葡萄
フール視点です。
イリアの髪色は白銀だったりします。
「やっぱり、吊橋落ちてましたね〜」
イリアがそう告げます。夕方近く、村で聞いていた谷の側に着きました。少し雪が降り始めていて、夜営をするには少し谷から離れる必要があるでしょう。ここは風が強すぎます。
「直すにはロープなどの資材と人手が必要です。戻りましょう」
「楓さんは見つかりませんが、仕方がないですね」
私はイリアが無理にでも谷を渡ると言い出さないかと心配していましたが杞憂でした。修道院に何かの脅威があった場合、偵察が出来ない上に前衛が[うにうに]こと、水精しか居ないのでは不安が残ります。
[フール様。吊橋は落とされています。また不死者の気配があります]
近くを索敵させていた水精が念話をしてきました。核に[オリハルコン]を入れてある為、谷の中程まで浮遊して移動しています。
里で召喚術を学んだ先達の水精は核に浮遊貴金属を入れて無いタイプでした。我々エルフを模した二足歩行姿でしたが室内では床が水浸しになりパートナーに度々怒られるとの事。
ただどちらの場合も自力での移動速度は遅く、攻勢には向きません。
「イリア。近くに不死者の気配があるそうです」
「[うにうに]は便利ですね。夜が近いのに不死者はマズイです」
私達は谷から離れて夜営をする事にしました。
☆☆☆
夜。
水精を寝ずの番に立てて天幕内で夕食を取りました。イリアは馬鈴薯と香草のスープを「大地母神殿で神官見習いが食べる食事より数段美味しい」と評しています。
こんな保存食に手を加えたレベルのスープに高評価なのはイリアが厳しい生活を送ってきたからでしょう。それでも[霊感]と神力が7ある事で[歩き巫女]に拾われ、神殿に入れた自分は幸運だと語っていました。
イリアが師と仰ぐ神官は諸国を巡る[歩き巫女]だったのが、呪いを受けて引退し、ロイターで指導神官をしているとの事。前にイリアが[歩き巫女]志望では無いと聞いたのは師の姿を見ているからだと思われます。
「呪いは解けないのですか?」
「[歩き巫女]で、腕利きの[退魔巫女]だった指導神官でも進行を抑えるので精一杯で引退されました。[硝煙の聖女]様なら解けるかも?とは思いますけど……すでに侵食が深すぎて、呪いが解けると死んじゃうと思います」
普段、明るさを絶やさないイリアが珍しく沈んだ様子を見せました。この様な場合は、それ以上深入りしないのが良いでしょう。
[フール様!近くに[転移]を確認。[亡霊騎士]です!]
頭に念話が響きます。[転移]とは……。やはり夜になり不死者が活性化した様です。しかし[亡霊騎士]とは相手が悪い。[通常攻撃無効]の為、水精では足留めしか出来ません。
「イリア![亡霊騎士]が来ます!逃げますよ」
「え!逃げてどうするんです!装備捨てて雪の中逃げても、あの貴族の修道女の二の舞ですよ!」
「私の魔術でも[亡霊騎士]は倒しきれません。貴女の退魔の祈りは強力ですが、滅ぼせなければ白兵され斬られます」
夜の不死者は月と空間魔力の影響で強力になり、さらに[亡霊騎士]など中程度以上の不死者は退魔の祈りに耐性があります。例えイリアが[聖女]でも、祈りだけで一撃必滅とはならないでしょう。
[亡霊騎士]を滅ぼすには、物理攻撃が出来る複数の者に魔力か神聖付与をして攻撃するのがセオリーです。魔剣とその魔剣に相応しい使い手でも居ない限り単独で倒せる相手ではありません。
「フール!時間稼いで下さい!」
が、イリアは自身の背負い袋をひっくり返し始めました。聖水でも探しているのでしょうか?どうやら混乱に襲われてしまった様です。人間の更に、まだ成年していない娘では是非もありません。
私はイリアを諦め弓を持って外に出ました。
☆☆☆
雪が降る中、遠くに赤いオーラを纏った女剣士の姿が見えます。あれが[亡霊騎士]でしょう。水精が超高圧水撃を放っていますが、貫通して開いた穴は直ぐに塞がります。
[魔力付与](使1残7)
[二矢連射]
[通常攻撃無効]の[亡霊騎士]に向け魔力を付与した矢を放ちます。夜とはいえ同族で、この距離を外す者はいません。
そして予想通り一矢目は細剣で払われ、魔力付与された二矢目が[亡霊騎士]の胸に刺さります。同じ軌道で二矢を連射する技術も里から出る同族なら修めている技術。
しかし魔力付与された傷は塞がりはしなかったものの、たいした損傷ではない様です。[亡霊騎士]は目標をこちらに変え歩き始めました。走り出さないのは水精が脚を狙い時間を稼いでいるおかげです。
と。
「ありました。ありましたよ」
叫びながらイリアが天幕を飛び出してきました。手には刃渡り30cm強の古びた短剣。イリアの混乱は続いている様に見えます。
その間に私は[亡霊騎士]に、もう二矢程射込みました。矢は残り六矢。そろそろ装備を捨ててイリアと逃げ出す期限です。
水精回収(使1残4)
魔術により、水精を水筒に呼び戻しました。村まで生き延びれば、僅かながらも再起の目はあります。
「イリア。引きますよ!」
「フール。時間稼ぎバッチリです!」
声が被りました。どうもイリアとは見ている景色が違う様です。
「大地母神よ、その眷属の力、我に貸し与えたまへ、我は乞う『黄泉の雷。黄泉醜女の斬撃』!!」(使5残2)
イリアが短剣を前に掲げて、一寸ばかり抜きました。たしか退魔の技の一つだったはずですが、実際に見るのは初めてです。
見習い神官から昇格したばかりなので、おかっば頭のはずのイリアの姿が刹那の間、白銀の長髪を三つ編みに編み込んだ戦乙女の姿に見えました。
そして僅かに抜かれた短剣からは閃光が迸り、[亡霊騎士]を打ちます。
澄んだ音がしました。イリアが短剣を鞘に納めたのです。全ては、ほんの一瞬の出来事。あたりは風も止み雪だけが無音で降りてきています。
[亡霊騎士]は跡形もなく消え去り、イリアは肩で息をしていました。
「ま、まさか退魔術を使うとは思ってませんでした……。よ、依代に使う退魔の短剣を鞄の底に仕舞っていたのは反省です……」
この娘は神官見習いだけではなく、希少な退魔師見習いでもあった様です。対不死者用に鍛えられた各教団の切札達。
「黄泉醜女の術はお腹が空きます。聞いた話では術後にタケノコや葡萄、桃を貪り食べた話があります。何か食べても良いですか?」
私は携行していた干し葡萄を渡しました。
[硝煙の聖女]とは誰か?
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私の黒歴史がまた1ページ。




