溜息
[竜回復]
眠っている間に怪我や病が癒えるが、眠る前の残り竜力以上の怪我や病だと発動しない。
また回復中は目覚めない為、無防備な状況になる。
おおよそ竜力1に付き、1日目覚めない。
地下室入口の祭壇近くに辿りついた私は瀕死の重症だった。このままでは死ぬ。いやオーガに殺される。
と、アンゼが危険を犯し祭壇を開けて私を招いた。音響玉から回復したオーガがすぐ近くに迫っていたにもかかわらず。
間一髪、中に滑り込む。
激しく吐血した。肺が傷付いている。入口の祭壇では追ってきたオーガが[鉄パイプ]を振るっていた。入口の祭壇の強度は問題ないはずだが、肝は冷える。
僅かな食料と武器は得たが探索は失敗だった。オーガはしばらく警戒モードだろう。自分の食料を盗む害獣が居ると分かったからだ。
オーガでも冬の食料は貴重だと理解している。いや金銭に執着ない分、食料への執着はオーガの方が純粋だろう。
「至高神よ、この者の、致命傷を、癒し給へ」(使6残0)
動けなくなった私にアンゼが神聖魔法をかけてくれた。潰れた肺や痛んだ内臓、血管は癒えたが、へし折られた肋骨はそのまま。
状態は大破から中破に移行。私は震える声で至高神に祈る。
「至高神よ、我が、肋骨を、正しく固定し給へ」(使5残0)
「え、貴女も至高神の啓示受けてたのですか?」
私が使って見せた神聖魔法にアンゼは驚きの声を上げる。私は司祭には見えないだろうから当然だ。そして肋骨の数は12対24本。一度に治すには神力が5では足りない。
「これ、オーガから盗ってきた食料。食べて。私は寝るから……」
[竜回復](使2残0+0)
私はアンゼには答えず、倒れ込み丸くなった。[竜回復]が使える竜人で良かった……。
☆☆☆
2日後
私は酷い空腹を覚えて目を覚ました。いつの間にか部屋に移動され毛布がかけられている。
「貴女は竜人だったのですね。そして至高神の使徒。竜人は竜を信仰しているとばかり思っていました」
通路で倒れた私をアンゼが部屋まで運んでくれたのだろう。喀血した血と汗で汚れていた服は脱がされている。
「そして全身鍛えられた筋肉。酷く重かったのですよ」
私は礼を言った。が、アンゼは妖魔等の研究者。寝ている間に竜人がどんな肉体をしているか観察していたのは間違いない。
「すいませんが服を」
すると地下にあった修道女服の予備を渡された。異教徒に着せる訳にはいかずとも、同じ至高神の信徒なら問題ないと判断したのだろう。冒険着は後で整えるとして、取り急ぎ袖を通した。
☆
干し肉にチーズとジャガイモのサラダそして水。フールの羊皮紙の魔力は無駄に出来ない為、冷たい食事をした。
もう少し食料は節約した方が良いはずだが、回復を考えたら食べる事は重要だ。材料と燃料がないと肉体は治らない。
しかし、遭遇戦になったとはいえ、オーガにあれ程完敗するとは……。私は戦いを反芻する。手裏剣で眼を狙ったのは失敗だった。
分かりやすく弱点を狙えば、対処も簡単。なので、反応されてしまった。それは足元を狙った攻撃もそう。脇構えからなら簡単に対応出来る。
後の先を得意にしていた剣客に雇われ、正剣聖流道場に出入りしていたのに情けない。
「戒律通りに沈黙して食事。修道女に見えますよ。楓さん」
考えに沈みながら、干し肉を噛み締めているとアンゼから声がかかった。沈黙は戒律など知る由もないから違う。アンゼは話がしたいらしい。
「服も体も洗わないといけませんね。助かりました。正直、オーガを舐めてました」
前世の様に毎日シャワーなり風呂なり入り無臭に過ごすのは、この世界では無理だ。いや[竜の島]なら可能かも知れないが、[竜の島]の方が例外。
それでも衛生上定期的に洗濯と身体を拭うのは必要不可欠。狭かったけど、前世の風呂が恋しい。後、コインランドリーも。
「春まで生き延びたら、修道女になりませんか?冒険者より食べてゆけますよ」
「そう言う、アンゼ殿は冒険者になって自由が欲しいのでは?」
するとアンゼ殿は自嘲気味に笑った。
「そう思っていましたが、私には冒険者は無理ですね」
眠っていた時の様子を聞くと、オーガは《《冷蔵庫の食料》》を食べながら、祭壇近くを動かないと言う。どうりでアンゼは干し肉を食べるのが遅いはずだ。弱肉強食が比喩ではないところを見てしまったのだろう。
「これから、どうなさるのです?」
「戦いますよ。助けは来ないのですから」
「お仲間とかは?」
「一応はおります。が、吊橋が落とされてました。もし様子を見にくるにしても、春までは無理でしょう」
そして谷底では令嬢の従者の成れの果てが亡霊騎士になっている事。令嬢自身は途中衰弱死していた事を告げた。
アンゼは深く溜息をつく。
「勝てるとは思えません」
「白兵戦では厳しいですね。クロスボウがあれば良かったのですが……」
「それなら恐らく物置小屋にあります」
アンゼが言うには吊橋のメンテナンスでロープを渡す為に使い、そのまま物置小屋に放り込んであるらしい。隙を見て回収すれば使えるだろう。
簡単に扱えて非力でも、オーガに通用する打撃力を持つ武器は絶対に必要不可欠だからだ。武器庫に両手剣もあったが私には使えない。
「銃は女性を自由にする」とか言ってたプロパガンダが、今だけは頭のオカシイ戯言だとは思えなくなっている。
「楓さん?」
再び黙り込んだ私にアンゼが遠慮がちに声をかけた。立場の弱い下忍生活で染み付いたのか、元々一人で居るのが平気な為か、どうも会話が続かない。
「座して死を待つ気はありません。至高神も、我らに戦いをお望みでしょう」
アンゼは再び深い溜息をついた。
火薬は忍以外には一般的ではありません。
火縄銃は別名[妖魔筒]と呼ばれていますが、高価な上に命中率は高くありません。
(ダークエルフ率いる妖魔族には正式採用され、ドワーフによる量産が始まっています。命中率や発射間隔は数が揃えば補える為)
私の黒歴史がまた1ページ。




