてきた。
「エルフの嬢さん。大地母神神殿から指名依頼だ」
「冒険者登録はしていません。が、1杯分だけ、お話はうかがいます」
依頼主のエルフはエールを1つこちらに寄越した。
無論、私に拒否権などない。
武器
忍び鎌×1
十字手裏剣×2
煙玉×2 火薬玉×1
防具
忍び鎖帷子等
所持金
金貨13枚、銀貨24枚、銅貨29枚、小銅貨、数枚
私の黒歴史がまた1ページ。




