第5話 神?いや石さん、恋のキューピッドになる
俺は、縄と紙垂を巻かれた“ただの石”だ。
屋根も壁もない、ぽつんと鎮座する神社のような場所──社はなく、俺だけが主役。
雨ざらし、風ざらし、鳥のフン付き(時々)という過酷な環境だが、
今日も今日とて、そこに人はやってくる。
そして今日は……恋の相談らしい。
縄と紙垂を巻かれ、ただそこにあるだけの俺。
社はない。屋根もない。
神社というより“石がある場所”──それが俺の勤務地だ。
雨も風も直撃。
夏は焼かれ、冬は凍る。
……ま、慣れたけどな。
そんな俺のもとに、コツコツと足音が近づく。
現れたのは十五、六の少女。
雨上がりの光に頬が赤く染まり、落ち着かない様子。
あー……これ、恋してる顔だな。
少女は俺の前に正座し、両手を合わせて目を閉じる。
「……石さん。私、あの人のことが好きです。
でも、どうしても話しかけられません。
お祭りの日までに、一言でいいから話せますように……」
──来たな、恋愛相談。
俺、石だから恋愛経験はゼロだが、35億年分の人間観察はしてきた。
つまりちょっとしたアドバイスくらいはできる……はず。
(念話モード、オン)
「相手の好きそうなことを聞け。自分の話より、まず相手の話を引き出すのだ」
少女は一瞬きょとんとしたが、やがてコクリとうなずいた。
数日後──
その少女は、俺の前で練習していた“質問攻め作戦”を実行。
結果、彼と自然に会話が弾み、お祭りの日には二人で並んで歩いていた。
「……やるじゃん、俺」
よし、石の株が上がったな──と思ったその時。
別の少女が俺の前にやってきた。
「石さん。私、あの人のことが好きなんですけど……」
……おい待て、その“あの人”って、今まさにお祭りで笑顔で歩いてるアイツだろ。
俺の中で警報が鳴る。
石は動けない。
石は逃げられない。
石はただ──これから始まる三角関係の修羅場を、最前列で観察するしかなかった。
今回は、石さんがまさかの恋愛キューピッド……そして火種製造機に。
恋の成就と、次なる修羅場は紙一重です。
神?いや石さんのステータスは微増しましたが、
信仰度と人間模様の複雑さも同時にアップ。
次回も、この石のもとにどんな願いが届くのか、お楽しみに。