第96話 民泊
「し、死んでしまうよホトトギスぅ〜」
「庶民……僕らは生きているのか?」
時刻は午後5時。
本日の練習終了。
俺と秋馬は生きてますからね?
では、ここまでの春吉君をダイジェストでご覧下さいな。
午前8時くらい
体育館到着。
限界のランニング。
リバースへ……。
午前9時くらい
シュート練習とか、そんな感じの練習。
ここでまたしてもリバースへ……
午後0時くらい
昼飯休憩。
俺と秋馬はほとんど食べてない。
水ばっかり。
ってか、秋馬死んだ。
午後1時くらい
ミニゲーム。
波紫先輩にボコボコにされる。
ボールが顔面直撃。
痛かった。
リバった。
午後3時くらい
本格的な試合。
俺は秋馬と同じチームに。
つまり、ボロ負け。
バネ人間に鼻で笑われた。
リバった。
……今日はもう、口の中が酸っぱい。
最悪。
死にそう。
もう、語り手無理。
……この時の俺は、あまりの気持ち悪さに、重要な事を忘れていた。
そう、重要な……民泊の……あれ。
「木山クン大丈夫? 顔、真っ青やで?」
「だったら休ませて頂きたかった……」
波紫先輩の皮肉を流して、俺は六角町の地図を広げる。
今日から民泊。
……そう、濱垣家。
「庶民よ……僕らの民泊先は何処だ?」
死人ハゲメガネが聞いてくる。
……そう、今回は春夏秋冬が濱垣家にお泊まりする訳だが。
その事を知ってんのは俺と夏哉だけ。
ハゲメガネと冬希は、民泊って事しか知らない。
「……今日は、六角町の最南、南稲森地区の某家に泊まります」
あえて濁す。
「南稲森って……何処だ?」
今日のハゲメガネにいつもの覇気なし。
「とりあえず……行くか」
ここの体育館から徒歩10分くらい。
微妙な距離。
「バネ人間、バネメガネ、冬希、さっさと行こうぜ」
最後の気力を振り絞る俺。
波紫先輩曰く、既に濱垣家には話はつけてあるらしい。
『向こう着いたら、葉城高校から来ました、木山です……って言えばOKや』
だそうな。
「……はぁ」
とりあえず、まさかとは思うが……
いや、無いとは思うけど……一応……念のために……美羽に電話してみようかな?
「六角にだって、濱垣って名字がいくつもあるだろうし……」
いや、濱垣は意外と珍しいのかな?
「とりあえず電話……あ」
鞄から携帯を取り出す俺に、絶望が襲った。
携帯、電池切れてるし……。
夕日が海に沈む。
波音が心地よい。
海に面した木造一軒家。
表札には「濱垣」。
来ました、今晩のお泊まり先である濱垣家。
何とも風情ある佇まい。
年季はいってんね。
「来たか……濱垣さんのお宅に……」
多分、俺の知り合いとは別の濱垣さんだ。
……多分。
「バカ吉、お前インターホン鳴らせ」
「……は?」
夏哉さんは、大量の荷物を持って両手がふさがってる。
秋馬は死んでる。
冬希はうとうと。
お眠むの時間ですか?
「お前片手空いてるだろ? 早くインターホン押せ」
「ちょ、まっ、心の整理がまだ……」
万が一の事態だってある。
最悪、鉢合わせ……
「いいから押せ、こっちは早く荷物を整理したいんだ」
「こっちは心の整理をしたいんだ!」
くそっ……行くのか?
行っちまうのか?
「……早くしろ」
きゃー、後ろから怖い声がする!!
「わ、分かったよ」
くっ……し、仕方ないなちくしょーめ!
男春吉、いざ、勇気を持って!!
一か八かに掛けて!!
「いっきまーす!」
ピーンポーン!!
押したぁ〜!!
「はーい」
数秒後、玄関からお婆さん出てきた。
白髪の老婆。
……フフっ
別の濱垣さんだ。
「あ、あの、俺ら、葉城高校から来た……」
「あ〜、君たちが葉城の? よく来たねぇ」
お婆さん、にっこり笑顔。
ああ……優しい。
「とりあえず御上がりな。みんな疲れてるでしょ?」
お婆さんの優しみが身に染みた。
ドS先輩とは大違い。
「すみません……じゃあ、お邪魔します。夏哉、秋馬、冬希、早くこっち来い!!」
「命令すんなバカ吉」
反論したのはバネ人間だけ。
残りのふたりは半分意識なし。
「ささ、どうぞ……あ、そうだ」
お婆さんの言う通り、家に上がろうとした俺達。
しかし、お婆さんの口からトンデモ発言が。
「あのね、申し訳ないんだけど、今ね、私の息子家族が遊びに来ててね……」
お婆さんの息子の家族かぁ……。
……ん?
「悪いんだけど、お泊まりの間はずっといる事になってるから、そのへんはよろしくね」
……あはは。
「あ、はい。分かりました」
……まさかね。
「じゃあ、お邪魔します」
「どうぞどうぞ!」
お婆さんのしわくちゃの笑み。
……今だけ恐怖に感じた。
そして、全てが最悪のシナリオへと進む。
「あら、凄い荷物ね」
お婆さん、夏哉の大量の荷物を見て慌てる。
「ああ……別に大丈夫ですよ」
夏哉はスルーを試みた。
しかし……
「それじゃあ、家に入れるの大変でしょ?」
お婆さん、余計な心配をする。
そしてお婆さん、家の中に向かって叫んだ。
「ちょっと美羽、降りて来て手伝ってちょうだい!」
……うそっ!!
今、このババァ何て言った!?
そして、家の中から……
「あ、民泊の人達来たの?」
見覚えのある、ダークな人が出てきた。
白いTシャツに下はジャージ。
薄いピンク色の。
で、俺と目が合った途端、ダークはフリーズした。
うん、一瞬だけど時が止まったね。
気まずいね。
「…………」
……どうしようか。
とりあえずは……
「よ、よぉ……」
挨拶してみた。
「……は、春さん?」
何故かさん付けで返してきた。
お婆さんはニコニコ笑顔。
頭には?マーク。
ちなみに夏哉は視線を海に。
秋冬は共に意識混濁中です。
……波音だけが響く虚しい玄関。
そう、合宿は始まったばかり。
後書きトーク!!
赤佐
「出番がねぇ〜」
権三朗
「出番がねぇ〜」
春吉
「…………」
赤佐
「っつー訳で、春吉君。俺らに1つ、出番をおくれ!!」
春吉
「こぉとぉわぁるぅ」
権三朗
「うおっ……まさかのスローで断られた!」
春吉
「だいたいテメェらは前章で活躍したから別にいいだろッ!」
赤佐
「うるさい、俺は主役になりたいんだ!」
春吉
「黙れし背景キャラ」
権三朗
「俺に至っては前章でも活躍してな……」
春吉
「次回97話“濱垣家”まさかの美羽の祖父母の家にお泊まりです!」
権三朗
「おーい、スルーすんなよ!!」
赤佐
「お、俺、背景キャラなのかッ!?」
春吉
「ではまた次回!!」