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転生忍びの冬 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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11/16

霊視

お読み下さる方々へ。

今年もよろしくお願いいたします。


おのぼり冒険者

駆け出し冒険者や実力のない冒険者への蔑称で使われる。

農村で食い詰めた者が冒険者になる為に、街に出て来る事から[おのぼり]と言われる

 翌朝。


 昨夜の偵察を踏まえて早朝に私達はナネタ村に入った。村長代理とその取り巻きが昨夜、床下に忍んだ集会所に案内してくれる。


 派遣された神官が若い下級神官のイリアと分かると、露骨に溜息をつく者もいた。


 だが護衛と称していたフールが防寒着のフードを取りエルフと分かると、どよめきと共に目配せがされた。エルフなら捕らえて売れば金貨100枚など取り返して釣りがくる。無論、そんな事をさせる気は微塵もないが。


「神官様。雪の中おいで下さり、ありがとうございます。この村に宿はありやせんが、この集会所を自由にお使いくだされ」


「…………」


「お気遣いありがとうございます。依頼書ではやまいでお困りとの事。荷を解きましたら、早速診療に入らせていただきます」


 何故か黙ったままのイリアに変わりフールが淀みなく答えた。私はその間にも集会所に荷を置き、テントを張り始める。プライベートスペースと診療スペースを分けるにはテントを張ってしまうのが手っ取り早い。


「その前に朝食を準備させやしょう。こんな村でも、旅の保存食よりはマシな物が出せます」


 と、突然。今まで黙っていたイリアが奇妙な事を語り始めた。イリアは人見知りするタイプではないので沈黙は不自然に思っていたのだが……。


「右頬に銀貨ぐらいのシミがある老人と、左目下にホクロのある女性に心当たりありませんか?」


 すると、村長代理とその隣に居た男がギョッとした顔をする。食事を運び込んでいた女達も足を止めた。


「えーと、神官様。亡くなった村長おやじの右頬にそんなシミがありやした」


「今回の病で子が流れた後、死んだ俺の嫁さんがそうだ」


 街から神官とエルフが来たと、村民が集まり始めていたが、イリアの言葉に、ざわつきが拡がる。


「では、右手の中指のない男には?亡くなった村長さんらは何処に埋葬されてますか?」


 イリアの切迫せっぱくした物言いに、集まりつつあった村人は完全に呑まれている。フールは私に目配せをした。イリアが何かおかしい。


「中指のないのは猟師だったヴァルだ。弓で使う中指が[冬火]で焼かれダメになり、先日、首をくくったよ」


「皆、この冬に死んだ者達だ」


「春になったら埋葬し直す予定だが、今は村の外れの雪の中に仮で埋めてある」


 村人が口々に話す。イリアは防寒着も着ずに集会所を飛び出した。これはマズイかも知れない。私も防寒着を着る間もないまま追いかける。


 後からは慌てた感じの村長代理や村人がついてくる。()()()導かれる様にして走ってきたイリアが村外れで止まった。


「なんてこと……」


 見ると雪が掘り返され、遺体が散乱している。そして寒さで腐敗が進んでいない遺体には囓られた様な跡が残っていた。


☆☆☆


「大地母神よ、死せる魂に安寧を……」


 イリアは死者に対する祈祷を始めていた。追いついた村人が慌てた感じで遺体を整えている。


 前世の弔いは死者よりも残された生者に対する儀式だったが、こちらの世界では死者に対する儀式だ。この世界では死者をいたむ行為には前世と違い確かな意味がある。


 この世界には[永遠の神]と呼ばれる神がいて、魅入られた二足歩行の死者は不死者アンデッドになる。だが[永遠の神]は他の神々を嫌っていて、他の神の印の付いた魂は不死者にならない。


 祈祷は死者の魂に印を付けて不死者化を防ぐ為の大切な儀式になる。


「なぁ、ちっといいか?」

「あぁ、ヴァルの遺体がねえ」


 村長代理の取り巻きが小声で囁きあっている。またチラチラと雪が降りだした。後から近づいてきたフールが防寒着のコートを差し出してきたので袖を通す。


「足跡は追えますか?」


「はい。ですが、必要ないかと」


 私の返答にフールが首を傾げた。こんな時だが凄く絵になっている。やっぱりエルフは存在がチートだ。


 私はそっと十字手裏剣を懐から出す。実は不死者アンデッド相手に通常なら手裏剣は効き目が薄い。手裏剣が刺さっても不死者アンデッド痛痒を感じないからだ。


 だが私には啓示を受けていると言う奥の手がある。神聖魔法を付与した手裏剣なら痛痒に関係なく不死者を倒せるだろう。


 無論、世界には痛痒を感じる高位不死者も存在するが、そんな相手ならわたしが相手にするのは間違っている。それにそんな存在には会ったら逃げるのが正解。

逃げ切れるものならばだが。


「あ、あれを見てくれ!ヴァ、ヴァルだ!」


 村長代理が村の外を指さす。そこには青白い顔と、それに似合わぬ飢えを抱えギラついた目をした男がたたんでいた。男の手には鋭い爪がえそろっていたが、右手側は一本少ない。


「逃げろ!」


食人鬼グールですね」


 フールの落ち着いた声が村人達の悲鳴に混じらずに響く、食人鬼グールが喰らうのは基本死者だが、生者も殺してから喰う。


 人間だった時より格段に強化される肉体と鋭い牙と爪、それでいて感覚的は不死者アンデッドらしく痛痒を感じない。()()()()冒険者では手に負えない相手だ。


「至高神よ、我が十……」


 私は相手との間合いを測り、小声で至高神の加護を願い始めたが、それを排する大声で、イリアが朗々と叫ぶ。


「大地母神よ、永遠なるヴァルに、死の恩寵を、授け給え!」(使1残6)


 イリアは防寒着なしの下級神官着の為、不死者と変わらぬ様な青白い顔をしているが、みなぎる生気は比べるまでもない。


 掲げた手には大地母神の聖印が握られ、白く、ただ白く輝いている。


 対してイリアに飛びかからんと、走りだしていた食人鬼グールは、ピタリと足を止めた。


 悲鳴をあげて逃げ出そうとしていた村人達は足を止め、私も至高神への祈りを放り出し、その光景に見入る。



 風が吹く。雪混じりの風が吹く。立ちどまった食人鬼グールが風に吹かれ崩れてゆく。


 余程の実力差がない限り、不死者アンデッドを祈りだけで退けるのは難しい。最下級の不死者アンデッドであるゾンビやスケルトンならまだしも、食人鬼グールとなれば、なおさらだ。


 啓示を受けて半月強の下級神官が見せる実力ではない。フールも珍しく驚きを表情に浮かべている。イリアは思わぬ拾い者かもしれない。


彷徨う雑霊や残留思念が見える[霊視]の天啓は神官や司祭としては得難い才能です。

そして教団は[霊視][霊聴]持ちと分かると対不死者用の退魔師にしたがります。

下っ端の退魔師は消耗率の高い役職です。

(イリアは[歩き巫女]になると、結果として不死者退治の旅になるだろうと予測して恐れています)


私の黒歴史がまた1ページ。

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