1-11 むかしなつかし
あばるとです。
最近、昔やってたスマホゲーを見つけて、
久しぶりにやり始めたんですが、
これがまた楽しいんですね。昔が懐かしいです。
昔って言える程、古い話じゃないですけど。
3日ほど経った頃、2日前から赤田は五十嵐に店を任せて、HIGH CITYに通うようになった。高市のチューニングは、派手でありながらも精密だった。そんなHIGH CITYを通り過ぎる桜井はいつものように杉野と共に下校していた。下校ルートは特に決まっていないので、2人で寄ってみたのだ。(最近、2人とも熱心に車弄ってるよね。何やってるんだろ。)杉野は考えた。
「少し店の中に入ろう。なにかいいのがあるかも。」桜井は杉野を連れて、HIGH CITYの店内に入った。ドアが開く音がして、高市は桜井だと気づいた。「...ちょっと待っててくれ。」高市はチューニングから手を放し、店内に向かう。「いらっしゃい。杉野君も来たのか。」「はい。少し暇なもんで。」高市は作業用グローブを外しながら、カウンターの奥へと回り込む。
店内は薄暗く、オイルやパーツの匂いが混じった空気が漂っていた。「そういや、ガレージで何やってるんですか?最近赤田さんと何かやってるようですけど。」桜井は気になっていたことをハッキリと聞いた。「少し、見てくか?多分、勉強になるぜ。」高市はガレージの方を向いて言った。「...そうします。ホラ杉野、行くぞ。」桜井は杉野を連れて赤田が作業をしているガレージに向かった。
「...桜井君。」赤田はクリーパーの上に寝そべって作業をしていた。「シルビアを直してたんですか。ブローしちゃったから、走らせられないですもんね。」赤田は手を止めて、軽く笑った。「まぁね。ブローって言っても、ただじゃ起きないよ。どうせ直すなら、今まで以上の仕様にしようと思ってさ。」桜井はその言葉に思わず反応した。「今まで以上…って、前のRBよりも速いって事ですよね...。」
赤田は車体の下から出てきて、桜井の言葉に返した。「そ。前のRBは使い物にならないから、今度はRZ34のVR30でも乗せようと思ってさ。狙うは550馬力。」杉野が驚いたように口を開いた。「Zの!?...よくそのエンジンにたどり着きましたね。」赤田は笑って、首元のタオルで額の汗を拭った。「たどり着いたというか、たまたま良い出物があってね。まぁ、高市さんのコネもあるけど。」
桜井は思わずエンジンルームの方を覗き込もうとしたが、赤田に軽く制された。「まだ組み上げ途中だから、あんまりジロジロ見ないでよ。サプライズってことで。」「でも、550馬力って...。前より50馬力くらい下がるんじゃ…?」杉野がぽつりと漏らす。「数字だけ見たらそうかもね。でも、RBは冷却もバランスも限界だった。どれだけチューニングしても、
熱という敵が邪魔をして回せない。今度のは“ずっと回せる”V6。戦える時間が違うのよ。」桜井は小さくうなずいた。「じゃあ、本気ってことなんですね。」赤田はその言葉に、すっと目を細めた。「うん。本気だよ。私にはやらなきゃいけない理由があるから。」その時、ガレージの奥から高市が顔を出した。「おーい赤田、オイルラインの取り回し、ちょっと見てくれ。」
「はーい!」赤田は桜井たちに振り返り、「話はここまで。…そのうち見せてあげる。完成したらね」と言って、また作業へと戻っていった。「...もう帰ろう。暗くなってきた。」杉野は頷き、桜井と共にガレージを後にした。外に出ると、すでに夕闇が街を包みはじめていた。
その日の夜。高市はVR30を手に入れるため、横浜に住んでいるという、友人の倉本に電話を掛けた。「なぁ倉本。VR30が欲しいんだが、そっちにスクラップにする予定のRZあるか?」倉本は、スクラップにする予定のZを見る。『VR30か。えーと、スクラップ用の奴は一応あるぜ...どうした?最近、またチューニングにでもハマったか?』高市は微笑ながら、予定を立てた。
「フン、なんだっていいだろーよ。とにかく、今からそっち行くから、エンジン抜いといてくれ。」倉本は少し呆れた言い方で言った。『横浜まで来るのか。別に構わないが、わざわざここまで来る必要はないぜ?オヤジが無理したら、チューニングもやってる暇なくなっちまうぞ?』「いいさ。どうせこの店に来る奴なんて、コアなやつしかいないんだから。じゃ、あとでな。」
高市は電話を切り、荷物を持って軽トラに乗った。(長距離移動なんて久しぶりだな。少し楽しみだな。)軽トラは徐々に速度を上げていき、横浜へと向かって行った。
深夜、横浜。倉本の運営している廃車置き場、「SCRAP SPORTS」に名古屋ナンバーの軽トラが搬入してきた。高市は、廃車の積み重なった姿を、軽トラの窓から見ていた。「不思議だな。これが全部一時抹消だとは。絶対走れないであろうやつも、ナンバーとはな。面白いことするもんだ。」そうこうしていると、倉本はガレージの外で缶コーヒーを片手に高市のもとにやってきた。
「おいおい、太陽が昇る前に来るとは思わなかったぜ。じいさんが朝市に行く時間じゃねぇんだからよ。」高市は軽トラを止め、静かに降りてきた。「どうせ寝ても3時間だ。だったら走ってた方が健康的だろーよ。で、エンジンは?」「降ろしたぜ。とりあえず、お前も車から降りろよ。」倉本は高市を車から降りさせて、エンジンの置いてある方に向かった。
「これだ。クラッシュ車だからボディはダメだが、エンジンは奇跡的に無傷だった。クランキング確認済み。載せ替えベースにはちょうどいいだろ。」高市はそれを見て、うっすらと口元を緩めた。「運がいいな…いや、タイミングが良すぎる。」倉本は、職人として生きなおす高市が懐かしかった。「お前は、25年前とシワが増えただけで、性格も何も変わってねーな。」
高市は苦笑しながら、ゆっくりとエンジンの周囲を一周するように見て回った。「…皮肉でも、褒め言葉に聞こえる年になっちまったよ。」VR30DDTTは、埃をかぶってはいたが、オイルの滲みもなく、補器類も揃っている。確かに“再起動”には理想的な状態だった。高市はエンジンのブロックに手を添え、その冷たい金属の感触を確かめる。「これなら完璧だな。使える。」
倉本は高市に聞いた。「...そういや、このエンジン何に乗せるんだ?お前のパルサーか?」「あんな小さいのに載んねぇよ。シルビアだ。S15の。」倉本は首を傾げた。「あれ?お前15なんて持ってたか?そんな話聞いたことないが。」高市は少しだけ肩をすくめて、エンジンから手を離した。「俺のじゃない。赤田って女のだよ。名古屋でそこそこ有名なチューナーだそうだ。」
倉本は「ふーん」と興味なさそうに言いながらも、その奥にある何かを察していた。「つまり、その女の”車”から”マシン”へと仕上げるために、わざわざ横浜にパーツを仕入れに来たと。よくやるねぇお前。」高市は苦笑いした。「赤田はエンジンをブローさせて、新しいエンジンに乗せ換えたい。それで選んだのが、VR30なんだと。昔と違って、今は面白いよな。」
高市はエンジンをフォークリフトに乗せ、軽トラの荷台へと運んだ。「もう帰るよ。今日はありがとうな。金は適当に口座に振り込んどくから。じゃあな。」倉本は高市が運転席に戻るのを見送りながら、缶コーヒーを傾けてつぶやいた。「まったく、昔からそうだよな…そうやって“誰かの夢”に肩入れして、勝手に燃えてんだから。」高市は窓を開けて、バックミラー越しに笑った。
「夢なんて、もうとっくに見てきた。今は、走りを見てる方が楽しいんだよ。」「…老け込んだセリフだな、おい。」「お互い様だろ。」そう言って高市はクラッチを繋ぎ、トラックは静かに発進した。エンジンを積んだ軽トラは、まだ夜の明けきらぬ横浜の港を背に、名古屋へと向かって再び走り出す。倉本はその背中を見送ると、夜空を見上げてため息をついた。
「…“夢を運ぶ”には、ちょっとばかり重たそうな背中だな。」そしてもう一口、冷めた缶コーヒーを飲み干した。
その日の朝。名古屋、『HIGH CITY』。「いってきま...あれ。」桜井は学校に向かう前、必ず高市に会っている。いつもはガレージでパルサーを弄っている高市だが、今日はその姿が見当たらなかった。(どっか行ってんのかな。)ドアにかけているボードには、「横浜にパーツを仕入れに行っています。」と書かれていた。「横浜...遠いところ行ってるんだな。」
桜井はそのまま学校に向かおうとした時だった。前から、知ってる顔が軽トラに乗って走ってきた。「お、悠人。これから学校か。」高市は、横浜から帰って来たのだ。「あ、高市さん。帰って来たんですね。」「あぁ。少しな。パーツ仕入れのついで、古い友達と会ってきたよ。じゃ、いってらっしゃい。」桜井はスクールバッグを持って、歩き始めた。「はい。行ってきます。」
高市は軽く手を振り、そのまま『HIGH CITY』のガレージ前に軽トラを停めた。荷台には、ブルーシートで丁寧に覆われたエンジンが積まれている。(…さて、ここからが本番だ。)
倉本は25年前、走り屋だった
高市のマシンに付けるパーツを仕入れたり、
取り付けたりしていた元チューナーです。
走り屋だった時もありましたが、高市と出会ったのは
もっと後の事でした。以上、あばるとでした。