3-10 そこにヤツはいた
あるとです。
ついにChapter.3も10話目です。
通算45話、中々ストーリーが
長くなってきました。
まだ連載初めて1年も経っていないですし、
頑張ります。
(チャンスと見れれば……いけるはずだ!」桜井はそう決心し、ペースを上げる。930の圧倒的な速さに張り合うように、路面にタイヤを食いつかせる。
(ほ〜ぉ、抜かされてもメンタル崩さずに……それどころか、ペースまで上げてきてる。が、前に出させやしないさ。お前が抜かせるほどのスペースは、空けさせねぇぜ!)
東條は桜井の見せる速さ、そしてオーラにも屈しずに自分のペースで走り続けた。
桜井はコーナーに入る直前、アクセルを離す。(無理にタイヤを摩耗させる必要はない……ヤる時にヤる、それだけで十分!)
東條がコーナーに入りステアリングを曲げると、少しばかり930のリアが滑る。「……クッソ、このッ!?」
タイヤに負担のかかる走りをしていた為に、タイヤが擦り減ってグリップが消えかかっていたのだ。
(一瞬リアが流れた……タイヤがキテるんだ。リアの方が重いから、タイヤが擦れるスピードもリアの方が大きい。
FRの2000GTはフロントが少し重い程度だから、タイヤの擦れるスピードはほとんど同じ。)
だからこそ、操作に対する反応は素直だった。桜井はコーナーを抜けると再びアクセルを踏み、930との距離を詰めていく。
(グリップ力が低下してるのに変わりないけど、バランスは取れてる。このままいけるッ!)
東條がタイヤの摩耗に苦戦している内に、桜井はすぐ真後ろにまで近づいてきていた。
大波乱のバトルの中、2台は環状線を抜け香椎線に戻ってくる。
アザーカーのない、オールクリアの状態のストレートでは、いくらタイヤに負担がかかっているとはいえ、パワーで勝っている東條が有利だった。
東條は桜井を一気に突き放し、詰められていた距離を再び離していく。(チッ、やっぱストレートじゃ負けるか……ッ!)
2000GTは930よりも10馬力少ない、490馬力。たった10馬力の差に見えるが、その差はとても大きい。同じ6気筒エンジンでも、10馬力違うだけで加速の伸びはまるで違う。
930はターボとの抜群の相性もあり、桜井を離せる。広島最速の名前が相応しいと呼べる走りを見せる。
だが、そんな東條にも限界はあった。リアを流すような、負担の大きい走りをした東條に、その走りがグリップ低下という仇が返ってきてしまった。
だからこそ、戦うならば最もタイヤの負担が無いストレートで行う必要があった。だが、バトルを環状線に持ち越した。桜井の走りから信用を見出すためと言い。
その時、東條は舐めていた。桜井悠人という、白翔馬という才能の原石を。「けど、逃さねぇぜ広島最速!」(速い。けど……踏めば踏むほど、リアが外に流れようとする。)
930の加速は依然として鋭い。だが、リアタイヤはすでに限界域を越えかけていた。わずかな修正舵、微妙なラインの膨らみ。
ワインディングのようなコースでは誤差のようなそれが、高速域やその速度からのフルブレーキングでは致命傷になる。
(大丈夫だ、前だけ見てりゃいい。後ろを気にしなくたって、このまま逃げ切れば勝てる!)東條はその状況を理解してなお、速さを出し続けていく。
(福岡に来てやっと、お前みたいなガチ勢に会えた!千鳥橋から香椎浜までの12km……やってやる、香椎ストレートトライだ──ッ!」
930は一気に加速。2000GTをさらに突き放していく。(近づかれたなら、また突き放してやるだけだッ!)(クソ……ッ。)
桜井は東條と930の完璧なタッグに置いていかれそうになる。が、桜井はまだ諦めなかった。ただ、諦めずに走り切ろうとする。勝ち負けに関係なく、ただ走り切る。
桜井の目的はそれだった。どんなハプニングにも対応できるように、桜井は常に警戒していた。そして、そのようなことが起きずにレースが終われば、桜井はそれでよかった。
だが、やはり勝敗はキッチリつけたい。こだわらないとは言え、自分の車が追いつけないというのは相当悔しい物だ。
桜井は自分の闘争心を否定することは出来ず、東條を追おうとする。(ブーストタレなし、油温、油圧、水温、全部OK。4000回転で息継ぎOK……いける、こっちはベストコンディションだッ!)
桜井は2000GTがまだやれる事に気づく。と、すぐさまアクセルベタ踏みで東條の後を追う。貝塚JCTを過ぎて、差はおよそ25m。
東條が桜井を突き放して2分、その時は70mものアドバンテージを作ることができていた。桜井はすぐ後ろ、東條はワープしたかのように迫る桜井に心底驚く。
(な……いつからそこに!?俺、あの時離したよな……マジックでも起きてんのか!?)桜井のタフな走りは、東條の心を大きく揺るがした。
迫る香椎浜JCT、そして高速コーナー。この時のコーナー進入で焦れば、車はひとたまりもない大惨事になる。冷静さが大事になってくる。桜井は深呼吸をした後、集中モードに入る。
その時、桜井は目を瞑った。
桜井には、目に映らない情報も全てが分かったような気がした。派手な動きを繰り返し、タイヤが擦り切れそうになっていても、車がドンと安定している。
その状態を、桜井は"音"で理解していた。
「なぁ桜井。お前、なんか特技とかないの?」1ヶ月前、名古屋の高校。桜井の親友である杉野勉は、放課後の教室で眠たそうに絵を描いている桜井に、そう質問を投げかけた。
「特技ィ?あー……目を瞑って車を走らせられる、かな。たった数秒だけだけど。」「目を瞑ってェ……あの2000GTを!?」
「音を聞くんだ。耳で、車の出すエンジン音からアザーカーの過ぎ去る音、道端に転がってる石が、車が通過して吹っ飛ぶ時の音まで。全てを耳で聞くんだよ。俺、昔から耳だけはいいから。」
桜井がそう答えると、杉野は感心した。桜井ならやりかねないと思ったからだ。「へぇ……なんだかすげえンだな、桜井。」
「じゃ、俺もう帰るわ。また再来週な。俺明日から福岡だから……。」桜井は机に掛けていたバッグを手に取ると、教室のドアへと歩いていく。
「あ、うん。お土産かなんか買ってきてくれよ?」「分かってるって。あと写真だろ?」「そ、お願いな……じゃ!」
杉野が笑顔で手を振ると、桜井は笑顔を返してその場を後にした。(ふーん、目を瞑るのか。集中出来んのかな?)
(聞こえる……どのタイミングでブレーキングすればいいのか、分かる──!)桜井は理解した。タイヤが地面に食らいついている音、そしてコーナー直前に地面がうねる感覚に。
東條がフルブレーキングに入るその瞬間だった。930から聞こえるブレーキングによるキャリパーが擦れる音が、桜井の耳にはよく聞こえた。
(やるなら今しかない、チャンス到来!)桜井は目を空け、すぐにアクセルを離す。その直後、ブレーキの開度を50%程に抑えたまま、コーナーに突っ込んでいく。
200km/hコーナー、桜井はコーナー脱出直後に東條との差を詰めきった。(なんだと、すぐ後ろに来て──あぁ、クソッ!)リアが流れ続ける930を抑えるために、東條はアクセルを離す。
が、その隙を逃さなかった。(今なら並べる、いけッ!)桜井はラインがクロスした瞬間に一気にアクセルを踏み、東條の横に並ぶ。
ついに横に並んだ2台は、そのままの勢いで次のコーナーへ入る。(なッ──!?)その瞬間、930のリアが暴れ、一気に外へ流れようとした。(抑えろ……ッ!)
スピードにして、およそ190km/h。なんとか左右に動くことを抑えることができたものの、その勢いで930のリアはインへと方向を変えた。(回る……ッ!?)
その瞬間、桜井がラインを50cmほどアウトに寄せる。2000GTのドアを930のフロントバンパーへ当て、930が姿勢を立て直すための手助けをした。
『アナタは、こんな所でくたばる人間なんですか……?』そう問いかけるような目で、桜井は冷や汗を流す東條を見つめる。
(分かってた……俺が焦ってスピンする事は、十分に分かっていたことだった。)930は減速していく。(アイツがいなければ、俺は多分命をこの車に預けて走れなかった。)
桜井はそのまま走り続け、香椎東ランプへと1人帰還する。東條はゆっくりと車を走らせる。バンパーはヘコみ、タイヤもズタボロ。だが桜井のおかげで、東條は生きていられた。
「桜井悠人……お前、やっぱ面白いやつだ。今まで会ってきたなかでも、とびきりに──。」
「時名ァッ!」香椎東ランプ、すぐ近く。ボロボロになったバンパーを引きずりながら、東條は皆のもとに帰ってきた。「悪い……負けちまった。」
「そんなの、時名が無事ならなんてことない!良かったぁ、生きてて。」水原は落ち込む東條に駆け寄り、彼の無事に安堵する。
「桜井から話は聞いた、やっぱタイヤだったか……にしても、ホントに東條くんに勝つなんて……。」南場がそう呟き、桜井を見つめた。
桜井は黙って東條と930のバンパーを見つめる。(そして、すぐに口を開く。「良かったですね。あの時、俺に身を任せて。」「……恩に着るぜ、桜井。」
今回の話は、湾岸ミッドナイトの
赤坂ストレート編を意識して作っています。
ストレートでトライ、バンパーに傷、
要素を散りばめてみました。
マサキさんの人間らしさが好きです。
以上、あるとでした。




