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Exhaust  作者: あると
Chapter.2 ファーストステップ編
31/40

2-16 嫌な思い出

あるとです。

タイトルにもある通り、

今回は過去、特に桜井の過去のお話です。

これといってレースも無いので地味ですけど、

ぜひ最後まで見てください。

2021年、6月。名古屋の中学に、ある1人の少年が転校してきた。「じゃあ、取り敢えず名前を教えてくれるかな。」クラスの担任は、少年に名前を尋ねる。


「……桜井悠人です。」この頃の桜井は、とても暗い性格だった。「聞いた通り、福岡から転校してきた桜井くんだ。皆、彼に優しくしてくれ。じゃ、取り敢えずあの席に。」


桜井は黙って頷き、空いていた席に座る。


昼休みになると、教室にたくさんの生徒が桜井に会いにやってきた。「なぁ、転校生(ニューボーイ)!名前は?」「どこから来たの?」


生徒らは桜井に様々な質問をした。桜井は取り出した弁当を食べる暇もないほどの質問攻めに、彼らに怯えてしまう。「あ、そのっ……う……。」


その時、桜井のいる教室に女子数人のグループがやってくる。「それが……あれ、何の騒ぎなんですかね……?」


1人のベージュ色の髪の少女が、桜井に詰め寄っている生徒たちの騒ぎを見つける。「そういや、転校生が来たとか何とか言ってた。由依、行ってみたら?」


「……今は混んでるみたいだし、また今度でいいですよ。でも、顔だけ見てきます。」少女は桜井の方に歩いていく。「お、芹沢おはよう。」「おはよう田渕(たぶち)さん。」


芹沢は生徒たちと軽く挨拶を交わすと、生徒の中からひょっこりと顔を出し、桜井の顔をのぞく。


(……思ってたより可愛い顔。男の子なのに、可愛らしげがある。)もう少し近づこうとしたが、彼の手が震えているのを見てしまう。ただ緊張しているのではない、怯えているような震え方だった。


(震えてる……怖いんだ。皆から離してあげなきゃ……。)芹沢は思いつくと、すぐに行動に移す。


「あの、皆さん。よろしかったら、これから少しテーブルゲームでもしませんか?」芹沢の発言に、生徒たちは桜井を置いて芹沢についていく。「お、ゲーム?」


「いいね、何やんの?」芹沢は振り向いて桜井を見ると、彼が少し安心したような表情を見せていた。芹沢は、自分がやった行動が、彼にとって正しい行動だと気づき、心のなかで喜んだ。芹沢は、離れ際に桜井に小さく手を振った。


桜井はそれを返し、芹沢たちが教室を出ていくのを見る。その後、桜井は弁当を開けて昼食を食べ始めた。


(あの人、助けてくれたのかな……また会った時にありがとうって言おう。)






その日の放課後。桜井は1人、教室に戻って黙々と絵を描いていた。教室には夕日が差し込み、窓から見る景色は美しかった。


が、桜井はそんな物に興味はなく、ただずっと同じ車の絵を描いていた。スカイラインGTR R34。その頃の桜井にとって、その車は夢同然だった。すると、忘れ物をした芹沢が教室に戻ってくる。


ドアの開く音に気づいた桜井は、慌ててノートを閉じる。


「……あれ、さっきの転校生(てんこうせい)さん?」急の出来事に、桜井は怯えてしまう。「あ……ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんです。忘れ物取りに来て、転校生さんが何かしてたからつい……ホントにごめんなさい。」


芹沢は桜井に驚かしてしまった事を、直接謝った。「別に……いいん、です。別に気にしなくて。」芹沢は桜井が手に抱えていたノートを目にする。


「……何か、絵でも描いてたんですか?」


「あ……いや、これは……。」桜井はノートを机の中に隠した。「いや、無理強いはしないです。でも、見せてくれたら嬉しいかも……です。」


桜井は悩む。(自分が困ってた時、助けてくれたけど……その借りは返したほうがいいよな。見せてもいいかも……。)


桜井はノートを芹沢に渡す。ノートにびっしりと描かれていた34Rの絵を見て、芹沢は驚く。「凄い……こんなにびっしり。同じモデルを違う角度から描いてる。絵、やっぱり上手いですね。」


「……いや、それしか書けないんです。だからその絵だけ……。」芹沢は他のページを開く。と、お世辞にも上手いとは言えない人間の絵が1つだけ描かれていた。


「……さっきは、ありがとう。わざわざ気使わせちゃったみたいで……。」芹沢は桜井のノートを閉じる。


「全然いいんですよ。手が震えてるのを見たから、助けなきゃって思って。」少し沈黙が続いた。「……あの、転校生さん。」芹沢が何か喋ろうとすると、桜井が被せて喋る。


「桜井悠人です……その呼び方、もう飽きるほど聞いたので。」


「そうだった……じゃあ、桜井さん。私とお友達になりませんか?」


桜井はポカンとした顔になる。「友……達?」「そう、お友達です!」


桜井は目をそらす。「……嫌でした?」「いや全然。ただ、少し不安なんです。友達になるってことは、それほど信頼できる人になるってことですよね。でも、もしその時にあなたがいなかったら……って。」


桜井は悩みを打ち明ける。「そんな……大丈夫ですよ!私はいなくなりませんから!」桜井は彼女の決意に心を揺らされる。「……名前は?」


「……芹沢由依(せりざわ ゆい)です。よろしく、桜井さん。」


芹沢は桜井に静かに握手を求めた。「友達……なら、タメ口で話してもいいですか?」「え……えぇ。全然いいですけど。」桜井は芹沢の出した手を優しく握る。「じゃあ……よろしく。芹沢さん。」




ある日の教室。「よぉ、桜井ちゃん。」数名のグループが、ニヤニヤしながら桜井に近づく。


「……誰?」


「自己紹介がまだだったな。俺ァ、2年C組の塩崎壮(しおざき そう)だ。そっちの名前は知ってるぜ。桜井だろ?」


「そう……だけど。どうしたの?」塩崎たちは何か企んでいる顔で桜井に話す。「ちょーっと、俺らと一緒に遊びに行かないかって、誘ってやってんのよ。」


「ごめん。今日はちょっと……。」桜井が断ると、グループのうちの一人が声を上げる。


「塩崎クンがわざわざ誘ってんのに調子乗ってんじゃねぇぞコラ。あぁ?」桜井は突然の大声に驚き、また怯えてしまう。「来てくれるよなぁ?」


桜井が怯えながらついていこうとすると、1人の生徒が男の腕を捻り曲げる。「やめろよ犬上、桜井が困ってんだろーが。」力が強いのか、男はもだえる。


「痛てて痛い痛い!」彼の握力で握りつぶされそうになる男に動揺しながらも、塩崎は生徒に怒鳴りつける。


「邪魔すんなよ田渕ィ!正義のヒーロー気取りかよ!」「ヒーローはこんなことしねぇだろーが。お前らが嫌いだからやってんだよ、そろそろ気づけよアホが。桜井から離れろ!」


田渕がそういうと、降参したようで塩崎は教室を離れる。「よかったな、いいボディガードがいてよ!」


捨て台詞をはくと、勢いよく扉を閉める。「……嫌な奴だよな、あいつら。か弱いやつに付け込んで、自分のおもちゃにしてんだよ。震えてっけど、大丈夫か?」


桜井は手の震えに気づく。「……うん。ありがとう、田渕さん。」「呼び捨てでいいよ。またなんかあったら呼んでな。」田渕はまた、話していたグループのもとに帰っていった。「みんな優しいな……。」


それからの事、桜井は徐々に心を開いていくようになった。たくさんの人と仲良くなり、友達になった。


芹沢とも仲が深まり、桜井の中学生活は楽しく見えた。が、それと同時に桜井は塩崎たちに絡まれるようになる。「よぉ、桜井ちゃん。ちょっとツラ貸せよ。」1人の時にこう言われるので成すすべもなく、彼らのするがままにされた。


上履きをゴミ箱に入れられる、水の入ったバケツを上から被せられる……。典型的ないじめと呼べる行為はほとんど受けた。


だが桜井は、このことを芹沢達に知られたくなかった。自分の情けない姿、そしてそれに巻き込まれることを拒んでいた。


ある日、桜井が帰ろうとしていた時の事。「桜井ちゃん、ちょーっときてくんないかな?」校舎裏から塩崎の声でそう聞こえた。桜井はここで断ったら何が起こるかわかっていた。


桜井は校舎裏に向かって小走りする。「何──」桜井は肩を金属バットで殴られる。腕を縄で縛られ、身動きも取れなくされてしまう。


「気に入らねぇんだよ、お前らが仲良くしてんのがよ!俺はお前よりも上のカーストに居る。だから下位カーストのお前が芹沢とか田渕と仲良くしてんのが気に食わねぇ!」


「ホラ、これなーんだ?」1人の男が桜井のノートをバッグから取り出す。


そこに、帰ろうとしていた芹沢が裏で何かやっているのを見つける。こっそりと陰から覗くと、桜井が塩崎たちに殴られながら悶えているのを目撃してしまう。


「生意気に絵までうまいんだ、へぇ~……。」桜井が絵を描いていたノートの紙を破り、クシャクシャに握りつぶす。「こんなもん、テメェみてぇな豚に食わしてやるよ!」握りつぶした紙の球を水溜まりで濡らし、桜井の口に運ぼうとする。


「オラ、口開けろ!」「絶対、嫌だ!」


桜井が拒否すると、塩崎は強引に口を開けて食べさせようとした。「ぐっ……!」


芹沢はついに見ていられなくなり、堂々と桜井たちの前に飛び出して言った。


「も、もうやめてください!」

10月末までに話を終わらせると言ったものの、

もう31日で終わりそうにない。

嘘ついてすみませんでした。

あともうちょい続きます。

以上、あるとでした。

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