第57話 おみくじ編・第1回 怪しいおみくじ登場
石さんの静かな一日は、たいてい何も起こらずに終わります。
……が、今日は朝から妙な気配。そう、これはきっと“平穏終了の鐘”が鳴った瞬間でした。
朝の柔らかな日差しの中、クミコさんが境内を掃きながら「あれ?」と足を止めた。
石さんのすぐ横に、見慣れない木箱が置かれている。上には墨ででっかく「超当たる!おみくじ」と書かれた札。
「石さん、これ…いつの間に?」
石さんはいつもの低い声で、石らしい簡潔さで返す。
「知らん」
とりあえず引いてみるか、とクミコさんは小銭を入れ、竹筒を振って番号札を出す。
『今日、三時に猫が足元を横切る』――なんとも地味な予言。
「ふふ、可愛いじゃん」なんて笑っていたが、その日の午後三時、商店街帰りのクミコさんの足元を、見事に黒猫が横切った。
「うわ、本当に当たった!」
この一部始終を見ていた近所のおばちゃんが「あらまぁ!」と声を上げ、そのまま口コミが爆速拡散。
夕方には境内がミニ縁日状態になり、列の最後尾は鳥居の外まで伸びていた。
「石さんのおかげで当たるんだ!」と誰かが叫ぶ。
石さんは、少しだけ間を置いてぼそっと返す。
「いや、知らん」
引いたおみくじが的中し、歓声と悲鳴が入り混じる境内。
『午後から雨』『財布を落とす』『突然のラッキー』…予言が的中するたび、人々は笑ったり泣いたり忙しい。
夜になっても人波は絶えず、提灯の明かりの中でクミコさんは汗だく。
「これ、いつまで続くのかなぁ…」
石さんは微動だにせず、ただ月を見上げて一言。
「知らん」
こうして石さんの足元に、新たな騒動の幕が下りたのだった。
平穏なはずの境内が、一瞬で「おみくじテーマパーク」になった今回。
石さん、また無関係なまま祭りの中心に立たされました。
次回は、この“当たりすぎる”おみくじが、どう人々を振り回すのか…お楽しみに。




