第109話 祭りのあと、残された石
盆踊り、子ども神輿、花火大会——
怒涛のイベントラッシュもひと段落。
ふと境内を見回すと、そこには“祭りの痕跡”と“変わらぬもの”があった。
夏の終わりを告げる風が境内を抜けていく。
ミクさんのカフェは新メニューの「わらびもちパフェ」が定番化し、南さんの神楽舞台は照明が増設され、夜でも華やか。
ルカちゃんは御朱印所の飾りつけを季節ごとに変え、ユキさんは御札の書体を季節限定バージョンに挑戦。
子どもたちが遊ぶ広場には、石畳の参道や遊具、立派なヤグラ、そして御神輿の格納庫までできた。
「去年はこんなになかったよなぁ」と、クミコさんがしみじみ言う。
「ほんと、祭りのたびにグレードアップしてますよね」とヒデさんも頷く。
みんなで「あの時はこうだった」「あの回は笑った」とイベントの話で盛り上がる。
「盆踊りでミクさんが踊りながら抹茶ラテ配ったの、伝説ですよ」
「いやいや、子ども神輿の“わっしょいそーれはっ”が最強だったわ」
「あれ商店街まで行っちゃいましたからね」
笑い声が境内に響く中、ふと視線が石さんの方へ向く。
…そこだけ、何も変わっていない。
相変わらず境内の隅、ぽつんと佇む御神体の石。
屋根もなければ囲いもない。
「…雨風にさらされっぱなしだな」
「…」
全員、一瞬だけ沈黙する。
次の瞬間——
「苔のむすまで!」
全員の声がハモった。
(なぜだ…感動シーンになる流れじゃなかったのか…)と石さんは天を仰ぐ。
しかし、苔むした自分の表面を撫でながら、
(まぁ…悪くない)と小さく笑った。
こうして夏の出来事は笑いと共に思い出となった。
そして石は今日も、苔のむすまで——。




