2-8 感覚(センセーション)
あるとです。
個人でユーロビートを聴くのですが、
カラオケで歌えるユーロビートって少ないんですね。
某峠の走り屋系の曲はほとんどないような……
ま、カラオケ行っても歌わないんで関係ないですね。
次の日の深夜。三ヶ根山スカイラインを1台の黄色いFDが駆け抜ける。(これが新しい、オレのFD !高市さんがコイツを最適化してくれたおかげで、めっちゃ速い!)そのドライバーシートにはとてもワクワクしながら運転している五十嵐がいた。FDのマフラーから凄まじい炎が放たれながらコーナーに進入する。(くっ、少しアンダーが出る……でも!)リアが少し抜けてアンダーが出てしまう。
が、そんな状況でもすぐに立て直し、コーナーを立ち上がる。(足回りも軽くイジったって言ってたけど、絶対軽くない。オレにとっては、めっちゃハードにイジったように感じる。この自分の手足のように直にくる感覚、前とは違う爽快感!楽し過ぎて、すぐにここを登りきるのが残念だけど、その分いいレスポンスを感じれる!)ふと、路肩に立っていた数名のギャラリーの視線に気づく。
「ん……あのFD、どこかで……。」「窓にSK-AutoTecのステッカー……って事は、ありゃ五十嵐さんのFDだ!さすがは黄色い流星、速ぇ!」五十嵐は目もくれずアクセルを踏み続ける。(今はファンサなんてしてる暇ない……すべては、桜井くんに対するリベンジのため!この感覚に走り慣れておかなければ、またあの時みたいに……!)五十嵐はここ、前に桜井とバトルをした時の事が、
頭にフラッシュバックする。五十嵐は三ヶ根山の下りで桜井インからオーバーテイクされ敗北している。その時の敗北感を、周りに分かられずとも、彼はずっと忘れないでいた。五十嵐はその思いを胸に、持ってきたガソリンまでもが空っぽになるまで走り続けるつもりだった。「今度は下りか!?」「五十嵐さんも本気なんだな……次のバトル!」五十嵐のFDは、三ヶ根山を颯爽と駆け抜ける。
(桜井くんとは名古屋C1で決着をつける。なのになんで高市さんは峠を……?)FDがコーナーを糸を縫うように走るその様は、まるで閃光のようだった。ギャラリーも湧き始めるが、その事を気にせず走り続ける。(細かいことはいい……スパルタンに仕上げたこのマシンで、必ず桜井くんに勝つ。それだけだ!)
「考えたろ。『なんで名古屋C1で決着をつけるのに、峠を走らせたんだ?』ってな。」五十嵐はHIGH-CITYに帰還し、高市にまたセッティングの調整をしてもらっていた。「げ、またでたテレパシー。ホントなんで分かるんですか?」「考えてることくらい分かるさ。お前が感じているその違和感を、俺はわざと作ってるんだからな。」五十嵐は首を傾げる。「なんでですか?」
「お前、C1の直線だけで勝てると思ってるだろ。だが2000GTの場合、"直線でも曲がろうとする"走りをしてくる。純粋な速さ勝負じゃ、直6に対して勝ち目はねぇ。だから峠でしか鍛えられない"応答の速さ"を叩き込んでるんだ。C1に持ち込めば、お前の武器になる。お前の武器はこの2ローターだけじゃなく、自身の応答性って訳だ。」五十嵐は高市の指摘に納得し、エンジンを見つめる。
(応答性……最高のエンジンパワーを出し続けるには、アクセルやブレーキを踏むタイミングの見切りも重要なのか……高市さんが走らせたのはそのためか。)五十嵐はボンネットを開け、高市の完璧な2ローターに感心した。だが、五十嵐の感情には、感心と共に不安も表れる。「……オレらなら、アイツを撃墜できるよな?FD。」五十嵐はそう語りかけるも、FDは沈黙したままだった。
ふと、カバーで隠された誰かの車が目線に入る。前からあってずっと気になっていた、謎の車だ。「……そういや、あれなんです?客の車ってわけじゃなさそうですけど……。」高市は、五十嵐の指さす先にある車を見る。「ありゃ、俺の車だな。ずっとあそこから動かしてないんだ。見るか?」「……なら、お言葉に甘えて。」五十嵐は車に近づき、カバーを外す。
「……これは!?」現れたのは、"白いサバンナRX-7 SA22C"。そのSAは、デイトナ24時間仕様のフルエアロとホコリに包まれていた。「俺の車だ。俺が今から25年くらい前、首都高攻めてた時のやつだな。走り屋辞めて、それっきり一度も動かしてねぇ。3ローターペリターボで800馬力。それより、お前の一番気になるのは窓だろう?」
高市の言葉の誘導で、五十嵐はつい窓を見た。そこには、古びたARTSのステッカーが貼られていた。「ARTS……やっぱり高市はホントにARTSの創設者だったのか……でも、このタイプは見たことない?」「だろうな。ARTS創設メンバーの5人にしか貼らせてない。今は500万とかするらしいな。別に貴重にしたくて作ったつもりはないんだが……。」
五十嵐は、ステッカー1枚の値段とは思えないほどの高さに驚く。「500万も!?」「あぁ。ソイツ、1枚売ったそうでさ。廃車になった愛車から取ったんだと。ついでにそのままARTSもやめたそうだ。今んとこ現存してるステッカーは"4枚"だけだな。」五十嵐は現存してるステッカーの枚数に違和感を持ち、数える。「……あれ?1枚はどこに?5枚あるんじゃ?」
高市は何か嫌なことを思い出したかのように、ため息をついて答えた。「……車とドライバーと一緒に燃えたよ。ま、そこに関してはいい。とにかく、速くFDの方を作るぞ。バトル、明日なんだろ?その前に仕上げるぞ。」高市は立ち上がり、五十嵐のFDに歩みよる。「あ、はい。そういえば、桜井くんの方はイジらないんですか?」「アイツぁ、いいよ。チューニングはあのままで。」
すると、桜井の2000GTがHIGH-CITYにやってくる。「……噂をすればですね。」「ハァ……仕方ない。やるか。俺は頼まれたらやる男だからな。可愛い甥の頼みは断れねぇよ……。」
次の日の深夜。名古屋C1にて、五十嵐と桜井のリマッチが始まろうとしていた。「油温良し、油圧良し、水温良し、水圧良し、ブースト圧良し、タコメーター良し、エンジン異音なし……全て良し。OK、2000GT!」桜井はエンジンの調子を確認したのち、歩いて五十嵐と赤田のもとに向かった。「待たせてすみません。こっちはOKです。」
「じゃあ、手っ取り早く始めようか。進化したのは君だけじゃない、俺だって進化した。今度は負けないよ。」赤田は2人を見比べ、深く息を吐いた。「……ルールは前回と同じ。名古屋C1を3ラップ。ゴールは都心環状への合流前、例の地点ね。」五十嵐は小さく頷き、FDのドアを閉める。「……今回は必ず仕留める。」桜井は2000GTのステアリングを握りながら、静かに視線を正面へ向けた。
(負けない。俺の走りで、必ず――。)二人はそれぞれの車に乗り、エンジンをふかし始める。「がんばれ五十嵐様~!」五十嵐のファンらも駆けつけ、2台のスタートを見守る。赤田は道路の端から手を掲げ、合図を開始する。「じゃ、今回も私が。スタート開始10秒前!9、8、7、6、5、4、3、2、1!」その瞬間、二人は車のギアを1速に入れる。「GO!」
五十嵐のFDは鋭いロータリーサウンドと共に一瞬で高回転に突入し、炎を吐きながら先行を狙う。対する桜井の2000GTは、低く唸る直列6気筒の重厚な音を響かせ、加速と同時に車体全体が路面に張り付くような安定感を見せた。「うおおっ、速ぇ!」「いきなり全開だ!」ギャラリーの声が遠ざかり、夜のC1に爆音だけが反響する。2台は環状線に入り、すぐさまインに張り付く。
(パワーは出てる。アクセルレスポンスもいい……コーナーでの安定感も、前とは段違いで速い自信がある。今なら、FDがどの走り屋の車よりも速いと思える!)五十嵐は加速しながらステアリングを握り直し、歯を食いしばる。(この伸び……!間違いない。前の俺とは違う、今のFDなら必ず勝てる!)コーナーに差しかかると、FDは吸い付くようにインへ切れ込み、炎を放ちながら立ち上がる。
「っ……!」桜井は2000GTのラインをわずかに修正し、ターボの過給圧を解き放つ。(五十嵐さん……前よりも全然速い!最適化チューンは伊達じゃないってか!?)桜井も負けじと五十嵐を追う。(コイツが持ってる特性で勝負するしかないのか?ストレートとコーナーのスピードはFDに軍配が上がる……ならどうやって前に出れば!?考えすぎで頭痛くなってきた……仕方ない。手っ取り早く終わらせる!)
桜井はアクセルを深く踏み込み、タコメーターの針を一気に跳ね上げる。(考えるな……俺の2000GTは、走るための車なんだ!)ストレートで無理やり距離を詰めると、急減速する五十嵐のFDのテールが目前に迫る。「うわっ!?詰めすぎだろ……!」ギャラリーが悲鳴をあげる中、2000GTはごく自然にブレーキを抜き、インへと滑り込んだ。(考えても勝てない……なら、感覚のまま走る!)
桜井の目が研ぎ澄まされ、視界が冴え渡る。五十嵐のFDと2000GTが、名古屋の路面に火花を散らしながら並んだ。
桜井がHIGH CITYで何をしたのかというと、
高市にオイル交換や洗車をしてもらいました。
チューニングはしてません。
それだけなので終わりです。
以上、あるとでした。