第24話 約束
その時、俺は全てを思い出していた。
「思い出してくれましたか?木山さん・・・いや、春吉くん・・・」
「あ、ああ・・・」
・・・気まずい。
正直、思い出したと言っても、ぼんやり程度。
細部までは覚えていないし・・・。
つーか、それ以前に、この子があの時の亜希ちゃんかよ!!
雰囲気、変わりすぎだろ、コレ・・・
昔はもっと、活発なイメージがあったのに、今は逆におしとやかイメージ。
「じゃ、じゃあ、結婚は・・・?」
「えっ・・・いや、マジで?」
どうしようか・・・
ぶっちゃけ、もう帰りたい・・・あ、ここ家か。
「・・・春吉」
「ハッ!!」
さ、小夜!!そんな目で俺を見るなッ!!
「春吉くん・・・」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!」
ここは冷静な対処を!
「け、けけ結婚って言ったって、ま、まだ俺ら、お互いの事、何も知らんだろ!?」
「いえ、私は知ってますよ?」
はい?
「木山春吉、16歳、2月3日生まれの水瓶座、好きな物はアニメ、特技は口で綺麗にみかんの皮を剥けること」
「・・・・・」
得意げに話し始めた亜希ちゃん・・・いや、渡邉さん。
「あの・・・」
「はい?」
俺は勇気を持って質問!!
「その情報は、どちらから・・・?」
ヤクザの裏ルートだったりして・・・
「ああ、春吉くんの事は全て、春吉くんのご両親から・・・」
「・・・なるほど」
あのクソ両親め、とうとう息子を売ったかッ!!
「私も、始めは驚きました。まさか、春吉くんのご両親と私の両親につながりがあったなんて」
つながり・・・ああ、借金か。
「・・・春吉くん」
「は、はい?」
渡邉さんは姿勢を直し、俺の顔に視線を向けた。
「お金の件は、私から父にお願いして、何とか帳消しに出来るよう、話しをしてみます」
「はぁ・・・」
借金の件は、両親が俺に内緒でやっていた事だから、俺にはイマイチ分からん・・・。
「・・・そして、春吉くん」
「は、はい?」
彼女の顔は、ほんのり赤くなっていた。
「改めてですが、あの時の約束、結婚の・・・」
多分だが、次に渡邉さんが発するであろう言葉が、予想できた。
そして、渡邉さんが何か重要な事を言おうとした、その時・・・
「・・・だめ」
今まで静かに傍観していた小夜が、ボソッと呟いた。
「さ、小夜?」
小夜はそっと、俺の側にやって来た。
「・・・だめ。それは、絶対」
「はい?」
彼女の瞳は、何かを訴えているのが分かる。
「・・・そう言えば、あなたは?」
一方、渡邉さんは、話しの腰を折られたのか、話題を小夜へチェンジ。
「あ、そっか。渡邉さんは小夜と違うクラスだったっけ」
懐かしい幼稚園時代。
俺と渡邉さんはきりん組、その他メンバーはぱんだ組だった。
だから、面識はないのか。
「こいつは小夜。まぁ、学校でのクラスメートで、昔からの友達だ」
俺は小夜の顔をちらっと見る。
小夜は、目を伏せていた。
「友達・・・ですか」
・・・あれ?渡邉さんの目は、なんか訝しげ。
「そう、友達だ・・・」
その時!!
スパァァァンッ!!
「うおっ!!」
突然、和室の襖が勢い良くオープン。
そして・・・
「春!!覚悟ぉ!!」
「み、みは・・・」
ゴンッ!!
・・・突然、乱入してきた美羽に、顔面をグーで殴られた。
痛いです。
「痛っ、な、何すんだ!!」
「いや、そう言えば昨日の仕返ししてなかったから、今から半殺し!!」
「昨日?」
昨日・・・・・昨日・・・・・あ!!まさか、電車事件かッ!!
「なぜ今!?」
「いいから殴らせろぉ!!」
ゴンッゴンッゴンッ!
「痛い、痛い!!目はアカン!!」
つーか、マジでなぜ今復讐を実行?
理不尽&タイミングが悪い!!
ほら、渡邉さん、引いてるし!!
「ちょっ、待て、一旦止め・・・」
「春のバカァァ!!」
ギャアアア!!目潰し止めてぇ!!
つーか、こいつの目、超怖い!!
「全部丸聞こえなのよ、何が、何が・・・」
「み、美羽!?」
「何が結婚よぉ!!」
ゴンッゴンッゴンッ!
「だから目は止めッ、ギャアアア!!」
が、眼球がぁ!!
そしてその時、
「春吉、食器ってどこにしまえば・・・」
キッチンから、楓がやって来た。
「お!?春吉、プロレスごっこか?」
この状況がプロレスに見えるかぁ!!
「ちょっ、楓、た、助けて・・・」
「春のアホォォ!!」
ドカッゴンッバシッ!
「あっはっは、頑張れ春吉!」
のんきな事言ってる場合じゃねぇ!!
俺は楓からの救助を諦め、視線をさ迷わせる。
その時、
「お、女の子3人と・・・同棲」
・・・今、何か・・・変な言葉が聞こえたような・・・。
「あの春吉くんが・・・女の子3人と・・・」
・・・俺は、目潰しで半分死んでしまった目で、何となく渡邉さんを見た。
渡邉さんは、呆然としていた。
多分だが・・・変な誤解をしていると、俺は思う。
「わ、渡邉さん?」
「あの春吉くんが・・・同棲・・・」
やはりかッ!!
「ちょっ、ま、変な誤解してない?」
「3人・・・ふ、不潔ですッ!!」
・・・たった今、ここ木山家に、新たな大誤解が生まれた。
「もう嫌ですっ!!」
渡邉さんはそう言うと、ガバッと立ち上がり・・・・・。
「3人はさすがに嫌ぁ〜!!」
玄関へダッシュ。
「あ、ちょっ、違う・・・がぁ、美羽、だから目は止め」
「春死ねぇ!!」
バタンッ!!
玄関のドアの、閉まる時の音が、家中に響いた。
俺はただ、美羽の半殺しを受けながら、そのドアの音を聞いてる事しか出来なかった。
ミニコーナー、キャラクタープロフィール紹介!
キャラクターNo.8
渡邉 亜希
(ワタナベ アキ)
女性、現在16歳、須貝学園二年二組在籍。
身長:159cm
体重:53kg
誕生日:12月30日
血液型:A型
好きな物:木山春吉、紅茶、マドレーヌ
嫌いな物:紅生姜、漬け物、財閥、差別
趣味:木山春吉関連の情報収集、日光浴
特技:茶道、華道、琴演奏
その他:渡邉財閥の正式な跡取り、渡邉財閥の力からとある幼稚園を救った過去がある。