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転生忍びの冬 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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15/15

聖印

赤心≒真心、誠意

 翌日。


 私達[蚕蛾]の3()()は村側に依頼の終了を通告した。[魔道転写]で控えを取った帳簿を提示し、契約完遂のサインを求めたのだ。


 魔術の使えるエルフのフールが居るのだから、最初から帳簿をコピーして示せば良かった気がする。問題無ければ村から逃げる様に去る計画より簡単に済んだはずだ。


 推測だがフールは人間は約束を守らない、信用のない存在と考えているのだろう。イリアの赤心に触れて初めて、村側と話し合う気になった様に見えた。



「ちょと待ってくれ。もうロイターに帰るのか?」


「まだ冬もなかば。このまま春まで居てくれても構わない」


「大地母神殿が受けた依頼は疫病の治療。原因が取り除かれ、処置も済んだなら契約は終わりです」


 村長代理と取り巻き、フールとイリアがテーブルに着き話し合いをしている。引き留めようとする村側と契約終了を通達した私達の議論は平行線だ。


 村側が数人で話すのに対し、こちらは実質フールが1人で答えている。村側の実態、本音の人間を知るのはイリアには良い経験だろう。


「この村には神官も司祭も居ない。また不死者アンデッドが出るかも知れない」


「神官の越冬契約を結ぶなら、改めて書面と金額を示して下さい。下級神官1人だとして相場は幾らですか?イリア」


「下級神官1人。護衛別で金貨10枚です。護衛込みなら15枚。祈祷は込みですが、その他、治療などは別料金です」


 打ち合わせ通りイリアが淀みなく答えた。昨夜の想定を越える話は出ていない。


「付け加えるなら、基本は一括前金です」


「ちょと待ってくれ。そもそも疫病治療に越冬も含まれてるだろう」


「そうだ。大抵疫病の治療は一冬はかかる。金貨100枚と高額だし越冬込みだ」


 確かにフールの知識が無ければ[冬火病]の治療は時間がかかっただろう。だが契約書面の村側の写しに、そんな文面はない。


 この場の村側で文字が読み書き出来るのが村長代理1人だけなので、書いてないことが明白でも無理筋な主張をしてくる。


「あの、今まではどうしていたのですか?」


 話づめのフールが喉を潤す為に白湯を飲む間にイリアが尋ねた。これだけ雪深いと冬は神官を呼ぶのは不可能。とはいえ、[永遠ふししゃの神]が冬休みを取る訳ではない。


「東に3日行った[至高神]聖王国派の女子修道院と例年は越冬契約を結んでいたんだが……」


 聞けば修道院には啓示を受けた院長と老修道女が居て、例年は老修道女が来ていたそうだ。だが昨冬に老修道女が亡くなって今年は誰も来ていないとの事。


「秋に村から修道院に金貨20枚を喜捨する代わりに司祭を寄こす契約になってんだ」


「ちょと待ってくれ。院長は来るのは無理だろ?」


「契約違反だ!聖王国から来た司祭が居るはずだ」


「契約違反なら、返金されるんじゃないか?」


 イリアの一言ひとことで村側が騒ぎ初めてしまった。お代わりした白湯を手にフールは面倒くさそうな目をして沈黙している。


「だが、どうする修道院には至高神教徒しか入れない」


 しばらく放っておくと、イリアと金貨20枚で越冬契約を結ぶ事を提案してきた。ただし支払いは修道院からの返金から充当する事を条件として。


「ギルドも神殿も通さない契約になりますね。良いでしょう。回収は自力で行います」


 フールがウンザリした表情を隠さずに宣言をした。一瞬こちらを見たので、悪い予感がする。そして契約の細部を詰めるべく新たな話し合いが始まった。


☆☆☆


「村長代理は修道院長宛に賠償金込み10%で金貨22枚の返還請求書を書いてくれましたけど……」


 イリアが示した書類をフールが確認し[魔道転写]で控えを作っている。そしてサインの入った[冬火病]の契約完了書類も同じく複写した。


「これで帰還準備は出来ました」


 フールが更に一枚[魔道転写]で書類を作ってイリアに渡す。村側と[蚕蛾]で結んだ契約書だ。


「え?帰還準備ですか?」


「そうです。楓には一働きしてもらう必要がありますが……」


 改めて村側との契約書を確認した。すると当たり前に次の文書が入っていた。


[ナネタ村と聖女修道院の間に債権が確認出来ない場合。この契約は無効になる]


「村と修道院の[越冬契約]は書面がありませんでした。修道院側は喜捨は[越冬契約]の見返りではないと主張するでしょう」


 そして私には返還請求書と越冬契約債権確認書を手渡してきた。修道院長が債権を認め返還請求書にサインすれば良し。春まで村で過ごし追加報酬をもらう。


 拒絶して債権確認書に債権は存在しないとサインしても良し。それを持って村を立ち去り、本来の報酬をもらう。


 ただ、その為には修道院長に会い確認を取らなくてはならない。イリアは確認が終わるまで村に居なくていけないし、護衛も必要だろう。


 つまり私は2通の書類を持ち、1人で修道院を訪ねなければならない。普段で片道3日の雪深い道を越えて。


「でも、修道院には至高神教徒しか入れないんじゃ……」


「楓。聖印を」


 私はポシェットに入れていた至高神の聖印を出して見せた。神聖魔法を使うにも、聖印は見せびらかす必要はなく、持ってさえいれば良い。


「えー!至高神の啓示受けてるじゃ無いですか!なんで隠してたんです?」


「楓の奥の手です。貴女の[霊視]と同じく」


 啓示を受けている者は聖印を見れば、その持ち主が啓示を受けているかどうかが分かる。だから啓示を受けたと偽る者は聖印を見せない。


 こうして私は修道院に単独で、向かう事になった。



閉ざされた社会だと、自分達に都合の良い解釈をしがちです。

報酬を払うので「春まで居て下さい」ですし、疫病治療にも秋の喜捨にも越冬は含まれてません。


現実でも、閉ざされた社会で労働基準法さえ捻じ曲げる者が居たりします…………。


私の黒歴史がまた1ページ。

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