第7話 街灯の下で
「楓、勝てるかなぁ〜・・・?」
「勝てるだろ。あいつ半男生物だし」
現在、俺達は近所のアリーナに来ています。
え?なんでアリーナにいるのかって?
そりゃ、楓の柔道大会の応援のためだよ。
まぁ、詳しくは前話を見てくれ。
で、今第三アリーナの2階観覧席に俺と美羽はいます。
「にしても、あいつが大将とは・・・世も末だな・・・」
「世も末って・・・楓は結構強いらしいよ?」
「らしい・・・」
俺と美羽が客席でゴダゴダしていると・・・
〔ただ今より、女子柔道団体戦、葉城高校と岡田工業高校の試合を始めます・・・〕
アリーナ内に響くアナウンス。
「お!始まるみたいだぞ!!」
「葉城がんばれ〜!!」
・・・言っとくが、俺はあまり柔道の事を知らない。多分読者の方に難しい事言っても分からないと思うので、見た感じに脳内実況します。
「春、アンタ誰と話してるの?」
「あーいや、何でもない」
おっと、いかんいかん・・・。
〔では先峰、葉城高校、本谷雛乃、岡田工業高校、佐橋小夏、両者前へ〕
本格的に始まるみたいだな・・・。
葉城の先峰は三年生なので、あまり知らない人だが。
「さて・・・どっちが勝つんだか」
「どっちが勝つって・・・葉城校に決まってるじゃない!!」
必死な美羽。
まぁ、我が母校だからな。勝っては欲しいが・・・。
〔試合始めっ!!〕
おっと、いつの間にか始まっていた!!
アリーナ内の客はまばらなので声援は微妙!!
まぁ、とにかく頑張れ!!
まぁ、楓以外は割愛します。アハハ・・・
つーか今回の試合、先鋒、次鋒、中堅、副将と葉城の連勝。
もう楓の出番はなし。
第一回戦は葉城の圧勝でした。
「呆気なかったな」
「呆気なかったね」
本当に呆気なかった。
まさに瞬殺。
「・・・見ろ美羽、アリーナの端っこにガッチガチになってる楓がいるぞ」
アリーナの西側の選手入場口付近に、なにやら不審な高校生が!!
「うわ〜、超ガッチガチじゃん楓・・・」
ロボットみたいにガシャガシャと動いている楓。
ハハハ、珍しいから写メっとこ。
「まぁ奴は大将だからな・・・つーか、本当にあいつ大将なのか?」
確かにバカ力はあるが・・・
「大将だよ、だって楓はウチの柔道部で1番強いんだって!!」
「1番!?」
さ、三年生の先輩をさしぬいて1番!?
「うん、だから二年生ながら大将になったんだって」
「ほへ〜・・・」
凄いな・・・さすが実家道場っ子。
「あ、次の試合始まるみたいだよ!!」
美羽の目がマジ・・・
確かコイツも柔道のルール知らないのに、よく試合に集中できるな・・・。
「次は・・・松田高校か・・・知らん名だな」
松田・・・松田・・・うん、やっぱり知らない。
〔では、これより松田高校と葉城高校の試合を始めます〕
まぁ、試合は接戦。
先鋒はこっちが綺麗な背負い投げで一本、勝利。
次鋒はこっちが判定負けしてしまい、敗北。
中堅は逆にこっちが判定勝ち、勝利。
副将はまたまた判定負け、敗北。
現在二勝二敗、全ては大将、楓の手に!!
〔大将戦、葉城高校、沢那楓、松田高校、藤平華子、両者前へ〕
相手―――藤平華子は見た目はゴツイゴリラ的な女性。
うわー、アマゾンとかにいそう。
逆に楓は高二の平均身長よりちょっと小さめ、しかも細身。
楓いわく、柔道は剛ではない、柔のスポーツらしい。
「あいつ、あんなんで勝てんのか?」
奴の足、ガクガクしています。ここからでも見て分かる程に・・・。
「楓・・・」
美羽は隣で手組んでます。神様にでも祈ってんでしょうか?
〔では・・・始めっ!!〕
お、始まった!!
・・・開始わずか10秒、決着つきました。
「ウェイッ!!」
気合いを入れる声?もしくは奇声?を上げた華子は、早速楓に接近、柔道着の袖を掴もうとした
その時・・・
「せいっ!!」
一瞬だった。
咄嗟に楓は華子の下に潜り、一気に背負い投げ!
な、何が起こったのか分からん程、速かった。
〔い、一本!!〕
奴は天才かッ!?
「す、凄いよ楓、すごぉ〜い!!」
美羽・・・跳ねるな、落ち着け。
〔勝者、葉城高校!!〕
ここから、他の仲間と笑顔で談話している楓が見えた。
・・・嬉しそうだな。
満面の笑みを浮かべてやがる。
その後、三回戦柳沼高校にはストレート勝ち。
四回戦須貝学園には次鋒が負けたが、その他は勝ち。
準決勝星村高校は、まさかの大接戦。
先鋒、次鋒が相次いで負けてしまったが、中堅、副将、大将の楓が何とか勝ち、決勝戦進出決定!!
「さっきの高校、ヤバかったよね?」
「ああ・・・星村は柔道の強豪校たからな。あの半男生物はよく頑張ったよ・・・」
さっきの対星村、大将戦は、まさに一進一退。
何とか楓があっちの大将に食いつき、ギリギリの所で勝ったのだ。
「次はいよいよ決勝・・・相手は征咲高校か」
ああ・・・外はもう薄暗くなってら・・・。
・・・本当に葉城は決勝戦まで来たんだな。
「春、試合始まるよ!!」
「ん?ああ・・・」
いよいよ決勝戦。
泣いても笑っても、これが最後!!
〔女子柔道団体戦決勝、征咲高校と葉城高校の試合を始めます〕
アリーナ内にアナウンスが響く。
美羽の目はマジ。よし、たまには俺も集中しよう!!
先鋒戦
試合は葉城の勝ち。
こちらの先鋒は相手の足元を狙い、何とか相手をひっくり返し、固める。
んで勝った!!
次鋒戦
試合は征咲の勝ち。
次鋒の三年生は、今日はスランプらしく、呆気なく一本を取られてしまった・・・。
中堅戦
試合は征咲の勝ち。
まさかの二連敗。こっちの中堅の僅かな隙をついて相手が一本。
副将戦
試合は葉城の勝ち。
ここに来て葉城柔道部部長が意地を見せた。
綺麗な巴投げで一本。
そして・・・
「ついに来たか」
大将戦!!
「楓ぇ〜!!」
美羽は手でメガホン作って叫ぶ。
きゃー恥ずかしい、隣にいるこっちの身になれ!
〔大将戦、征咲高校、尼郷夕香、葉城高校、沢那楓、両者前へ〕
二人は両陣営からアリーナ中央へ。
相手は至って普通の少女と言った感じ。
楓の方は、もう緊張はしてない様子。
「・・・ん?」
その時、ふと楓と目が合った。
中央へ移動中、たまたまこちらを見た楓と、目が合ってしまった。
「あ・・・・・」
次の瞬間、楓は慌てて前を向く。
・・・ん?顔が・・・赤くないか?
とにかく楓は急ぎ足でアリーナ中央へ。
「・・・春、今、楓と目ぇ合った?」
どうやら気づいていたらしい美羽。
「ん?ああ・・・」
ふ〜ん、とそっぽを向く美羽。
どうした?
〔では、試合始めっ!!〕
おっと、試合が始まってしまった!!
お互い、睨み合うようにジリジリ動き・・・
パッと楓が相手の襟を掴んだ・・・が、呆気なく降りはらわれた。
・・・あれ?
今、攻めるタイミングではなかったような・・・
「ん?」
また攻めた・・・しかし、また相手に降りはらわれ、しかも今度はこっちの袖を掴まれる始末。
今のは素人でも分かる、あれは攻めるタイミングじゃない。
何を焦ってんだ、あいつ・・・?
「・・・ッせいっ!!」
また強引に攻めた!!
バカかあいつ、体格差を考えず、前に踏み込みやがった!!
そして・・・
相手は攻めて来た楓をすんなりかわし、足を引っ掻けそのまま倒す。
「・・・・ッ!!」
楓の顔は、驚きに満ちていた。
〔一本ッ!!〕
審判がフラッグを上げる。
その瞬間、征咲応援サイドからは歓声が上がった・・・
『うおぉーーーー!!』
会場は熱くなる。
相手チーム大将はガッツポーズ&笑顔。
一方、楓は・・・下を向き、俯いたまま・・・。
ここからでも分かる、あいつ・・・震えている。
「楓・・・・・」
隣を見ると、美羽が心配そうに楓を見つめていた。
〔3対2で征咲高校の勝ち、礼!!〕
『ありがとうございましたぁ!!』
アリーナ中央での試合後の挨拶が終わり、両チームは自分達の陣営へ。
「葉城、負けちゃたね・・・一応小夜に連絡いれとこ」
美羽は隣で携帯を取り出し、小夜にメール。
俺は何となくアリーナ西側の葉城高校陣営に目を向けると・・・
「・・・・・ん?」
仲間達からの慰めの言葉を無視し、一目散にアリーナの外へ走り出す少女が一人。
「・・・楓?」
楓だ・・・
「ん?どうしたの?」
美羽の目線は携帯の画面、楓に気付いていない。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
「はーい」
俺はとりあえず席を立ち、アリーナの外へ。
アリーナの外へ出ると、外はもう真っ暗。
俺が辺りをキョロキョロ見渡すと、遠くの街灯の下に柔道着姿の少女を発見。
下を向き、拳は強く握られ、体は震えている。
「ったく、世話の掛かる女だ」
仕方ない、このスーパーハードボイルドマグナムの俺が直に行ってやるか。
少し小走りで楓の背後へ。
「おい」
俺が声を掛けると、楓の体はビクッと反応。
街灯の明かりに照らされてる楓の姿は、いつにも増して小さく見える。
彼女の着ている柔道着はしわくちゃになっており、足元には靴が履いておらず裸足のまま。
多分、アリーナからそのままここへ走って来たのだろう。
「どうしたんだよ?だ、大丈夫か?」
「うっせぇな!!」
帰ってきたのは、大声ながらも震えている声。
「どうせ、あたしの事、馬鹿にしに来たんだろ!?」
「はっ!?」
その時、楓は体をこちらに向けた。
下に俯いているため、前髪が邪魔で顔が確認できない・・・。
しかし、グッと顎を噛みしめ、涙が一粒、彼女の頬を伝ってアスファルトに落ちるのが分かった。
・・・とりあえず、慰めないと!!
「・・・お前は、良く頑張ったと思うよ、俺は」
これは事実。
確かに楓は、良く頑張ったと思う。
「・・・嘘だ、絶対そんな事思ってない!!」
「ほ、本当だ!!」
また一粒、涙が彼女の頬を伝う。アカンなコレ。
「か、楓・・・」
「うるせぇ!ど、どうせあたしは、せ、攻めるタイミングも分からない、馬鹿な奴なんだッ!!」
コイツ、あの事自分で分かってたのか。
「・・・おい」
「もう・・・こんなんじゃ・・・示しが・・・つかねぇ・・・」
ぽろぽろと涙が溢れてくる楓の瞳。
・・・・・もういいや、後でどつかれても。
俺は右足を一歩、踏み出し・・・
ギュッ!!
「えっ・・・」
楓をそっと抱きしめた。
「お前は良くやったと思うぜ。大将って言う超圧力の中、頑張って戦ったんだ。スーパーすげぇよ」
・・・ここで絶対、楓からパンチが飛んでくるな・・・
っと思ったけど、あれ?パンチが来ない。
俺はそーっと楓の顔を伺う。
そこには、涙をボロボロ流し、俺の胸の中で思いっ切り泣いている、楓の姿があった・・・。