第8話 神?いや石さん、取り合われる
俺は縄と紙垂を巻かれた、雨ざらしの磐座。
恋の三角関係を傍観してきたけど……今日は様子が違う。
なんか、二人の少女が同時にこっちに向かって歩いてくるんだが。
……おいおい、まさか俺、取り合われるのか?
昼下がり。
石畳は陽に温められ、風は心地よい……はずが、俺には関係ない。
なにせ動けないし、石肌は常に冷たいまま。
そんな俺の視界に、同時に二つの影が伸びてきた。
足音で分かる──例の二人の少女だ。
二人は俺の前でピタリと止まり、互いに無言でにらみ合う。
その間、注連縄と紙垂が風にパサパサと揺れる音だけが響く。
「……先にお願いするのは私だから」
「は? 私の方が先に来た日数多いし!」
……ちょっと待て。
俺、参拝予約制じゃないぞ。フリー参拝だぞ。
「石さんは、私の話を聞いてくれるんだから!」
「何言ってんの、石さんは私の味方!」
おいおいおい、俺は公共物だ。誰かの所有物じゃない。
このままだと「石さん争奪戦」が開幕しそうだ。
(念話モード、オン)
「落ち着け。俺はみんなの石だ。共有物だ」
「ほら! やっぱり私の味方!」
「違うでしょ! それ、私に言ったんだよ!」
……だめだ、この二人、解釈が自分都合すぎる。
結局、二人は「石さんにどっちがふさわしいか」を語り始めた。
料理の腕だの、気遣いの細やかさだの……
なんで俺、嫁候補みたいに査定されてんの?
最終的に、「じゃあ一緒に願おう」という謎の結論に。
二人並んで正座し、同時に目を閉じる。
「石さん、あの人が幸せになりますように」
「そして、私が選ばれますように」
……結局そこかよ。
俺の信仰度は一気に上がったが、代わりに胃(※石にない)への負担も上昇。
三角関係、まだまだ続きそうだ。
今回は、まさかの「石さん争奪戦」回。
本人(石)はまったく望んでないのに、妙な人気だけ上がっていきます。
信仰度アップは嬉しいけど、恋愛模様の修羅場も確実に加速。
次回は、ついに当の“あの人”が再び登場する予定です。