盗人
10-1-1-1-3or4-2≒?
やはりオーガは侮り難い狩人だった。巣穴に籠った害獣であり獲物である私を待ち伏せて、入口の祭壇前から3日動かなかったのだ。
待つ間にアンゼと検討をしたが、帰る事を考えると[フールの羊皮紙]の魔力は後2回ぐらいしか使えない。水は井戸があり問題無いが、食料は不足する。
気温は地下である為、ある程度一定だが、食べねば凍える。人間も竜人も食事からエネルギーを得て熱などを生み出しているのは変わりない。
本来、修道院所有の食料をオーガから盗み運び込まねばならないのは皮肉だが、馬鈴薯一袋と干し肉一袋、塩漬け野菜の小樽を盗めれば2人なら春まで持つ。
無論、警戒モードのオーガから盗めればの話なのだが。
「食料さえあれば、春まで待てばオーガは去ります。オーガは縄張り内を歩き定住しない妖魔ですから。戦う必要など無いのです!」
「食料を盗むには少なくとも、3回はオーガを出し抜く必要があります。オーガに食料庫をねぐらにされたら終わりです」
今後の方針でアンゼは持久策を主張していた。私は窮してしまう前に戦う事を主張する。
遠い聖王国管轄の辺境の修道院。オーガの縄張り内と分かれば、春になっても助けが来ない可能性が捨てきれない。
そしてオーガが3日動かず待ったのを見て、アンゼは不承不承ながらも戦う事に同意した。
前世は社会に負け病を得て、自室で座って死んだ。二度目の人生は戦わずに座して死を待つ事はしない。
☆☆☆
小雪の舞う中、私は雪に半ば埋もれた物置小屋の扉を開けた。オーガは修道院から離れている。アンゼ曰く縄張りの見回り兼、排泄をしに行ったのだろうと言う。
待ち伏せの間、確かに一度も排泄をしていなかった。アンゼ説では臭いでテリトリーを主張するらしいが、本当かは分からない。
物置小屋には雑多に置かれた荷物と、探していたクロスボウ、そして凍死したらしい修道女の死体が二つあった。死体は腐っておらず、恐らくは不死者化している。
恨みや恐怖を抱えて死ぬと[永遠の神]に魅入られやすい。爪が鋭く伸びているので、ゾンビではなく食人鬼。死体のフリをして待ち伏せるぐらいの知恵はあり、間合いに入れば襲いかかってくる。
戦えば倒せなくはない。いや啓示を受けた者ならば不死者は滅ぼすべき者。死者に魂の安寧を与えるべきだ。
が、私はクロスボウと、その備品を掴むと走って逃げた。元修道女達は襲ってきたが、その爪はカスリもしない。避けるだけなら簡単。曲がりなりにも、こちらは忍だ。修道院に向けて、まっすぐ走る。
遠くから[咆哮]が聞こえた。今の修道院の主、オーガが戻って来ている。オーガがグール達を叩き潰す迄の時間を有効に使わせてもらう。
私は食糧庫にも寄り、塩漬け野菜の小樽を盗むとアンゼの待つ地下室に戻った。
☆☆☆
「[咆哮]が聞こえましたが、怪我などはありませんか?」
心配そうにアンゼが出向かえてくれた。私は戦利品を見せながら、にこやかに笑う。元同僚達の事は伏せ、テリトリーに鹿か何か侵入したのだろうとだけ告げた。
その後は[フールの羊皮紙]を使い、二人で暖かい物を食べた。塩漬け野菜と干し肉を戻したスープと焼き馬鈴薯をアンゼは聖都で食べた何よりも美味しいと絶賛する。
家名を名乗ったアンゼは貴族出だろうから、追放前はもっと良い物を食べ飲んでいただろう。無論、食事中に話をしても、そんな事には触れたりはしないが。
アンゼは妖魔研究と禁書に触れた事で異端司祭として追放されたそうだ。聖都図書館の禁書室に入った時に申請外の転生者の書いた医学書を盗み見したという。
「当時、聖都では石化病が流行っていて、欲を出しました。ただ分かったのは私達の医学、薬学は遅れていることです」
エルフのフールが同じ様な事を話していた。神官が居て神聖魔法で傷や病が癒えるならと医学、薬学は発展が遅れるだろう。転生者に医学の心得があり、書き残したのがアンゼの見た禁書だと思う。
ただ[冬火病]の件などもそうだが、この世界の常識にはズレがあり、それを明らかにしない方が良い勢力があることは忘れてはならない。
自室に戻った後、クロスボウを整備して寝た。巻き上げ式の複雑な機構をしていたが、使用に問題は無さそうに見える。
問題はクロスボウを誰がどう使うかだ。
不死者は滅びると砂の様な灰になります。
オーガにとってもアンデッドは食べる所がない厄介な存在です。
私の黒歴史がまた1ページ。




