第10話 小さい夜
・・・凄い。
「星乃、シャーペン返せよ!!」
「嫌、だってコレ、私のじゃない!!」
「月也、はやくそのお皿とって!!」
「誰か、七星のオムツ返ろよ!!くせぇんだけど!!」
「小夜姉ぇ、はい、キャベツ切ったよ」
「・・・・・ありがとう(ニコッ)」
はい皆さん、この展開についてこれてますか?
・・・ここは市営団地の311号室、荏咲家。
まぁ、小夜ん家です。
「あ、お兄ちゃんやめてよっ!!」
「ハハハ、ばーかばーか!!」
「あ、お皿割っちゃった・・・」
「姉ちゃんまだぁ〜?もう腹減りすぎた!!」
「・・・・・ごめん、もうちょっとだから」
「がぁ〜!!七星がリバースしたぁ!!」
・・・すげぇ。
事の始まりは今日の休み時間。
「え!!あの少年って・・・小夜の弟!!」
「・・・(コクリ)」
まさかの急展開!!
「え、マジで!!」
「・・・・・うん」
これは・・・たまげた・・・。
「・・・今日、春吉、暇?」
「ん?ああ、暇っちゃ暇だけど・・・」
「・・・・・じゃあ、今日ウチに来て」
ワッツ!?
「え!?な、何で?」
「・・・・・お礼がしたい」
まぁ、こんな感じで今、小夜ん家にいます。
お礼・・・それは夕飯をご馳走してくれるらしい・・・。
しかし・・・
「腹減ったぁ〜!!」
「お兄ちゃんの・・・バカぁ〜!!」
「リバースするな!」
「うっせぇな、カス」
「お皿がぁ〜!!」
「・・・・・」
・・・うるさい。
小夜は七人姉弟。
では、言っても覚えられないだろうが、荏咲家の紹介!
長女は小夜、16歳、高二、皆さん知っての通り、大人しい子。
長男は月也。14歳、中三。
次男が天馬。13歳、中二。
次女が星乃。11歳、小六。
三女が夕香。9歳、小四。
四女が空。5歳、幼稚園年長。
三男が七星。1歳、保育所。
ちなみに、俺が助けたのは次男の天馬。
さっき、物凄い勢いで土下座され、
「昨日はありがとうございました!!」
と、デカイ声で言われた。
「・・・なあ小夜、何か手伝おうか?」
これは・・・何か手伝わないといけない気が。
「・・・・・大丈夫、春吉はお客さん」
「だ、だけど・・・なんか・・・手伝う」
こんなハイテンションの中、じっとしてたらどうにかなりそう。
「・・・・・ありがとう、だけど大丈夫」
「ああ・・・」
はぁ・・・・・
その時
「なあ兄ちゃん」
「あ?」
そこにいたのは、次男天馬。
「兄ちゃんと小夜姉ぇって、カップルなの?」
「なっ・・・」
な、何を言うんだ、このガキぃ〜!?
「なぁなぁ、付き合ってんのか?」
「え・・・あ、いや、付き合っては・・・」
トスッ
その時、俺と天馬の前には包丁を持った小夜の姿が・・・。
「・・・・・天馬」
「あっ!!さ、小夜姉ぇ・・・」
うおっ!!さ、小夜の目が・・・!!
「・・・・・」
「・・・ご、ごめんなさい」
無言の圧力。
天馬は一瞬で小さくなった・・・。
「・・・・・春吉、もうすぐ出来るから・・・」
「あ、ああ」
そう言うと、エプロン姿の小夜はキッチンへ。
「・・・お前の姉ちゃん、いつもああなのか?」
小声で天馬に聞いてみる。
「いや・・・今日はいつもよりテンション高い方だよ」
これで・・・高い。
で、夕食完成。
小さなちゃぶ台を8人で囲む。
ちなみに今日のメニューは“白米”“つみれ汁”“きんぴらごぼう”“ロールキャベツ”。 メインが洋食なのか、和食なのか・・・?
「・・・じゃ、いただきます」
『いただきます!!』
皆が超デカイ声で言ったので、耳が・・・キンキンする・・・。
その瞬間、小夜以外は皆、一心不乱に食事を開始・・・つーかすごぉ!!
一方小夜は、まだ1歳の弟、七星に哺乳瓶でミルクをあげてます・・・家庭的だな・・・。
・・・ちょうどいい機会だし、アレを聞くか。
「なぁ、小夜」
「・・・ん?」
「あのさ、昨日何で・・・俺をシカトしたの?」
すると小夜は視線を七星から俺へ。
「・・・・・シカト?いつ?」
「え?だから昨日、小夜が登校してきた時」
「・・・・・私、シカト・・・した?」
「なっ・・・」
もしかして・・・俺の声、聞こえてなかっただけ・・・?
「あーやっぱいいや、もしかしたら声が届いてなかっただけかもしんねぇ」
「・・・・・ごめん」
しゅんとする小夜。
「いや、別にいいんだ、・・・よし、じゃあ飯、頂くぜ」
「・・・・・うん」
あ、小夜にちょっと笑顔が戻った。
・・・次からはもっと大きな声で生活しよう。
『ごちそうさまでした!!』
結構な量あったおかずは僅か10分で無くなり、皆の胃袋の中へ。
「ぶはぁ〜・・・つーか小夜、お前飯食ったか?」
「・・・・・え?」
さっきから、小夜は七星にミルクあげたり、皆のおかわりをよそったりしてて、あまり飯を食ってないように見えた。
「・・・・・うん、お腹いっぱい」
「そうか?それならいいんだけど」
あ、そうだ、もう一つ質問があった。
「でさ、一つ聞いていい?」
「・・・・・ん?」
「あのさ、なんで最近、その・・・遅刻が多いのかなって・・・」
結構みんな、心配してんのだ。
しかし・・・
「・・・・・」
小夜は俯いたまま、何も喋らない。
何か・・・まずい事聞いたかな?
その時
つんつん!
「ん?」
誰かに突かれた。
「あのさ、ちょっと・・・」
そう言うのは、長男の月也。
「ん、ああ・・・」
俺は小夜に“ちょっと行ってくる”と言い、月也に連れられ外へ。
外はもう真っ暗。
時折、優しい夜風がスゥー・・・と吹く。
「月也だっけ?何か・・・」
「あのさ・・・」
小夜と似て、どこか大人しそうな月也。
「ん?」
「姉ちゃん、いつも学校に遅刻して行ってるの?」
「ん?あ、ああ、まぁ、ここ最近は」
すると、月也が下に俯く。
「・・・・・」
「ん?ど、どうした・・・?」
「じ、実は・・・」
その後、俺は月也から荏咲家の今を聞いた。
荏咲家は元々、両親健在の普通の家庭だった。
しかし、三男七星が生まれてすぐに父親が交通事故で亡くなったらしい。
それで、元々一軒家に住んでいた小夜達はお金の関係で、この団地へ引っ越してきた。
その後、母親と小夜が働き、何とか生活をしていたのだが・・・
つい先日、母親にガンが見つかり、まさかの入院・・・。
治療費は父親の保険金で何とかなるらしいが、小夜達七人の生活費は、現在小夜が一人でバイトし、生計を立てている状態。
そしてさらに、まだ幼い七星や四女、空の世話もあり、小夜はいつも大変らしい。
「だから・・・いつも遅刻・・・」
朝、皆の弁当を作り、空を幼稚園、七星を保育所へ連れて行ってから登校。
もしかしたら・・・あのシカトも、小夜が疲れてて、俺の言葉が耳に入らなかったって事か?
「だから兄ちゃん、姉ちゃんを・・・」
「・・・分かった」
俺はグイッと伸びをする。
「あいつに学校でも無理させないで、って事だろ?当たり前だ、無理はさせないよ」
「ほ、本当か?」
「当たり前!!」
ああ・・・この子はなんて姉思いの優しい子なんでしょう・・・。
「アンタの姉ちゃんは、俺が護ってやる!!」
と、言った直後、改めて考えた。
俺、今超ハズい事言ったよな!!
護ってやるとか・・・
「任せたよ、兄ちゃん!!」
まぁ・・・いっか。
で、帰る時。
「・・・・・とりあえず、団地入口まで送る」
「ん?ああ、いいよ。大丈夫」
「・・・・・でも、送る」
「いや、だから・・・」
その途端、小夜の顔が曇った・・・ように見えた。
「・・・じゃあやっぱり、送って貰おうかな」
「・・・うん」
ちょっと笑顔になった小夜。
やっぱ・・・笑顔イイ!!
そうして小夜が靴を履き、一歩歩き出そうとしたその時・・・
フラッ・・・
「お、おっと」
小夜がよろめいた。
「だ、大丈夫か?無理すんな?」
「・・・・・ん、大丈夫」
その言うと小夜は団地入口に向かい、歩き出した。
「お、おい」
俺も、小夜を追って歩き出す。
「小夜、あまり無理すんな」
「・・・大丈夫」
そうして、団地入口。
「・・・今日はありがとな。飯、うまかった!」
すると小夜はちょっと笑顔で
「・・・・・天馬助けてくれた、お礼だから」
・・・空には綺麗な月、風が気持ちい。
「・・・じゃ、また明日、学校で」
「・・・・・うん」
そう言うと俺は軽く手を振り、自宅に向かい、歩き出した・・・
・・・バタッ!!
「ん?」
背後から奇妙な音。
俺は急いで振り返った。
そこには・・・
「さ、小夜ッ!?」
・・・呼吸を荒くした、小夜が倒れていた。