1-13 ガールズファイト
あばるとです。
もうすぐ丑の日ですね。
僕はうな重を食べるとき、毎回山椒をかけます。
ま、僕が本当に好きなのはうな重についてくる、
なにかの肝のお吸い物なんですけどね。
午前0時。「やっぱり違うのよね、時代ってのが。」高市は桜井と2000GTのチューニングに取り掛かっていた。「時代...ですか。」「あぁ。2~30年前なんて言ったら、300km/hなんてやっとの世界だった。だが、時代は変わって、阪神環状1号で300km/hでさえ普通の世界に早変わり。そして、今では湾岸線で400km/hを出そうとも考えてる連中もいるわけだ。」
高市は1JZに付いていたタービンを取り外す。そして、手に持ったタービンを眺めながら言う。「命の危険を冒して走るんだもんな。昔の人間は、安全装備なんてのも少ない中、走ってた。」桜井は、高市が手に持っているタービンを見つめながら言った。「つまり、今の走り屋はまだ度胸がない奴らが多いってわけですか。」「いや、そういうんじゃないんだ。現にARTSは、命知らずの集団だ。
だから、湾岸やC1でも圧倒的に速い。」高市はタービンを工具置きの上に置いて、新しく取り付けるタービンを手に取った。「言いたい事のひとつは、今がどうであれ命知らずが一番速い。危険な状況に陥ったとしても、命知らずは状況をすぐに飲み込み、打開策を打つ。その一連の作業を最も速く行えるのは、命知らずだけだ。ホレ。」高市は新しいタービンを桜井に渡す。
受け取った桜井は、元々古いタービンがあった場所に、新しいタービンを取り付ける。「命知らず...なろうと思っても、なれないんですよね。人間は正確を急に変えられないから。」「無理に変われとは言わないさ。が、そのくらいの度胸があれば速くなれるってだけだよ。...そういや今、赤田が環状に出ているらしい。行ってくるか?」桜井は取り付けられたタービンを見て言った。
「どうですかね。今は環状に出る気分って訳じゃないですし...ま、考えときます。」桜井は新しいタービンをブーストコントローラーに取り付け、残りの配線などを直していった。そんな桜井を、高市は見つめていた。「...やっぱ俺の兄貴に似てるな悠人。車を弄るのが趣味で、誰よりも情に厚い。」桜井は、自分の父親の事を思い出した。高市の兄、それは桜井の父親だからだ。
「懐かしいですね。親父はいつも車を弄っていた。いろんな人と関わりながら。親父はそれで飯を食っていこうって考えてたんです。実際、それで飯を食っていける程のチューナーでした。だけど、僕が中2になる前に、母さんと一緒に事故で死んだ。あん時は本当にショックで立ち直れなかったですね。あの時の楽しい日常が、帰ってこないってわかったから。」
桜井は昔のつらい過去を思い出した。だが、その過去を思い出しているときの桜井は、少しだけ笑顔だった。その姿を見た高市は、興味本位の質問をした。「そういや、葬式ん時泣いてなかったな。なんでだ?」「いやぁ、親父によく言われたんですよ。『俺らが死んでも、泣かないで笑顔でいてくれ。その方が、俺らも笑顔で天国に行けるから』って。」
高市は少しだけ目を細めて、桜井の表情を見た。「…なるほどな。やっぱり兄貴の息子らしい。」「そうですか?」桜井は少し笑って聞いた。「笑ってたんだろ。心の奥では泣いてても、表じゃ笑顔でいようとしたんだ。あいつも同じだった。苦しくても、他人には絶対に弱み見せない性格だった。」桜井は、エンジンルームの奥に手を伸ばしてボルトを締める手を止める。
「…でも、走りの世界に戻ってきて、ようやく少しだけ吹っ切れてきたんです。親父が遺した2000GTに、もう一度火を入れて走るようになって…。」高市は、床に落ちていた古いパッキンを拾って、ごみ箱に投げ入れながら言った。「...人はな、走ってる間だけは何かを忘れられる。だけどな、速くなるってのは“忘れること”じゃなくて、“受け入れること”なんだよ。」
桜井は小さくうなずいた。「…それって、どういうことですか?」「過去を乗り越えるってのは、そいつを背負ってでも走り続けるってことだ。いくら踏み込んでも、あの時の後悔や痛みが消えるわけじゃない。でも、それをエンジンに乗せて走ることで、前に進める。」高市は静かに言った。「そういう走り方ができるやつは、強いぞ。速い、じゃなくてな。“強い”だ。」
桜井はレンチを置いて、顔を上げた。「…ありがとうございます。」高市はその視線に、小さく笑った。「ま、今夜はゆっくりやれ。赤田の車が復活したのは、こっちとしても嬉しいが…あいつと小松のバトルがどうなるかは、まだわからん。もし赤田が潰れたら、次はお前の番だ。」「…分かってます。」
午前0時16分、名古屋C1。「チッ、抜けないか!」赤田は小松のFDを追っていた。その後方で、五十嵐は自身のFDから赤田に状況を教えていた。『赤田さん、次のコーナーを抜けて2台アザーカーが並んでる!うまく避けて!』「了解!」赤田は五十嵐の言う通りコーナーを抜けた直後に、アザーカーを確認した。そして3台はアザーカーとアザーカーの隙間をすり抜けていく。
だが、赤田のシルビアがアザーカーを抜けた直後に、ほんの少しリアが抜けてしまった。だが、そのほんの少しを見抜いた小松は、赤田との差をどんどん広げていく。「...くっ!」。『この先は小松さんの得意区間。ここらで巻き返さなきゃまずい!』「分かってる!だから、ここで仕留めなければ──!」フル加速で距離を詰めようとするが、小松のFDは一切の隙を見せなかった。
コーナー進入も、立ち上がりも、まるでライン取りに無駄がなかった。(…なんなんだ、あの安定感。ブレーキングも、姿勢制御も、寸分の狂いもない…いったい何が起こっているんだ?)赤田の焦りが、アクセルワークに滲み出る。どうにか巻き返さなければというプレッシャーに、完全に負けているのだ。そしてS字セクション──赤田は仕掛けた。「…まだだ!まだ終わらない!!」
赤田はシルビアのテールを制御し、極力S字で曲がらずにセクションを抜けた。まるでラインを無視するかのように。リスクばかりの行動に小松は動揺した。意地を張ってまで、リスクを冒してまでも追いつこうとするその姿が、正直恐ろしかった。「なっ...!ここS字で、ここまでまっすぐ抜けるなんて...!」赤田は、小松の動揺している走りを見逃さなかった。
「まだまだ!」赤田はFDとの差をどんどん詰めていく。そして、ついに小松が得意とする山王橋コーナーにたどり着いた。「...焦るな。ここからは私の得意なセクション。ここで放せば...!」小松はたどり着くや否や、体制を整えて赤田を放そうとする──つもりだったが、なぜか赤田はピタリと着いてきていた。ライン取りから何から、すべての技術は赤田に勝っているはずだった。
少し遅れて、五十嵐のFDも着いてくる。「なっ...なぜ放れないのよ!」“昔の走り屋”だと侮っていたことを内心、悔いた。「…アンタって人はッ!」「逃がすつもりは、断じてない!」五十嵐のパソコンに反応があった。一台来ている。『一台、合流車が来てる!すごいスピード!』赤田は感づいた。そして、にやりと笑った。「ガールズファイトは、もう終わりよ。」
赤田は五十嵐に合図をした。「次の出口で降りるよ。」『えっ?降りるの?』赤田は、何かが来ていることがうれしかった。そして、その何かの邪魔になりたくないと、降りるつもりだった。「えぇ。もう、今からは私たちはアザーカーになる。」赤田は、「芽衣。ここからは、あなたの望みを叶えるターンよ。楽しんで。」そう呟いて、ウインカーを出しながら環状を降りて行った。
その背後に、桜井の白い2000GTが姿を現した。「まさか...白翔馬──!?」「走りたかったんだろ...なら、走ってやるよ。心行くまで!」2000GTはものすごい速度でFDに迫る。「...戦う気か...なら、容赦しない。チャレンジャーの走りを見せてもらおうか!」FDも、2000GTから離れる為に加速を始める。それぞれ、気分は最高潮だった。最高潮の走りをするため、2人は完全に集中モードに入る。
(区間が区間で、ストレート続きのこのセクションだと、本当のパワーが必要なんだ。もっとも、相手よりもパワーの低いであろう2000GTじゃ、ここでは押し負けるばかり。だけど、ここで負けてるようじゃ、ARTSにも挑戦出来やしない...走るしかない!)2000GTが、桜井の願掛けに応えるように加速する。
その速さは、小松のFDを超えていた。
(速い!さっきの加速とはまるで違う!これが白翔馬の本当のパワーなの!?)桜井は小松のFDに迫るべく、非力ながらも2000GTは加速を続ける。パワー主義のこの世界で...。
僕の友達と会話してたんですが、友達が面白いことを言ってきたんですね。
「シルエイティにR34のフロントバンパーを移植できないか」って。
「できたら、ものすごいキメラができるんじゃねぇか」って。
シルエイティですから、もちろんフロントバンパーはシルビアなわけで。
作るにはシルビア用のを探すのが必要ですよね。
それで調べてみたら、S13用R34風バンパーってのがありまして、
あると思ってなかったので、めっちゃ驚いたっていう話が、
つい3日前にありました。以上、あばるとでした。