第63話 石さんと御朱印パニック
ある日、街の神社で「特別御朱印」が頒布されると聞きつけた人々が、石さんの元にも殺到した。
でも…石さんは御朱印を書けるわけじゃない。そこで、なぜかクミコが立ち上がる。
朝から境内は長蛇の列。
理由は「月に一度の特別御朱印」。
金色の印と手描きの絵が入っていて、参拝客の心をくすぐる逸品だ。
そんな中、なぜか石さんの前にも行列ができていた。
「石さん御朱印はどこでもらえますか?」
「石さんの印は限定らしいわよ」
……そんなもの、存在しない。
しかし噂は恐ろしい。誰かがSNSで「石さんの御朱印、超レア」と書き込み、あっという間に拡散されたのだ。
困惑する石さんを横目に、クミコがニヤリ。
「任せて! 私が作る!」
そして始まった“石さん御朱印制作会”。
用意されたのは朱肉、筆ペン、そして…石さんの足元から拾った小石。
「この石、石さんの一部ってことにすれば、ご利益あるでしょ!」
参拝客は次々に御朱印帳を差し出す。
クミコは筆ペンで「石」と書き、小石を軽く朱肉に押してペタッ。
謎の“石印”が完成するたび、「おぉ〜!」と歓声が上がる。
そのうち、もっと凝ったバージョンが出てきた。
小鳥型、小判型、ハート型…形の違う小石を選んで押す“推し石印”まで登場。
一部の人は御朱印帳を飛び出して腕や額に押してもらい、写真を撮っていた。
石さんはというと——
(…これ、ただの石ころじゃ)
と心の中でつぶやくが、声は小さく、誰にも届かない。
夕方、特別御朱印の頒布は終わったが、石さん御朱印の列は最後まで途切れなかった。
帰り際、子どもが「石さん、今日もありがと!」と手を振る。
(……まあ、笑顔が見られたならいいか)
と、小さくため息をつく石さんだった。
公式でもないのに勝手に生まれた「石さん御朱印」。
でも、その日だけは本家より人気だったとか…?
来月もまたやる気満々のクミコに、石さんは頭が痛くなる予感がしていた。




