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転生忍びの冬 這いずり回る冒険者  作者: 弓納持水面


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10/15

偵察

お酒は20才になってから。

 ロイターを出て17日目。ようやく森を抜けナネタ村の見える丘の上に到着した。天候は晴れ。夕日に照らされる村からは炊飯の煙が上がっている。


「ここで夜営しましょう。今からでは村に入るのが夜になってしまいます」


「たしかに夜の到着は迷惑ですね。[ミリバール]は高めで安定してます。明日も晴れますよ」


 フールとイリアが背負っていた荷物を降ろす。私は頷いてテントの設営を始めた。こちらから向こうが見える様に向こうからも、こちらが見えるだろう。本格的な仕事はこれからだ。後で2人と話さないといけない。


「さて。最初の正念場ですね」


 四半刻で設営を終え、夕食を取り始めた時にフールが呟いた。今回の旅で初めて水精ウンディーネを外に出している。


 回復した今なら、急に吹雪いたりしない限り水精ウンディーネは凍ったりしないらしい。フールは少し黙って虚空を眺めた後、私に村の偵察を命じた。


「迎えが出ていません。様子を見てきて下さい」


御意ぎょい


 やはり、そうなったか。今宵は十七夜。それに竜人の私には[竜暗視]もあるから簡単な任務ではある。ただ大丈夫なら明日は足跡が見つかる前に村に入り、駄目なら去る様にしないといけないのが面倒ではあるが。


 すると、今まで黙って干し肉をんでいたイリアが首を傾げつつ話出す。


「あの、もしかして……依頼を。村を疑ってます?」


「もちろんです。往復1ヶ月以上。冷静になるには充分な時間です」


「ええ![冬火病]で困ってるんじゃ。それに正式な文書でしたよ?」


「だからです。かかった費用は村持ちでしょう?負担に耐えかねると考えたら、私達は『来なかった』が一番安く上がります」


 大地母神教団は従者に金貨10枚ポンとくれる様な優しい組織じゃない。かかった費用を必ず回収出来ると踏んでいるから気前が良いのだ。教団としては債権は現金か農作物で必ず回収するだろう。


「じゃあ、じゃあ、薬や神聖魔法を使ったら必ず記録する様に言われたのは……」


「それを元に費用請求する為です。ただ、そうすると[冬火病]が、()()()()()()()までは歓迎されるかも知れませんね」


 イリアは最初驚いた顔をしていたが、やがて顔色が青褪めてゆく。どうやら使命感などで高揚していた気持ちが醒めて冷静になったらしい。


「あ、あの、私どうすれば?」


「取り敢えず、これをゆっくり一口飲んで下さい。[蚕蛾]も一蓮托生。悪い様にはしません」


 人間の愚かさや醜さを知ってますよ。と言った顔のフールがドワーフの火酒の入った水筒を開け渡す。それを一口飲んだイリアは咳き込みもせずに話した。


「やっぱり、消毒液じゃないですか」


 そして、もう一口ゆっくりと飲む。「マズイ、もう一杯」と何故か前世の動画が頭に浮かんだ。イリアはイケる口かも知れないが、こちらの世界でも未成年だから、気付け薬以上に飲ませるのは良くないだろう。


 そんなやり取りを背にしながら、私はそっとテントを出た。


☆☆☆


 寒い。


 やはり防寒着なしだと寒い。とはいえ豚は飛ばずとも豚だが、着膨れして動けない忍びなど、ただの豚にも劣る。


[竜暗視](使1残4+1)


 少し遅れて登ってきた月光が村を照らしていた。雪原は音一つ無い。私は翔ぶ様に雪原を駆ける。


 雪道を歩けば一刻半はかかる道程みちのりを半刻で駆けた。村には申し訳程度の柵があるが、これではゴブリンぐらいしか防げないだろう。


 柵を飛び越え、なるべく足跡を残さない様に村に入ってゆく。大半の家は静まりかえっているが、一件だけ煙突から煙が上がり、複数の声がする家がある。


 恐らく村の集会所だろう。隣の村長宅と繋がっている。私は周りを見渡すと少し雪を掘り床下に入り込んだ。



「エールは皆にいったか?」


「軽く食べながら話そう」


 エールと茹でられた腸詰めの香りがする。人数は15〜16人。村の若衆らしい。


「ようやく神官様が来たみたいだ」


「今更か?俺の子は病で流れちまったよ!」


「村外れの丘にテントを張ってる。見習いと下人を連れてる様に見えた」


「金貨100枚で3人か?」


「亡くなった村長オヤジが呼んだんだがどうする?」


「冬火に焼かれたところは戻らないんだろ?」


「だが処置と治療は必要だ」


 金貨100枚分の債権とは教団は貪欲だ。しかも当初はイリア抜きで前金15枚とギルド手数料3枚、経費負担のみ。そして失敗しても教団は痛くなく、村との契約は残る。


 いや、今でも使い捨てても痛くない神官見習い上がりのイリアを足しただけ。私達を派遣した時点で冒険者の店ギルドに記録は残り、教団は債務を履行した事になる。


「先ずは治療してもらおう。金貨100枚が無駄になる」


「その後は女3人だ。来なかった事にして妖魔族あたりに売れば、いくらかは回収出来る」


「神官だろ?神罰があるかも」


「東の修道院に頼んで至高神の司祭でも招きゃいい」


 どいつもこいつも。フールの冷めた対応も分かる。エルフならざる身でも、人間の貪欲さには反吐へどが出そうだ。


「決まりだな。明日は神官様一行を歓迎しよう」


 さてどうしようか?


 いきなり殺される心配は無くなった。だが状況は悪い。ただ引き返せば教団への債務不履行で困るのはフールと私の二人になる。


 とはいえ、放置すれば牙を剥く村に知らぬふりして入り治療までするのか?フールも最初の正念場とは言ったものだ。


 私は村から抜け出し、テントに向かい駆けた。



ナネタ村の前村長は「村に疫病が広まり難儀している。ついては治療の為の人を金貨100枚()()で派遣して欲しい」と依頼。

ロクな装備もなくロイターに向かった村にいた数人の冒険者は凍傷だらけの1人だけが辿り着きました。


お読み下さる方々へ。

今年も一年ありがとうございました。

良いお年を。


私の黒歴史がまた1ページ。

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