ギルドでの会話
俺たちはギルドにお金稼ぎの為来ていた。
内部は、自分たちの世界の市役所にそっくりだった。
受付で人集りが出来ていて、忙しく受付嬢がテキパキとお客さんの相手をしていた。
ギルドの手続きは、カノン達に任せて俺は1人椅子に座ってサボっていた。
するとクラスメイトの1人が俺の肩を叩いて、気安く声をかけてきた。
「お前の職なんだよ?」
彼はツトム。真面目そうな顔をしている。
ボブの髪型で、いつも笑顔を絶やさない。
だがそれとは裏腹に狐目の眼に闇を漂わせている。
それがクラスメイトに不気味がられ、クラスでは浮いた存在だ。
「俺の職か? チートだぜ?」
本当のことだから、嘘偽りなく話す。
「マジか、時魔導士とかか?」
ツトムが予想して聞いてくる。
時間を止めたり出来る、そんな職だと無敵だよな。
「そこまでではない。」
それでもチート級であることは疑いがない。
じゃあなんだ? と彼が小首を傾げ、眉間に皺を寄せて聞く。
「伝説の遊び人だ!」
俺の職業、あんまり大っぴらにしたくないほど、恥ずかしい職であった。
「俺の聞き間違いか?
おい、どこがチートなんだ?
賢者にでもなれるってのか?」
賢者か。実際慣れても俺はこの職を手放す気はない。
「俺も最初ハズレかと思ったんだよ。遊び人なんて俺にぴったりだけど、使えないとね。
だけど、とんでもないスキルがあったんだ。」
どんなスキルなのか尋ねられた。
「魔物寄せさ。」
「なんだよ、そんなの呼び寄せて倒して修行でもすんのか?」
「そのまさかさ。これだけじゃ使い道ないんだが、もう一つのスキルと組み分せると、効果が膨れ上がるんだ。」
それで? 勿体ぶるなと眉間に皺寄せして、ツトムが急かす。
「無駄骨の回廊ってやつだ。このスキルは別の空間に入れるんだが、1日いると50年いる計算になる。
無駄に歳だけとるんだが、俺たち不老の紋章貰ったろ? そして魔物寄せだ。」
「これらを合わせるとだな。
魔物を出してそれと戦えば、あら不思議10日いれば500年修行した計算になる。」
「つまり俺たちは魔族の幹部と同等の力を得たって訳さ。」
まぁ、不老の紋章貰ってなければゴミスキルだった、危なかった。
「それは凄いな、俺も入れたりするのか?
その無駄骨の回廊とやらに。」
ツトムの目には、好奇心が宿っていた。
「今は入れないぞ、4人の人間しか入れないから、俺たちのパーティの誰かが死なないと入れない。」
「その空間に入れるのは、500年だけだ。それ以上は元の場所に追い出されて、魔物寄せも出来ず、完全に今は名前通りのスキルになった。」
「それだけなら、仲間を強くするスキルってだけじゃないか?
チートって言えばそうだが。」
「それに魔物寄せなくても修行出来ないのか?」
当然の疑問だろう。
「もちろん出来る。でも同じ相手とばかりだと、パターンが読めるから、それだけじゃ不十分だったんだ。」
「ミウや、レイナは修行と同じくそこで勉強してた。俺とカノンは少し勉強。」
そのせいで2人とはだいぶ知識の差が出来た気がするとツトムに伝えた。
だけど精神年齢までは上がらなかったようだ。と2人の無邪気な性格との差に口元が緩んだ。
俺は少し話し疲れたので、ツトムを放置してギルドに貼ってある指名手配写真を見つめた。
かなり多いな、全員を把握するのは大変だろう。
…ミウの写真はさすがに貼ってなかった。
「おーい、スキルは?」
ツトムに再度聞かれたので俺は教える事にした。
「まだあるぞ、チートスキル。それがモノマネだ。」
「相手からくらったスキルをそのまま真似て使うことが出来るんだ。チートだろ?」
「おい、チート過ぎるだろ?
お前だけ狡いぞ! それ何回も使えるんだよな?」
ツトムが肩を掴んで俺を揺さぶった。
「いいや、一回きりだね。一度真似て使ったら使えなくなる。」
「だけどまだあるぞ、この伝説の遊び人は。」
でも教えない。さすがに種明かし全部したらつまらないだろ?
「ツトムの職はなんだよ?」
喋り疲れたので今度は、ツトムの話を聞くことにした。
「俺か? ネクロマンサーさ。」
「確か、魔物を倒してそれを操る職だよな?」
「ああ、倒した相手を召喚出来るんだ。まぁそれはおまけでな。」
「それより倒した相手の戦闘力を吸収出来るのがこの職の凄いところだ。つまり、敵を倒せば無限に強くなれるってことさ。」
「なんだよ! 俺よりチート職じゃないか!」
俺は責めるように言った。
「当たり前だろ? アキラよりチート職じゃなきゃ、スキル褒めないぞ。」
ツトムがその職の自信を示すように、口を緩ませていた。
カノンの声が聞こえてきた。
視線を向けると何やら揉めている。
俺はツトムに別れの挨拶をして受付の方に向かった。
「どうした?」
俺はカノンに事情を聞く。
「依頼が被っちゃって、どちらが受けるかでちょっとね。」
カノンが腕を組み、ため息混じりに言った。
「なんだよ、依頼もまともに受けれないの?」
目を細め、俺は大したことないなと、笑みを浮かべた。
「はぁ? 何もしてないあんたに言われたくない! ならアキラがやれば良いじゃん。」
カノンが口を尖らせて、不満そうに言う。
「いやなこったー!」
俺は地面に這いつくばった。
そんな面倒なことするわけがない。
「誰かー! この粗大ゴミどっかに捨てて。」
カノンがギルドに響くほど大きな声で言った。
その声に他の人々も反応して、クスッと嘲笑いが耳に入ってきた。
恥ずかしいな、けど知らん。
「は〜い。」
2名が返事して、俺の両手と両足を持った。レイナとミウだ。
やべーガチで捨てられる。俺は暴れて拒否した。
「やめろ〜分かった、俺やるよ。」
渋々やる事にした。何故ならレイナはともかく、ミウは本当にゴミ箱にまで連れて行きそうだったからだ。
「初めからそう言えば良いのよ。」
フッとカノンが蔑むように笑う。
「依頼は譲ってやろうぜ、俺が依頼決める。」
「すまないな。」
申し訳なさそうに声を掛けてきたのは、
金髪の白馬に乗った王子様と言う表現がピッタリのクラスメイト、トオル。
彼がお礼を言った。
俺は貸なと笑顔で言った。
俺はすぐさま、ゴブリンの依頼を受けた。
「ゴブリン? 金にならないわよ!」
カノンが文句を言った。
「バカな! 金じゃないんだこう言うのはな、人の助けになりそうやつを受けるんだ。」
俺はカノンを説得した。
彼女の疑いの眼差しを受けつつ、受付のお姉さんに頼んだ。
「ありがとうございます、ではこちらの書類にサインをどうぞ。」
その書類を見つめ、頭が痛くなってきた。
「え〜書くの苦手なんだよなぁ。カノン代わりに書いてくれる?」
甘える声を出して、彼女に頼む。
「駄目よ、甘えない! これぐらい自分でやりなさい、良い勉強になるから。」
チッ、カノンに頼んだの間違いだった。
まるで先生の様だ。むしろ好意から言うのだろう。
それは分かっていたが、億劫な気持ちには勝てない。
「なぁ〜レイナ代わりに書いてくれない?」
上目遣いで彼女にお願いする。
「良いですよ、書きましょう!」
おーやはり優しい。俺は両手で拝んで礼を言った。
「ちょっと、甘かしたら、駄目人間になるわよ。」
カノンが横槍を入れる。
辞めろ、俺に面倒な仕事を与えるなと、彼女を睨んだ。
「私駄目な男嫌いじゃないのよねー。」
嬉しそうにレイナが言う。
駄目な男って俺のことか?
さりげなくディスってないか?
「まったく、よく高校生やってられたわね?」
カノンが頭を抱えて、首を振る。
「それはそれ、これはこれだよ。異世界での俺の仕事はモンスターを狩る。
そして感謝されるのが仕事だ!」
胸を叩いて、彼女に言う。
胸から熱いものが込み上げてきた。
冒険、魔物退治が俺を待っている!
「感謝するのも仕事じゃないでしょ、まったくもー。」
カレンが呆れる様子で目を瞑りため息を吐いた。
「ゴブリン退治するより、ゴブリン誘導させて村を襲わせてお宝回収したら稼げまね。」
なんだと? 急にミウが突拍子もないことを口にする。
「おい、やっぱり魔王よりえげつないぞ?」
俺は恐怖で顔がひきつっていた。
「やりそうなやつもいそうですぅ。実行はしないですん。」
「当たり前じゃー!」
俺はミウを叱るように指摘する。
「アキラ、そこは当たり前じゃなくて、そんなの当たりマエストローだよー。」
当たり前とストローを足した、また当たり前とマエストロを足した両方の言葉遊びかぁ!
分かるかぁぁぁ!
「ボケにはボケをぶつけないと勝てないよ?」
「なんの勝負だよ!」
「第150回ボケ魔神決定戦ですぅ。」
「参加してねぇぇえー! 意味不明な大会150回も開催されてるうぅー!」
俺は両手を頬に当てて言う。
「このおバカ2人ゴブリン退治したら、村に置いてこようかしら?」
カノンが辛辣に目を細めて言う。
なんでだよ? 俺は関係ないだろと思い、ミウの服の袖を掴み、少し話をしようと誘った。
人が多いところで、変な話をするなと注意する為だ。
「やぁ、君たちのような最底辺の2人と一緒のパーティに組まされた彼女達が気の毒だよ。」
ギルドのソファに気持ちよく座っていると、クラスメイトのシンヤが、声をかけてきた。
彼からは、嫌味を感じさせるオーラがあった。
自分より下と見ると、侮辱せずにはいられない、そんなやつだ。
「なんだよ、喧嘩売ってるのか?」
「おや、失礼本当のことなんだけどな。早く君たち2人が魔王軍にでもやられてくれれば良いと思ってね。カノンやレイナを救ってやれるのに。」
俺は思わず舌打ちをした。
「君たちがくたばることを祈ってるよ。では失礼。」
俺は拳に力が入る。死ぬことを祈るだと?
とんでもないやつだ!
「ムカつくなあいつ、ステルス使ってカンチョーしてやれ。」
の後ろ姿を指差し、ミウに命令する。
「嫌ですよ、手が臭くなります。
こういう時はこれですよ。」
ミウが水鉄砲を取り出した。
臭くなるか…キレイ好きなんだよな、意外と。
俺は頷き、頬が緩む。シンヤのやられたと言う顔がイメージされたからだ。
「ぶち込んでやりますぅ!」
ミウがやつを狙い澄ました。
「直撃させるぅ!」
ミウが静かに呟く。
「撃てえぃー!」
俺が号令を出す。
「うわっ、なにしがる!」
見事に命中! シンヤがお尻を抑えて俺たちを睨みつけた。
イェーイ! ハイタッチして、俺とミウは爆笑した。
「すみませんが、店内ではお静かに願い…」
見かねたギルドの受付嬢が叱りにきた。
俺は謝ろうと立ち上がる。
だが、ミウは気にせず受付嬢にも水鉄砲を撃ったのだ!
ギルド嬢がブチ切れて、俺たちは出禁になってしまった!
いや俺は関係ないだろ?
くっそ、こいつの巻き添えくらった!
「なんで受付嬢のお姉さんにまで撃ったんだよ?」
俺は苦々しく言う。
「注意されてむかっと来たので、やり過ぎちゃいました、テヘ。」
ミウが手を頭にやり、頬を赤く染める。
「出禁にされたじゃないか、ちょっとは反省しろぉ!」
俺は軽くミウの頭に手を置いた。
「魔王を倒して権力を握って、あの受付お姉さんを首にすれば良いんですよ。」
ミウの言葉に一瞬体が凍りついた。
口が震えて、寒気が襲ってきた、
「君は何を言っとるのかね?」
自分を落ち着ちつかせようと、唾を呑み砕けて言う。
「駄目ですかね? 魔王を倒したら、戦乱の世がきますもんね。倒すのはまずいですね。」
ミウが真剣な表情で言う。
「違うわ、そうじゃねえんだ。受付のお姉さんは、しっかり仕事してるのに首にするのが異常なの。」
この子に振り回されて手に汗が滲む。
「そっちですか、確かに言われると配慮が欠けてますね。」
「だろ?」
「はい。」
ミウが頷き、俺は安堵の深呼吸をした。
「それに、そんな腹立つようなことでもないだろ?」
そう言うとミウがため息を吐き、観念したように言う。
「アキラに頭を下げさせたくなかったんですぅ。悪いのは私なのに、それで撃ちました。」
そっか、俺の為にしたのか…少し嬉しくなった。
「別にミウだけが悪いわけじゃない。俺がけしかけたんだから。」
「分かってますぅ〜。手が勝手に動きましたぁ、あは。」
足音がしてギルドの入り口を見ると、カノンとレイナが出てきた。
「まったく、迷惑ばっかりかけて。
一応アキラの出禁は解除させたから。」
カノンが咳払いをして言った。
「悪いな、カノン。」
俺は平謝りした。
「あれ? 私は?」
ミウが自分を指差し不思議そうな表情でカノンを見る。
「出禁のままに決まってるでしょ!
このおバカ!」
カノンの怒声が耳に響く。
「ミウ出禁解除されたければ、受付のお姉さんに謝り通すんだ。」
「そしてもう2度と騒ぎは起こしませんって言う。
そうすれば運が良ければ解除されるかも。」
俺は考えて言った。
「あは、そんなこと心配しなくても良いですよ。
ステルスを忘れてませんか?
スキル使えば普通にギルドに入れるんで。」
そうかぁ、ずる賢いなぁ。
俺は呆れて苦笑いを浮かべた。
周りの2人も同じ反応だった。
「ウフフ、じゃあ行きましょうか。
ゴブリン退治しに、村へ!」
ミウが何事もなかったかの様に元気よく言う。
たくましいな、このお方は。
彼女に呆れつつも、賑やかだなと感謝もした。