希望
お酒は20歳になってから。
また現実世界では消毒液は通常工業生産されたメチルアルコールですので飲んではいけません!!
体内の分解過程で酢酸ではなく蟻酸になり、神経を痛めます。
「は、ハクチョン!」
イリアが可愛らしくクシャミをした。フールから渡された消毒液を二口飲んだ後、イリアは暖められた村の集会所で毛布に包まり震えている。顔色が、あまり変わらないのは寒さの為か、アルコールに強い為かは分からない。
食事の準備をしている村の女達は、そんなイリアを畏敬の念で見つめている。村長代理と取り巻き達も、態度を一変させていた。
「忍法[竜舌花]の出番はありませんでしたね」
「はい。イリアが実力で捩じ伏せましたので」
小声でフールと使わなかった忍術の話をする。昨夜の計画ではイリアの事を[聖女候補]にも挙がる天才と偽り、村人に信じさせて安全をはかる気でいた。
里で学んだ忍法[竜舌花]。恐らく[竜舌禍]を読み替えたのだろうが、嘘偽りで人心を操る技術だ。教育が発達していた前世でさえ、荒唐無稽な話を信じさせる方法はあった。
エルフであるフールの神秘性と信用を使い、数日で村人達にイリアを天才だと信じさせる計画だったが、その必要は無くなった。
それこそ一刻かからず、イリアが自力で天からの才能を示してみせたからだ。もちろんイリアの見せた真摯で敬虔な態度も影響している。
私が至高神に対して敬遠な態度をとっているのとは大きな違いだ。向こうも「神聖魔法を願う時だけ祈るなコイツ」とか思っているかも知れない。まぁ神様だから寛い心でいてくれるだろう。
「神官様。エルフ様。食事の用意が出来ました」
村の女達が暖かいスープと茹でた馬鈴薯をテーブルに並べ始めた。スープには貴重な野菜と肉が多く煮込まれている。
私は下人扱いだから、席が無いのは仕方がないとして食事は温かい物が出ないだろうか?そんな事を考えていると、村娘の1人に肩をつつかれた。
「あたし達はこっち。冷める前に食べよう」
フールに視線を飛ばすと、微かに頷く。ひとまず護衛はフールに任せて大丈夫そうだ。いざとなれば水精もいる。
「食事の後、村人を集めて下さい」
イリアの声を背に私は暖かな集会所を離れた。
☆☆☆
「下人さん。これ昨日の宴会の残り」
村長宅の台所の隅で、私は使用人達や手伝いに駆り出されてきた村の女性達と共に食事をとる。勝手口から少し隙間風が入るが、それ以上にオーブンなどの火があるので暖かい。
差し出された腸詰めを有り難く頂くと肉汁が溢れでて美味い。これでエールを飲めたなら最高なのだが、それについては望むべくもない。
「聞いた?不死者が出たんだって」
「猟師のヴァルだったらしいよ」
男性がいない女性だけの台所では噂や本音が飛び交う。耳を澄ませれば村の内情が見ることが可能だ。
先代村長が亡くなり村長代理になってから、宴会ばかりしているとか、教団が金貨100枚に見合う神官とエルフを送ってくるとは思ってなかったとか話している。
「下人さんは冒険者でしょ?神官様呼びに行った冒険者はどうなった知ってる?」
腸詰めを勧めてくれた若い使用人が尋ねてきた。さて、本当の事を答えるか?濁した方が良いか?どうしよう。
イリアに聞いた話では生きて辿り着いたのは一人。その一人も凍傷が酷く冒険者を続けるのは難しいだろうとの事。
「私はエルフのフール様に雇われただけだから詳しい事は知らない」
咄嗟に濁す事にした。冒険者が道半ばで倒れるのは日常茶飯事とはいえ、それを改めて示す必要はない。
「そう……」
「諦めなって。冒険者と行商人には惚れても無駄さね」
年配の女性が若い使用人の背中を強めに叩く。どうやら正解だった様だ。辛い現実から連れ出してくれる者を夢想するぐらいの自由は使用人にもあって良いはずだ。
「そう言えば村で病が流行っているらしいけど、どんな病?」
「あぁ、その為に来たんだもんね。あんたの御主人様方は」
私が病を恐れる風に尋ねると、年配の女性が声を潜めて教えてくれた。症状は予測通り[冬火病]こと[麦角病]。ただ予測と違ったのは、何となく原因を掴んでいる事だった。
「麦が足りないからって、黒い麦までパンにして食うからさ。修道院の司祭様に止められてたのに」
「心配ないさ。芋だけしか食べられないアタシら使用人には病になった者はいないよ」
そう言って私の背中を叩いてくる。どうやら癖らしいが、けっこう痛い。
麦は小麦もライ麦も粉にしているのは僅かで、麦穂で保存しているそうなので対応は簡単そうだ。手間はかかるだろうが。
「村長代理が集会所に皆集まれってさ」
イリアとフールが[冬火病]の話をするのだろう。私は食事の感謝を伝え、食器を片付けると席を立った。
敬虔 深く敬う態度
敬遠 敬う態度をしつつ遠ざける態度
ボヤキ
〘何を間違えましたかね……イリアさんと交換しませんか?〙
〘忍は現実主義でないと、生き残れないんですよ。イリアの推薦には感謝します〙
私の黒歴史がまた1ページ。




