3-17 作戦通りに
あるとです。
今回でやっとレースが終わります。
このレースだけで5話分は使いました。
他のバトルと比べたら長かったですね。
それでも、Chapter.3はあと1〜2話だけ続きます。
(こっちもやってやるぜ、行くぜ930ターボ!)
シフトチェンジの瞬間に起こるターボラグ。それに加えて、SOHCなのにスカスカで速度の上がりにくい低〜中回転域。
だが、エンジンが高回転域に入ってしまえば、高回転型のシングルターボによる急加速で、他を寄せ付けない圧倒的なパワーを発揮できる。
純正のエンジンとは真逆で、極端に高回転に振ったチューニングを行なっている東條の930は、まさに直線番長。
例えフロントバンパーが砕けても、930の空力性がぐちゃぐちゃになって不安定になっても、東條は走ることを選んだ。
全ては、型落ちの古いクラシックカーで、最新のスーパースポーツを倒すという、彼自身の想う"ロマン"のために。
(待ってろ桜井……今、アイツの前に出るッ!)東條は宮崎の真後ろにいることで、ある程度はスリップストリームを利用できている状況。
香椎ストレートも中盤。3車線に広がる香椎線の道路は、貝塚JCTにて2車線へと狭まる事となる。(東條時名……この、学ばない男がッ!)
宮崎がブレーキを踏もうとした瞬間、東條が攻める。右車線へと車線変更し、宮崎を抜きに出たのだ。
(なっ……なんだと!?バカなんじゃないか、この人!?)今さらである。東條は貝塚JCT手前で抜きに出た。
もしオーバーテイクが間に合わなかったら、東條はそのまま4号粕谷線へ行ってしまい、コースアウトとなってしまう状況。
(やると決めたらやるぜ、俺は。なぜなら……俺は本気で勝ちに来てるからだ!)東條は段々とテスラの方へと幅寄せし、近づいていく。
(僕を退かすつもりだろうけど、絶対に一歩も引いてたまるかッ!)宮崎も930の方へと、ゆっくり車両を近づけていく。
そして、ついに2台は掠めるように接触。すぐに2台は離れるが、また近づけていく。JCTが近づき、どちらが退くかを急いで決めなければいけない。
が、東條は特に頑固な性格。どちらも退かないという選択は、東條にとって1番不利な状況だった。300km/hの域で何度も車両が触れ合う。
ついに痺れを切らした宮崎は、東條に痛い目を再び見せる為に強くぶつかろうと思い立つ。「……これで決める。終わりだ、東條時名ァッ!」JCTまで50mにも満たない距離。
その瞬間、東條はブレーキを踏む。
「な……何ィッ!?」まさか東條がこの期に及んでブレーキを踏み、退陣すると予想していなかった宮崎は、ハンドルを戻し損ねてしまう。「なっ──」
そして、貝塚JCT。宮崎は間に合わずにそのままJCTに乗り、4号線へと入っていってしまう。「あばよ、宮崎ッ!」
東條はついに1位に躍り出た。古い車でも、戦略次第でスーパーカーに勝つことができると、それがロマンだと知らしめた。
知らしめたはいいものの、東條の930は宮崎とのバトルにより、ボディだけでなく、タイヤにも酷い損傷を受けている。急いでゴールに帰らないといけない状況だった。
(ボディを打たれた時にもやられたか?ボディだけの損傷にしては不安定だと思ったら……急がねぇと、後続に追いつかれるな。)
だが、東條ら2台が後続よりも速い速度でバトルを繰り広げていた事により、後続とは相当の差が付いていたことを、東條は知らなかった。
3km以上後ろにいる後続車両は、今から全力で走っても、東條には到底追いつけない。
そんな事も知らず、東條はペースを落としながらも、200km/hオーバーで巡航しながら、ゴールへと向かう。
(色々思うところがあるな。まず車が酷いことになっちまったし、宮崎とのバトルにも、勝ったって気が全くしない。
……チクショウ、何を綺麗事を考えてるんだ、俺は?
レースに勝てた。桜井の計画にも十分貢献できた。俺はそれだけでよかったはず。何でモヤモヤするんだ、俺ッ。)
東條は小さく舌打ちをし、コーナーをゆっくり曲がる。
(上手く行き過ぎた……のかもな。もっと、もっと熱いバトルを求めてたのに、こんなにも上手くいき過ぎた。
俺は興奮してんだろう。バトルの最中に、高揚感が抑えきれなかった。もっと走りたかった。だがバトルも終わって、あとはもうエンジンを労りながら走るだけ……つまんねぇよな、こんなの。)
東條は、自分にそう問いかける。そして、自分なりにそのモヤモヤの正体に気づけた気がした。
「バトルは……また後で出来るだろうに。」香椎浜JCT。東條は、もうゴールのすぐそばへと着いていた。
「来た、東條さんの930のエンジン音だ!」桜井が車から出て、ゴールの方へ振り向く。「宮崎のテスラは……。」
南場は、ゴールに向かってよく目を凝らして、東條の帰りを待つ。そこに現れたのは、東條の傷だらけのポルシェ930ターボ。
桜井は安心して、緊張を緩める。「……勝った。東條さんが1位だ!」930は減速しながら、ゴールラインを通過する。
「ホントに勝っちゃった……凄い。」「時名のやつ、高いパーツ使ってんのにこんなズタボロに。」「まぁ、勝ったんだからいいじゃねえか。」
桜井,東條チームの優勝に歓声の上がる中、桜井は3人を置いて一目散に東條の元へ走る。「……桜井!」
「……本当に、手伝ってくれてありがとうございました。」
「おいおい、やめろよ。そういうの。」東條は照れくさそうに言いながら、背後の車を親指で指す。傷だらけの930ターボ。
フロントバンパーは割れ、ボディには擦り傷が走り、タイヤも少し歪んで見たえ。「礼を言うなら、まずコイツだろ。ホント、よく頑張ってくれたよ、マジ。」
「……そんなに激しかったんですか、バトル。」桜井も930を見る。「激しいなんてもんじゃない、宮崎と300km/hでぶつかり合ってんだから。」
「あれ、宮崎は?」桜井は辺りを見回すが、そこに宮崎のテスラの姿はない。いくら東條よりも遅くゴールするとはいえ、いくらなんでも遅すぎた。
「貝塚JCTでバトって、4号線に追い込んだ。要するに、コースアウトって訳だな。」桜井は一瞬だけ目を見開く。「……コースアウト。」
夜の福岡都市高速環状線は、さっきまでの激しさが嘘みたいに落ち着いている。「おい時名、ちょっと!」「ん、どうした千代?」
水谷が東條の元にやって来るなり、耳打ちで何かを話す。「──。」「……分かった。だけど、これから優勝チームに景品渡すらしい。話は貰ってから聞いてみる。」
水谷は頷き、また南場達の元へ戻る。「俺に何か?」「そうなんだが、あとでな……行こうか桜井。優勝賞品の受け取りだ。」
「賞品……賞金の1億とエンジンですよね。」南場たちの方では、すでにざわつきが広がっていた。「そ、1億は俺らが全部貰う話だったな、忘れてないぜ。」
「俺はエンジンを、ですよね。今さら緊張してきた。ホントにエンジンが2JZなのか……。」桜井は不安そうに、主催者であろう男の元に向かう。東條はそれについていく。
「おーし、優勝チーム。前来い。」少しラフな口調だが、場の空気は一気に引き締まる。桜井と東條は顔を見合わせ、ゆっくりと前へ歩き出す。
路肩に集まったギャラリーが自然と道を開ける。その中心へと向かう2人。「今回はな、ちゃんと"モノ"がある。」
主催者はそういうと、大きいブリーフケースを持ち上げ、ケースを開ける。そして2人に中身を見せつける。
「まず、これが1億円。きっかり1億入ってるケースだ。ごと貰ってくれ。」ケースを閉め、主催者は桜井に渡す。
「……。」桜井は何も言わず、ケースを東條に横流しする。「ほんとに貰っちゃったよ、全額。ほんとに良いのか?」東條は話し通りにケースを渡す桜井に、正直戸惑いの感情が浮かぶ。
こういう時は、意地を張って渡さないものだと思っていたが、桜井が正直者過ぎたことにビックリしていたのだ。
「随分な正直者だな……嫌いじゃないヨ。」
「だってそういう話だったでしょう。いいですよ、俺はこんな金なんて。エンジンの内容さえよければ、俺はそれで……。」
2人の会話が聞こえた主催者は、すぐエンジンの載せられたトラックからエンジンを降ろさせる。「君が欲しいのはエンジンか。良いことに、これはタダのエンジンじゃない。」
桜井の前に運び出されたエンジンは、きっちりブルーシートのベールに隠されている。「これは、600馬力を出力する、まさにモンスターエンジンだ。」
そして主催者は、そのベールを一気に剥ぐ。それと同時に、観客たちのどよめきが強く広がった。
貝塚JCTで4号線へ入ってしまった宮崎は
桜井達が賞品を受け取ってる間、
途中の出口で降りて引き返し、
また香椎線へ戻ってきています。
彼らのペアの最終的な順位は、7位で終わりました。
以上、あるとでした。




