3-7 カーボンランナー
あるとです。
今日はクリスマスですが、
皆大切な人と過ごしているでしょう。
僕はそんな事ありません。
常に1人ですよ。言ってて悲しいです。
翌日の夕方。桜井は2000GTの修理を本日中に終わらせるために、南場の作業を手伝っていた。「……ふぅ、コーティング終了〜。コレで、"新白翔馬"の完成だよ!」
南場は安堵のため息をついて、作業台にタオルを置く。「やっと終わった……たった3日で終わるもんなんだね、コレ。」
「まぁ、早く終わらせられたのは、悠人が走り込んでる間に知り合い呼んで作ったりもしたからなんだけどね。」そう言い、ボンネットをポンと叩く。
「……ありがとう。わざわざ直してくれて。」「いいんだよ。頑丈に作られてたおかげで、浅いヘコみとかキズだけだったから。それに、私の腕もまた上達できたし、どーって事ないよ。」
南場は嬉しそうに言い、作業着などを片付け始める。
(……親父、アンタの作ったエンジンは、俺が必ず勝ち取る。それが、息子としての使命だから。)
深夜の博多駅前。「"超軽量化仕様 2JZ-GTE改"を探しているんですよ。」桜井が西寺と神宮とのレースを終えてすぐ、車を駐めていた。
「……今どこにあるかもいざ知らず、昔どこにあったのかも、私には分かりませんね。師範は?」「そうね……。」西寺はそう言い考え込む。
「……やっぱ、分からないですか?」桜井が落ち込みかけると、西寺が口を開く。「……いや、もしや"アレ"がそのエンジンかもしれない。」
その一言で、空気が変わった。「"アレ"?」
「近頃……いや、今日から2日後に環状線でデカいストリートレースがあるの。そのレースの賞品の1つに、ハイパワーなエンジンが上がってるの。詳しくは分からないけど。」
桜井はやっと掴めた情報に喜ぼうとしたが、確証が持てないが為に大きく喜ぶことはできなかった。
「本当ですか!?それで、そのレースって?」桜井が嬉しそうに聞いてきたので、西寺が彼を落ち着かせる。
桜井は情報を掴めた嬉しさを隠しきれていなかった。「そうがっつかなくても、ちゃんと説明するわ……オーガくんがね。」
「よォ、悠人クン。派手にやっちまったみたいだな。」
南場と共に彼女のZから降りてきたのは、スカイラインの所有者である本間だった。「ホント、私のZじゃなくて良かった。」南場が呟く。
「な、言ったろ?」
「本間さん……ごめんなさい、こんな姿にしちゃって。」桜井はスカイラインのフェンダーをさすりながら言う。
「いいんだ、これも作戦のうちだからな。お前が無事に勝ってくれてよかったぜ。西寺、オメーマジでその走りやめといたほうがいいぜ。いつか人殺すぞ?
三玲の嬢ちゃんも、西寺に教えられたこと全部が合ってるわけじゃねんだからよ。あんま危ねー事すんなよな?」
本間に睨まれながら説教された2人は少し落ち込みながらも、本題に戻す。「……分かったわよ、コレっきりね。で、レースの詳細って?」
「そうだな……今回のレースは少し特殊だ。"ペアレース"って手法なんだが、分かるか?」初めて聞く単語に、桜井は困惑する。
「なんですか、ソレ?」「リレー形式って言ったほうが分かりやすいかな。」本間はそう言って、路肩のガードレールにもたれかかる。
「1人目の走者がスタート地点の香椎入口からスタートして、環状を一周。また香椎に戻ってくる。
そしたら待機してた2人目の走者がスタートして、1人目は2人目の勝利を祈る。一番速く2人目の走者がゴールしたチームの勝利ってゆールールな。」
「ずいぶんユニークなレースよね。」本間の話を聞いた西寺は呟く。「同意見です。それで、そのレースで勝てば、エンジンを手に入れられると……。」
「正解。でも、桜井が参加するにはもう1人のドライバーを捕まえなけりゃいけない。まず前提条件として、君はレースに参加するんだよな?」
桜井は静かに頷く。「だろうな。んで、もう1人のペアのドライバーが必要になる。それは誰がベストなのか……今から募集したところで間に合わない。俺たちがペアになってくれる捕まえなきゃだ。心当たりあるやつは?」
その場にいる全員が、心当たりのある中で信頼できる走り屋を考えた。が、そんなもの居なかった。居ても、福岡まで呼べるかどうか。「……いないですね。」
「私もね。っていうか、ここにいる走り屋じゃダメ?ダメならなんで?」西寺は力に慣れないことを悔やみながら言う。「理由は簡単だ。まず南場、コイツは走りはそう上手くない。どころかレースに関しちゃ下手っぴだ。」
本間はキッパリと言い、視線を南場に向ける。「ンだとお前。」「西寺は、さっきの走りを見て少し危ないと思ったから無し。まだ信頼がねぇ。嬢ちゃんも同様だ。」
西寺は苦笑しつつも、反論はしなかった。「随分とハッキリ言うのね……。」「当たり前だ。啓人のアニキの息子がケガの1つでもしてみろ、俺らの責任はどうなる?」
その言葉に誰も反論する事ができなかった。「……じゃあ、誰か信頼できる走り屋がいるの?」「まぁ、いないわな……。」
本間は落ち込み、ついクセで辺りを見回した。と、白いスポーツカーが2台、コインパーキングに止まるのを見つける。「あの2台、本気組っぽいな……。」
本間はすぐさま2台のもとに向かう。「934とは、センスいいね兄ちゃん。ここらへんじゃ見かけないけど、遠征か何かで来てるのかな?」
「……コレ、930なんですけど……まぁ、そんなもんですかね。んで、あなたは誰です?」本間が青年に声をかけると、青年は少しダルそうな様子で答える。
「俺は本間桜我。ココじゃ結構有名な走り屋なのよね、俺。」本間は自慢気に自己紹介をする。(あんまソレ自分から言わないですよ本間さん。)
「……よろしく。俺は東條時名。広島で頭張ってる走り屋です。」本間はその名前と肩書を聞いた時、東條の物らしき930に貼ってあるチームのステッカーを見て考える。
「確か、NEXTECZ……だっけか?」「知ってるんですか、俺のチームを?」
東條は自分をほっといて考え事を始める本間に困惑した。
(もちろん知ってる。広島の走り屋と言ったら、NEXTECZの名前が一番最初に出るだろう。
しかも、目の前にいるのがそのリーダーと来た。イマドキ930を乗り回す奴なんだ、腕は確か……なら、頼むことは1つ!)
「……何したいんですか、アナタ?」「俺は運がいいな……広島からわざわざ来てもらって悪いんだが、1つ、俺に頼まれてほしいんだ。」
突然の発言に再び困惑する東條。「はぁ……?」「何のために福岡に来てるのかは知らないが、お前にレースに出てほしいんだ。」
東條は一瞬だけ言葉を失い、次の瞬間、露骨に眉をひそめる。「……いきなり何言い出すんですか。」
「まあまあ、最後まで聞けって。」本間は悪びれもせず、親指で後ろを示す。「ただの草レースじゃない、勝てばエンジンが手に入る。そして、ちょっと面白いルール付きだ。それは──」
「"ペアレース"、ですよね?」東條は分かっていた。福岡に来たのは、自分も桜井が参加しようとしているレースに参加するためだったからだ。
「ほほう……もしかして、それに参加するために来たのか?」「……俺は"ブツ"がメインで欲しくて参加したいんじゃないんですよ。あなた達が欲しがっている、その"ブツ"には。」
少し挑発的な態度で本間を煽る。「……賞金の1000万か。」「少し必要でね……無いと出来ないことがあるんで。」
本間は一瞬だけ目を見開き、すぐに口の端を吊り上げた。「……なるほどな。エンジンじゃなくて、賞金狙いってワケか。」
「ええ。」東條は肩をすくめる。「走り屋にも色々事情がある。金が要る時もあるんですよ。賞金はドライバーそれぞれに与えられる。つまり合計2000万。こんなに美味しい話はない。」
「……なぁ桜井くん!ちょっと来てくれるか!?」本間が遠くで叫んでいるのを聞きつけた桜井は、すぐに彼のもとに向かう。
「なんですか?」「彼、東條時名くんだ。広島から来てる走り屋で、今回のレースに参加するつもりだと。」
東條は桜井に会釈する。「俺は今回のレースの賞金が欲しい。エンジンはどうだっていい。」
「ちょっと待って時名、俺と走るんじゃなかったのかよ!?」その時、930の後ろに止まっていたNSXのドアが開くと、青年の声が聞こえた。
「起こしちまったか……紹介する。今回のレースのペアで、チームのNo.2。水原千代だ。」
「……。」水原の登場により、場はややこしくなるばかりだった。「んで時名、この人達は誰?」水原はキョロキョロと2人を見る。
「この2人が、俺と組みたいらしい。こっちのお兄ちゃんが本間桜我さん。で、こっちの若いのが……。」
「あ、桜井悠人です。」その名前を聞いた瞬間、水原の視線が一瞬だけ鋭くなった。「桜井……もしかして、名古屋最速の?」
水原は顎に手を当て、思い出すように言う。「ハハッ。そうだ、名古屋最速って言ったら白翔馬!最近福岡に来てるって聞いたけど、まさかホントだったとは……会えて光栄だ!」
人が変わったかのように話し方が変わる水原に困惑しながらも、桜井は彼と握手を交わす。そして話の本題にはいる。
「……水原さんは、東條さんとペアでレースに出るつもりなんですよね?」「そ。だけど、何だか時名が君と組みそうな空気になっててさ。何がしたいの、そのレースで?」
桜井は少し黙る。昔の事を思い出しているような様子をし、水原に語る。「親父の遺した物を……キッチリと分捕りたい。それが俺の、走る目的ですよ。」
今話で登場した東條くん。
彼は元々北条と言う名字の予定でした。
が、某頭文字に同じ名字のボスキャラが
出てくることを知り、
なんかマズいんじゃないかと思い変えました。
以上、あるとでした。




