第4話 鬼ごっこの鬼から脱却。神?いや石のお告げ
今日も今日とて、俺の目の前(正確には石の目の前)で、街の子どもたちが元気いっぱいに遊んでいる。
石になってからというもの、日課のひとつは「眺める」──いや、「優しく見守る」こと。
ところがこの日、一人の少年が俺の前に立ち……とんでもなく純粋な願いを口にした。
今日も子どもたちは元気だ。
鬼ごっこ、縄跳び、石蹴り──遊びがコロコロ変わる。
そして今は鬼ごっこ中。
……ただ一つ、気になることがある。
「おい……あの子、ずっと鬼じゃない?」
そう、ハヤトという少年が、昼から夕暮れまで鬼のまま。
他の子どもは「ハヤトって名前のくせにノロトだな〜!」と笑っている。
ハヤトも笑っていたが……どこか寂しそうな笑顔だった。
やがて子どもたちは帰宅。
最後に残ったのは、ハヤト一人。
そして──
「お? なんだ? 俺を蹴り飛ばすつもりか?」
(石なので避けられない)
緊張が走る。
……が、ハヤトは俺の前で静かに手を合わせた。
「え? 浣腸じゃないの?」
(いや石にそれは無理)
目を閉じたハヤトは、心の中でこう願った。
「ハヤトといいます。石さん、どうしたら足が速くなりますか?
僕は鬼ごっこでみんなを捕まえられません。
名前のように足が速くなりたいです。
本当は“ノロト”と言われるのがつらいです。
どうか、足が速くなりますように……」
……めっちゃいい子やんけ。
蹴られると思ってごめん、俺。
よし、石の力……はないけど、こうなったら俺の知識で応えるしかない。
(念話送信モード、オン)
「足を高く上げて、腕をしっかり振れ。毎日努力しなさい」
ハヤトは一瞬キョトンとしたが、すぐに真剣な顔で「わかりました!」と答えた。
それから一週間──
ハヤトは毎日、俺の前で走り込み。
フォームを見て、心の中で「もっと腕を!」「足首を柔らかく!」とアドバイス。
まさかのマンツーマン石コーチ生活が始まった。
そして一ヶ月後──
鬼ごっこ再び。
……ハヤト、速い。
速くなってる!
ついに鬼を脱却!
その瞬間、ハヤトの笑顔も、友達の笑顔も、全力で輝いていた。
友達が言う。
「ハヤト、足速くなったんじゃね?」
ハヤトは胸を張って言った。
「神?いや石さんに、お告げをもらったんだ!」
……ちょ、おま、それ言うんか。
信じる子もいれば、「そんなのあるわけない」と言う子もいたが、確実に俺の信仰ポイントは微増。
──なお、この出来事がきっかけで、ハヤトが将来オリンピック選手になるかもしれない。
いや、ならないかもしれない。
(どっちやねん)
今日もまた、神?いや石さんのステータスは、ほんのちょっとだけ上昇していた。
第4話は、純粋な少年ハヤトとの交流回でした。
「努力すれば変われる」というのは人間の素晴らしいところ……石から見てもそう思う。
それにしても、まさか自分が“鬼ごっこ専属コーチ”になるとは。
人生(石生?)何が起こるかわかりませんね。
次回も、街の人々とのちょっと変わったやり取りをお届けします。
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