【第30話】 《石さん恋愛相談室・第7回〜公開修羅場と石〜》
恋愛相談の場に必要なのは、静寂と冷静さ。
……が、この日、石さんの周りは、まるで市場の喧騒だった。
その日、午前中にやってきたのは短髪の男性。
「石さん……俺、元カノのことが忘れられないんです」
(ふむ)
「別れたのは俺のせいなんですけど……やり直したくて」
(なるほど、まぁ頑張れ)
彼が帰ったすぐ後——
「石さん……元カレのことを、もう一度殴りたいんです」
(お、おう……)
長い髪の女性が、火山のような目で立っていた。
「浮気じゃないって言い張るんですよ。しかも反省ゼロ!」
(これ……さっきの男性だな)
不穏な空気を感じた石さんは、なるべく双方が鉢合わせしないよう祈った。
——しかし、その祈りはあっさり砕ける。
「……え、お前」
「……は? なんであんたここに?」
次の瞬間、元カップルの公開口論が開幕。
「そっちこそ、どういうつもりでここ来たんだ!」
「そっちこそ、なに相談してんのよ!」
石さんはもう完全に置き物以上の存在感を放ちつつ、
(俺、神聖なはずなのに……今日、完全に第三者席だな)と半ば諦める。
やがて、互いの言い分が感情を超え、
「……で、別れた理由って、結局お互い誤解だったんじゃない?」
「……あれ?」
という急展開。
最後は二人そろって、石さんに深々と頭を下げる。
「お騒がせしました……ちょっと、やり直してみます」
(いや、俺はただ聞いてただけだから)
——そして去り際に、女性がポツリと。
「石さんって……夫婦カウンセラーみたいですね」
(……いや、ただの石だ)
恋愛相談室は静かなほうがいい。
……でも、公開修羅場のあとに笑顔で帰っていく二人を見ると、
まぁ、たまにはこういうのも悪くない——そう石は思った。




