【第36話】石さんお仕事依頼編③ 〜見えない落とし物〜
今日の依頼は、街の少年が「なくしたものを探してほしい」というシンプルなお話…のはずだった。
だが石さんは、そこで思い知る——「落とし物」にも見えるものと見えないものがある、という事実を。
ある日の午後、境内の広場に元気な声が響く。
「石さん! おれの“なくしたもの”探してくれ!」
鼻の頭を赤くした少年が、必死な顔で駆け込んできた。
「……で、何をなくしたんだ?」
石さんが低い声で尋ねると、少年は胸を張って答えた。
「“やる気”!」
……石さん、しばし沈黙。
いや、物じゃないじゃん。
「お前、それ、落としたっていうより置き忘れてきたんじゃないのか」
「でも昨日まではあったんだよ! 今日はどこ探してもないんだ!」
事情を聞けば、どうやら宿題を前にやる気が霧散したらしい。
母親には「きっと神様のところに落としてきたんだろ」と言われ、まっすぐここへ来たそうだ。
石さんはため息をつき、ゆっくりとした声で告げる。
「やる気はな……雨の日に干し草を探すようなもんだ。見つけても湿ってる」
「えー! じゃあどうしたらいいのさ!」
そこで石さん、ちょっと悪戯心を出してみた。
境内の端に縄を張り、「ここを三周走ればやる気が戻る」と真顔で宣言。
結果——少年、全力で走った。
三周目には顔が真っ赤で息も絶え絶え。
「……なんか、ちょっとやる気出てきたかも!」
そう言って笑顔で走り去っていった。
石さんは動かず、ただぽつりと呟く。
「……まあ、走れば血の巡りもよくなるからな」
そしてその夜、少年の母親が団子をお供えにやって来た。
「おかげで宿題も終わりました」
……お礼は嬉しいが、石さんは心の中で思う。
(これ、ただの体力作りじゃないか?)
失せ物は必ずしも形あるものとは限らない。
そして石さん、今日もまんまと子どもに頼られた結果、境内がトレーニングジムと化してしまった。
……次は何を探すことになるのやら。




