第66話 先輩
期末試験まであと一週間。
普通、この時期になると皆一斉に勉強モードに入り、友達と遊ばなくなり、ゲームや漫画を控え、テスト対策に集中する。
高校二年の夏は、進学者にとっても就職者にとっても、重要な時なのだ。
現に俺の周りでも、勉強勉強勉強勉強の奴らばっかり。
しかし、中には例外もいる。
テスト一週間前にも関わらず、カラオケ行ったり、映画行ったり、漫画読んだり、戦国BA〇ARAやったり。
ちなみに作者は幸村使いだ。烈火大好き。
んな事はどうでもいいんだ。
まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと・・・
「せっかくの高二Lifeを勉強だけに費やすのはもったいない!!」
今、我々は青春を謳歌すべき時なのだ。
16の夏など、今しか味わえないのだ。
だから俺は・・・
「勉強しない!!」
「それ、ただの屁理屈だろ」
現在、俺は赤佐君と下校中。
「るせぇ、勉強したら負けなんだよ、負けちまうんだよ青春に!!」
「青春にって・・・お前、青春してんのか?」
「まあ、何と失礼な」
俺だって青春真っ盛りだハゲぇ!!
「赤佐、お前こそ勉強ばっかで、青春して・・・るか」
「な・・・ばっ、春吉!!」
赤くなってますぞ、赤佐だけに。
・・・今、上手い事言えなかった。
「赤佐君よぉ〜、あれからどうなの? 荏咲さんとはよぉ〜?」
「う、うるさい! その事はほっといてくれ!」
「ハハハ、うぶな事・・・」
「うるさい!!」
これは・・・からかいがいがある。
「ほれほれアンタ、小夜のメアド知ってるか?」
「なっ・・・し、知らないけど・・・」
「あらま〜!! 俺、小夜のも知ってるし、小夜の弟君のも知ってるし!」
「そ、それはお前が荏咲さんと昔から仲いいからだろ!!」
「あら〜、嫉妬かしらこの子?」
「春吉っ!!!」
「アハハハ、済まん済まん!!」
ガチでからかいがいがあるな。
って思いながら下校していると。
「あ」
本屋発見。
そういや今日、俺の好きな小説の発売日だっけ。
まぁ、もちろんラノベだが。
「赤佐済まん、ちょっと本屋寄っていいか?」
「ん? ああ、別にいいけど」
と、言う事で本屋。
本屋の中はクーラーガンガン。
あ〜、涼しい!!
「アカンな、この涼しさはアカン」
「何がどうアカンなんだ?」
「とにかくアカン」
みたいな事を言いつつ、俺は最新ラノベコーナーへ直行。
「えーっと・・・」
「春吉、お前何探してんの?」
「あ? ああ、“メイドなアニマル”の最新巻の6巻」
「・・・ああ、この前春吉ん家に行った時にあった、あの獣っ子の・・・」
「赤佐、お前猫耳や犬尻尾、ウサ耳や肉球、なめるなよ」
メイドなアニマル
まぁ、擬人化した動物達がメイド喫茶やる話。
この小説で挿絵書いてる人の獣っ子、すげぇ可愛いの。
「獣っ子か・・・俺には全然分からん」
ふん、赤佐に分かってたまるか。
・・・ってか、アレ?
1、2、3、4、5・・・・・。
「・・・嘘だ」
「どうした春吉?」
マジでか・・・嘘だろ・・・最悪だ・・・
「最新巻が・・・な・・・い・・・」
あああぁぁぁぁ!!
「何故だ? アレはまだそんなに人気は高くないはずなのに・・・」
「んなら、店の人に聞けば?」
「あ、ああ・・・」
まぁ落ち着け俺。
まだ、店の倉庫にあるかもしれない。
ここは、一旦店の人に聞こう。
その時!!
「メイドなアニマルの最新巻、ありますか?」
「あ、はい。・・・こちらがちょうど最後の一冊です」
何となく聞こえた会話。
・・・まさか。
俺は恐る恐る、声の聞こえたレジの方を向く。
そこには女の人と店の店員、そして店員の手元には・・・。
メイドなアニマル6巻
「な・・・ッ」
今、店員さん、最後の一冊とか言ってたよね?
あ・・・ぁ・・・。
一方の女性の方は、超嬉しそうな顔。
半袖のワイシャツに、チェックのスカート、我が母校独自のリボン・・・って葉城高生かい。
リボンが赤ということは、3年生か。
んだよ、1年生なら脅しが効いたのに。
それよこせ、みたいな。
・・・そしたら俺、超大人げないよな。
「どうした春吉? 本あったか?」
そう言う赤佐の手元には、NA〇UTOのコミックスが数冊。
「・・・お前はいいよな、望みの物が買えて」
「は? ってか、お前の望みの本はあったの?」
こいつ・・・
「・・・あの人が持ってるので最後だってさ」
もういいや・・・
明日、地元の本屋で探せばいいや。
「あの人? ・・・って、あの女子生徒か?」
「ああ・・・」
はぁ〜・・・
「あの人・・・本谷先輩じゃねぇか?」
「・・・あ?」
本谷先輩? って誰?
一方、向こうは今の赤佐の発言が聞こえていたらしく、ビクッとこちらに振り向いた。
短めの髪を後ろで束ね、黄色いリボンで結んである。
顔は小さく瞳は大きい。
肌は若干小麦色。
・・・普通に可愛い人だな。
しかし、向こうは超焦り顔。
何で?
そして・・・
彼女は風の如きスピードで本の会計を済ませ、音速の速さでこの本屋を後にした。
・・・え?
ってか早ッ!!
「へぇ〜、本谷先輩ってラノベ読むんだ」
一方の赤佐は亀の如きのろのろスピードでコミックスの会計をしていた。
ってか、ガチで本谷先輩って誰?