追憶
甲 里の中核。上忍と、その護衛など。
乙 一般的な下忍。実働部隊。
丙 規格外品の忍。売り物。
丁 里の構成員。扱いは牛馬と変わらない。
「いの3番までは余程の事故でない限り、死なないんだ」
訓練生の中で密やかに囁かれる話。それは公然の秘密だった。「実力が全て」と思われがちな忍の里にも権力者はいる。里の主要な家の子息にも訓練は施されるが、一般の訓練生とは違う。
師範も無茶振りはしないし、評価も甘い。今期は3名程度は甲忍が約束されている。実力で甲忍になる候補は2名。残りの大半は乙忍として任務につく。
記憶が戻ってから5年。訓練生は平均に沿って数を減らし、約半分になった。数日後には最終試験が始まる予定だ。
仲の良かった[への六番]は今期脱落した。酷く足を痛めてしまい適性なしとされてしまったのだ。ただ師範の覚えが良かったので、殺処分はされず丁評価を受け里に残った。
そして私も今、脱落の危機にある。忍の嗜みとして床仕事の訓練もあるのだが、そこで組んだ[いの二番]に気に入られてしまったのだ。
「一緒になってくれないか?」
そう口説かれて困っている。[いの二番]は村の有力者の次男。ただ村外に婚約者がいるから、望まれても愛人どまり。
丁評価を受け入れ、愛人として生きる手もあるが正室のヘイトを受けたり、飽きられたりすれば阿呆薬を盛られ、売られるだろう。
忍の里に人権など無いが、丁の扱いは牛馬と同程度。働けるうちは良いが駄目になったら簡単に処分されてしまう。
しかし有力者の子弟に抗うのはなかなか難しい。忍としての評価も並以下なので、今のままなら望まれたら師範も断らないだろう。もう少し評価を上げて置くべきだったのだ。
「相変わらず不器用だね。三番は」
薬草取りの手を休めて考え込んでいると、後から声がかかった。足萎えの碌と呼ばれる様になった[への六番]だ。
「碌知恵を貸してよ」
最初の床仕事の訓練に選んだのが碌だった。彼が脱落しなければ、[いの二番]の最初の相手が死ななければ、こんな事にはならなかったはずだ。
「彼は村外に婿に出るんだろ?ついていって逃げたら良いじゃないか」
「それが出来れば苦労しない」
彼が婿に入るのは他家の忍の里。そこに他所として入った侍女が、すぐに消えたら大問題になる。
と。私達に近づく2つの気配がした。下手くそな気配消しだ。これらが甲忍になるのかと思うとウンザリする。
「人の女に手を出そうとは良い度胸だな碌」
「滅相も御座いません」
碌が這いつくばって頭を下げる。里の掟では訓練生は丁より立場が弱いはずだが、そんなものは建前に過ぎない。
「四番。碌を斬れ!への三番はこっちに来い」
[いの四番]甲忍候補が忍刀を抜く。赦しを乞う碌は頭を上げないが、このままでは斬られてしまう。
私は持っていた薬草取り用の鎌を構えた。私闘は禁止されているし、馬鹿な事は分かっているが、意地を通さねばならない時もある。
「への三番。お前が四番に敵う訳無いだろ。それに俺に逆らう事になるんだぞ!」
相手の大きさを見て引っ込めるのを意地とは言わない。そんなもの関係なく通すから意地なのだ。
すると、もう一つ気配が現れた。いつからいたのだろう。師範が傍らに立っている。
「痴情の縺れか。未熟者め!が止めはせぬ。殺りあえ!」
「少し早いが[いの四番]、貴様の最終試験とする。[いの二番]は、おのれが命じる事の意味を学べ」
私に対する言及は無い。師範の中では私はただの噛ませ犬。甲忍候補に実戦を積ませ、[いの二番]には仮にも好いた女を殺させた事実を突きつける。効率的な教育の一つに過ぎ無いのだ。
碌は頭を上げたが黙って座っている。彼の立場で出来る事は何も無い。
が、彼は言葉を発した。
「師範。[への三番]も最終試験になりますか?」
「無論」
師範は視線もやらずに呟いた。[いの二番]は困惑しているが、師範が命じた以上は最早、手に負えないとは理解している。
[竜縮地](使1残5)
[竜飛翔](使1残4+1)
[いの四番]が竜力を使い斬り込んできた。不意打ちでの一撃必殺の技だが、竜力の起こりが見えたので、こちらも竜力を使い躱した。
竜人は竜力を使えば人間には出来ない超人的な動きが出来る。ただ隙なく竜力を使うにはコツがいる。大抵の竜人はそこの訓練を怠る。人間相手なら力押しで勝ててしまうからだ。
今期の訓練生の中で竜人は一割程だったが、脱落者は不運な一人しかいない。肉体的には人間と竜人には、それ程の差がある。
私はそれでも鍛錬は欠かさずにいたが[いの四番]は強い。忍の技だけでなく何かの刀術も学んでいる様だ。振るってきた刀が鋭い。
「四番の斬撃を三度も躱すか?」
竜力を使って先を取り、斬り込んでくるのが[いの四番]必殺技らしい。竜力の起こりを見て躱すので怖くないが、このまま互いに竜力を使い切れば刀術の技量に負ける。
私は改めて間合いを開け鎌を後手に仕舞った。竜力があるうちに一か八か仕掛けるしかない。
私の気配の変化に[いの四番]は刀を八方に構えた。まるで剣士の様だ。よし、斬るか斬られるか勝負だ。
[変異抜刀鎌鼬](使3残0+0)
前世の漫画を参考に編み出した私の必殺技。見切られたなら斬られ、そうで無ければ殺す文字通り必殺技。
そして私は賭けに勝った。鎌を喉に突き立てられた[いの四番]は即死し、私は無傷で立っていた。
「貴様、技量を隠しておったな」
私は師範に向け膝を折り頭を垂れた。碌の一言が効き師範は私を罰せられない。私闘ではなく試験だったからだ。
そして数日後、里には居場所がなくなった私は、丙評価の忍とされ外に売りに出される。すぐに買い手がつき、正剣聖流の師範代に裏仕事用に購入された。
私は[楓]の名をもらい里を離れた。碌とは、その後会う事はなかった。
15歳で忍になると名が貰えます。
私の黒歴史がまた1ページ。




