1-12 午前0時の走り屋達
あばるとです。
S15にVR30って入るの?って事なんですが、
知りません。事例がないのでわかりません。
本編どうぞ。
午前10時。HIGH CITYに赤田がやってきた。「お、来たな。終わらせておいたぞ。」高市はエンジンに手を据えて、赤田を待っていた。「わざわざありがとうございます。それで、残りのセットは?」高市は赤田のシルビアの方へと向かった。「あぁ。そっちももう終わってる。受け渡すからついてこい。」赤田は、シルビアの方へ向かい、それを眺めていた。
自分の愛車が、戦闘マシンへと変わった姿を見ていた。「V6エンジンてのは効率がいいもんで、コンパクトなのにパワーもある。好きなエンジンのひとつですね。」高市は赤田の呟きを聞き、あることを思い出した。「...いたなぁ。V型エンジンを崇拝するチーム。」「東京の『V-Racing』の事ですか?いましたねそんなチーム。今は勢力がなくなっているチームですよね。」
高市は工具を手にしながら、少し懐かしそうに笑った。「まぁ、当時は勢いがあったさ。V6、V8、V10…“直列やロータリーは遅い”って豪語してた連中だ。だが、速い奴もいた。…中でも久山って男がいて、そいつは速かった。」赤田は、高市の言葉を聞いて疑問を抱いた。「...V-Racingと、戦ったんですか?」「昔な。25年前だ。チームのメンバーでV-Racingを倒そうとしてな。」
高市はセッティングを終わらせ、スパナをボンネットに置いた。「ギリギリ撃墜したさ。...懐かしいな。あの頃に戻りてぇ。」「...25年前、ARTSが全盛期...いや、ARTSが誕生したのも25年前でしたよね。ARTSのメンツたちとも走ってたりして?」高市はふっと息を吐いた。「まぁ、そうなるな。確かに走った。...もう言うしかないかな。」高市は赤田の方を向いて、ある事実を打ち明けた。
「ARTSの初代リーダーって知ってるか?」赤田は考えるも、やっぱりわからなかった。「...そういえば、あんまり知ってる人を見かけないですね。」高市はまるで遠回しに言っているようだった。「そりゃあそうだ。誰にも教えてないからな。」「知ってるんですか?」高市はため息をついて言った。「知ってるも何も、俺がそうなんだから。」赤田は高市の言葉に驚き、少し固まった。
最初に日本最速の基準を作った人間が、真横にいるとは思わなかったからだった。赤田は目を見開いたまま、高市を見つめた。「……冗談、ですよね?」高市は少し照れたように鼻をかきながら、苦笑した。「冗談だったなら、今この立場にいないさ。ARTSは、最初は仲間と走って日本最速を目指す即席チームだった。いつしか、仲間がこのチームで走り続けたいって言ってきて。」
赤田は息を呑んで、高市の話を聞いていた。「だから、俺は永遠に語り継がれる最強の走り屋チーム、ARTSを誕生させたんだ。あの頃は楽しかった。だが、俺はARTSを創設して1週間もたたずにリーダーの座を降りた。」赤田はその言葉に驚いた。「なんでですか?」「...相棒が事故って死んだんだ。そんでさ、そいつの苗字が、”赤城”で。わかってるだろうが、そいつはあの赤城絵里奈の父親だ。」
赤田の全身に戦慄が走った。最高の走り屋と呼ばれた、赤城絵里奈の父。その相棒である人間が、今目の前にいる。「そんな凄い人と走ってたんですか!?」「凄いわけじゃないさ。ただ、アイツは一匹狼なだけで。速かっただったが、俺と同じで独りぼっち、寂しそうだった。あいつが死んだ夜、俺はハンドルを置いた。ARTSのリーダーの座も、自分の車も、全部手放したんだ。」
赤田は、返す言葉を探しながら、黙り込んだ。目の前にいる男が、そんな過去を背負っていたとは―想像もしなかった。「…じゃあ、今ここでこうしてまた車に向き合ってるのは、なんでですか?」高市はふっと遠くを見るような目で、空になった工具箱の横に腰を下ろした。「気分だよ。理由なんてない。その時の気分で、またやってみようと思ったんだ。」
高市は工具箱の上に肘を置きながら、続けた。「その数年後に、兄貴が不慮の交通事故で死んだんだ。それで、両親を失った中2になったばかりの悠人を引き取ることになったんだよ。兄貴の2000GTと共に。」赤田はこの話を聞いて、すべての線がつながったことに気づいた。「だから桜井君は、2000GTに乗っているんですね。父親の形見であり、自分の愛車に...。」
「だろうな。」高市は、小さく頷いた。「あいつにとっては、ただのクラシックカーじゃない。父親との繋がりであり、自分が“走り屋”として生きる理由でもあるんだろうな。...そんなことよりも、車。いらないのか?」赤田は高市の話に没頭していた。そんな赤田を見た高市は、赤田を我に返した。「あ。そ、そうですね。で、これが...。」「あぁ。オーダーメイドのS15シルビアだ。」
赤田はシルビアのフェンダーに手を触れた。「...これが、新しい愛車...。」シルビアはSPEC-R AEROのフロントバンパーとスプリッターに、ORIGIN製カーボンボンネットとオーバーフェンダー、C-WEST製GTスポイラーを装着した、シンプルなカスタムに変化した。「なんだか、ドリ車感が強いですね。この車。」「だろう?でも、こいつは環状セッティング。パワーも申し分ない。」
高市はエンジンルームのフードを持ち上げ、中を見せた。「心臓は、あんたの希望通り。VR30DDTT。RZ34用のV6ツインターボだ。」「…綺麗…」赤田は思わず口にした。「ミッションはホリデーオートの5速ドグミッション。ECUはMoTeC。インタークーラーは前置き、冷却効率も悪くない。タービンはHKSのタービンを2基、ブーストは1.2キロ。実測で550馬力、トルクは72キロだ。」
高市はさりげなく言ったが、その数値はまさに“化け物”級だった。「これが、お前が求めた、お前が望んだ怪物だ。」高市はシルビアのキーを赤田に渡す。「これでチューンは終いだ。もう行った方がいい。仲間が待ってるんだろ?」赤田はキーを受け取ったまま、しばらく黙っていた。ただのキーではない。それが、どれほど重いものかを理解していたからだ。
「...はい。今までありがとうございました。私、走ります。」赤田は車に乗り、深呼吸を一度してからエンジンを掛けた。ガレージにマフラーから出る轟音が鳴り響く。「...金はいい。勝ってくれればそれでいい。」高市はそう言って、店内に戻っていった。(こんなんだから、経営難なんだろうな。)赤田のシルビアは、HIGH CITYから搬出していった。
SK-AutoTec。五十嵐が店頭で音楽を聴いていると、赤田のシルビアが搬入してきた。「...赤田さんだ!」五十嵐はシルビアに駆け寄る。「ただいま。店頭はどうだった?作業大変だったでしょ。」「うん。めっちゃ大変だった。赤田さんが毎日こんな作業をしてたなんて。」赤田は微笑む。「何か進展は?それか、何か変わったことはなかった?」五十嵐はその言葉に少し黙った。
「…変わったこと、っていうかさ。小松姐さんが来たんだよね。昨日の夜。」赤田の表情が一瞬だけ険しくなる。「…小松が?」「そう。なんというか、少し店内を回ってからこう言ったんだ。”赤田に言っておいて。次のバトルは環状で行う。いつの夜でも準備できてる。”って。」赤田は頭を抱えた。(いったい何がしたいんだか...あの人。)赤田は視線を落とした。
「...わかった。ありがとう。ちょっとガレージ行ってくる。」赤田はガレージに向かい、仲間たちに告げた。「みんな聞いて!私は今日の夜12時ちょうど!環状に出て小松とバトルをする!」仲間は驚く。遂に帰ってきた赤田への歓喜と、本当のドッグファイトの宣言への応援の声が入り混じった。「私は、小松との関係にケリをつけたい...だから、私は走って、ケリをつける。」
赤田はそう言い残し、ガレージを出た。その言葉に、SK-AutoTecのメンバーは熱狂した。「僕も行くよ。僕だって、SK-AutoTecの一員だもん。黙って待ってるわけにはいかないよ。」五十嵐は赤田の肩に手を置く。「...ありがとう。じゃ、とりあえず今日は店を閉めて、走る準備でもしようか。」
深夜0時、名古屋高速都心環状線。通称”名古屋C1”。1台の黒いマシンが、名古屋C1の3周目に入る。(今日もこないか。しっぽ巻いて逃げたかな。)小松のFDだ。小松は退屈そうだった。脱退から5日が立とうとしている今日。後ろからV6とロータリーのエンジン音が鳴り響く。「...やっと来た!」赤田のシルビアと五十嵐のFDが後ろから来ている。SK-AutoTecの2台だ。
(尻尾巻いて逃げるつもりはない。ただ、あなたに言いたいことがあるだけ。それを伝える為に、勝つ!)
走り屋って興味深いですね。
それぞれの感情があって、仲間がいて、
この作品のテーマが"一応"「友情と夢」なんですが、
その二つを両立するのって、案外難しいんだなと
思います。以上、あばるとでした。