第12話 春吉ママ後編
グゥ〜・・・
は、腹減った・・・
「じゃあ私、空ちゃんと七星君を幼稚園と保育所に連れて行くから、春、楓、後は任せたわよ!!」
「あいよ!!」
そう言うと美羽は、空と手を繋ぎ、七星を抱っこしながら外出。
「・・・何か、何処かにいそうなお母さんみたい・・・」
そう呟きながら、洗い物を再開する俺。
結局、俺の朝飯はなし、しかも洗い物のおまけまで着いてきた。
「はぁ・・・腹減ったなぁ・・・」
つーか、腹減りすぎて気持ち悪くなってきた。
「全く・・・」
もう嫌になる。
しかも・・・
「春吉ぃ!!洗濯機ってどう使うんだ!?」
脱衣所からは楓の叫び声。
「スタートボタンを押せっ!!」
「了解!!」
ならよし。
俺は洗い終えた皿を棚へ置こうとした・・・
その時
ドウゥゥンッ!!
「なっ!?」
突然の轟音と振動。
俺はあいにく皿を落とし掛けた。
「は、春吉!!助けてぇ!!」
脱衣所からの悲鳴!!
あいつ・・・何をやらかした!?
俺が洗い物を終え、脱衣所へ行くと・・・
「なっ・・・こ、これは・・・」
「あ、あはは・・・やっちまった」
そこには、洗濯物を頭からかぶった楓の姿。
しかも、床一面水浸し状態・・・
「お前・・・何をやらかした!?」
すると楓は笑いながら・・・
「間違えて、違うボタンを押しちった☆」
「な・・・押しちった☆じゃねーよ、お前何してんだよ!!」
コイツ・・・一人で洗濯も出来ないのか!?
「何って、洗濯」
「これが!?」
もう床がウォーターパラダイス!!
「もう・・・なら春吉がやれよ!!」
楓は少し拗ね気味。
「・・・いや、本当なら俺がやるハズだったんだけどね」
先程の苦い記憶が・・・あの時、美羽からもらった傷(と言うかアザ)が、痛む・・・。
「もう・・・あたしは家事とか無理っ!!」
あ〜あ、本格的に拗ねたなコイツ。
「・・・分かった。じゃあ、お前は雑巾持ってこい」
・・・まずはウォーターパラダイスの処理をしないと・・・。
・・・もう多くの人は薄々、気が付いているだろうが、楓は家事が出来ない。
洗濯機はウォーターパラダイスへのチケットになるし、掃除機はゾウさんへ変身するし、泡立て機やフライ返しは双剣〔コウリュウノツガイ〕になってしまう。
・・・楓に1番似合わない言葉と言えば「家庭的」の三文字。
「はい雑巾!!」
「・・・・・」
俺は無言でそれを受け取り、床をゴシゴシ。
「・・・な、何かあたし、やる事ある?」
「・・・もうすぐ小中学校は登校の時間だから、ちびっこ達のお見送りしてこい」
「アイアイサー!!」
楓はダッシュで玄関へ。
はぁ・・・。
「・・・よし」
俺は無事、ウォーターパラダイスを終演させる事に成功。
「後は掃除か・・・」
あ、あと学校に少し遅れると連絡を入れた方がいいな。
とりあえず、この雑巾を片付けて、洗濯物を何とかしないと・・・
「おい、楓ぇ!!」
俺は洗濯機の中に衣類を入れながら叫ぶ。
・・・出来るだけ視線は外に。
「なに?」
廊下からひょっこり顔を出す楓。
「洗濯機のスイッチ入れとくから、洗濯が終わったら干しといて!!」
干すくらいなら、コイツでも出来るだろ。
「分かった・・・けど、あまり期待はしないでね・・・」
え!まさか干すのに自信がないのか!?
何だコイツ!?
「お前、干すくらい出来るだろ?」
「うん・・・一応な」
一応!?洗濯バサミやハンガーに衣類を掛けるだけの作業に、一応!?
「ああ・・・じゃ、じゃあ任せた」
ぶっちゃけ時間がないから、仕方なく楓に任せる事にしよう。
再び、この地で、水の祭典〔ウォーターパラダイス2010〕が、開催しない事を願って・・・。
「・・・もう、ちびっこ達は学校へ行ったか」
俺は掃除機片手に玄関を確認。
とりあえず、あと玄関を掃除したら、掃除自体は終了。
「ふぅ・・・」
今現在、ベランダでは楓がハンガーと戦闘中。
その様子が、あまりにも悲し過ぎるので、割愛します。
だって、ハンガーという無機質相手に本気のパンチとか・・・
「よし、とりあえず掃除を終わらせよう」
俺は再び、掃除機のスイッチを入れた。
「お、終わった・・・・・」
朝の家事終了!!
春吉ママは頑張りましたよ!!
俺は掃除機を片付けて、一旦リビングへ・・・ってあれ?
楓がいない。
俺はとりあえず携帯を確認。
そこには、メール受信のマークが。差出人は楓。
俺はそのメールを確認・・・。
“洗濯終わったから先に学校行ってる”
い、いつの間に・・・
俺は軽く怒りに震える心を沈め、携帯を閉じる。
その時、
「・・・・・春吉?」
こ、この声は!
俺が後ろへ振り返ると・・・
「さ、小夜!もう大丈夫なのか?」
そこにいたのは、カラフルな星マークがプリントされたパジャマを着た、小夜の姿。
「・・・(コクリ)」
ホッ、よかった。
「・・・・・春吉、なんでここに?」
あ、そうだ!事情を説明しなくては!!
「・・・私、倒れたの?」
事情を全て説明し、とりあえず他に、美羽と楓がさっきまでいた事も説明。
そして、小夜からの質問。
「ん?ああ・・・やっぱお前、無理してたんだな」
「・・・・・無理は、してない」
「嘘つくな、お前、あまり食事や睡眠、取ってなかっただろ?」
「・・・・・」
黙り込む小夜。
「全部月也から聞いたぜ。あまり一人で無茶しようとするな」
「・・・・・」
俺は優しい口調で続ける。
「ほら、俺らはお前の仲間なんだからさ、何かあったら遠慮せずに言えよ」
「・・・でも」
「時には人に頼ったっていいんだぞ」
「・・・・・春吉」
「もう一人で無理とかすんな。分かったか?」
「・・・・・うん」
そして、小夜がちょっと微笑んだ。
「・・・・・ありがとう」
「れ、礼なんて別にいいんだよ!!」
俺は何だか気恥ずかしくなって、小夜から顔を背ける。
その時・・・
スゥ・・・
「ん」
俺の頬に一瞬、何やら柔らかい感触が・・・
「なっ!!」
俺は慌てて小夜の方へ振り返る。
「・・・・・ありがとう、春吉」
そこには、爽やかな笑顔をした、小夜の姿があった・・・。