煽りと思いやりの向こう側
「全く! 思ったことすぐ言っちゃうんだから。」
カノンが今日もミウを叱っていた。
「自己紹介乙ですん。」
ミウもいつも通り開き直って返していた。
「こいつ! 口だけは達者ね。そんな不真面目にしてたら、いつか痛い目みるわよ!」
俺は頷いて、ミウを見つめた。
「そんな呪いかけないで下さい。痛い目見たらカノンの呪いですん。」
呪いか、魔王の幹部でもなければミウがやられるなんて想像出来ないけどな。
クスッと俺は微笑んで、2人に話しかけた。
「2人とも仲良いな。」
「良くない! 今ハルマゲドンの争いよ!
こいつアキラの言うことしか聞かないし。」
俺の言うことしか聞かない…それは困るけど、反面嬉しい気持ちも芽生えた。
「こいつじゃないですん。ミウですぅ〜名前まともに呼ばない不真面目カノンに、争いに巻き込まれ中ですぅ!」
口を尖らせて被害者振る彼女に、微笑ましくなった。
「まぁ姉妹みたいなもんだよ。ほどほどにな。」
「はぁ〜なんで悪者扱いさてんのよ! ミウのせいだからね!」
カノンがムスッと顔を膨らませて腕を組んだ。
「悪者扱いされてないですん。被害妄想重傷なので、寝た方が良いですぅ。」
ミウが手を振り言う。確かに悪者扱い俺はしてないと一理あると思った。
「あのね、そう言うこと私とかアキラやレイナが大人だから良いけど、他の人には言っては駄目。」
「私が言いたいのはこれよ? 分かってるの!」
カノンが叱責する。
「分かりましたぁ! 重く受けとめますん。」
ミウが明るく言う。
「でも大人じゃない人には、言っては駄目って言うのは納得出来ません! それ見下してますん。」
鋭く反論するミウが続けて言う。
「分け隔てなく、コミュ取りますん。
それで気分悪くなるなら、関わらなければ良いですん。」
「む…あんた急に哲学者になるのよね! そんな難しい言葉理解が追いつかないのよ!」
目を泳がせてカノンが一歩下がった。
「いえいえ、幸せで羨ましいですん。それだけですぅ。」
ミウが失笑する様に言った。
「だいたいあんたも私と同い年じゃない!
今、異世界にいて学校にはいないし!」
彼女が声を張り上げて言う。
「はい、そうですぅ。カノンの言う通りですん。」
ミウが頷き返す。
「何よ? 今度は急にしおらしくなって?」
目を細めてカノンが疑い深くミウを見つめる。
「噴火寸前なので引きました!」
彼女が比喩を言い、カノンを更に混乱に陥れる。
「噴火寸前? 私のこと? それともミウのこと?」
カノンが交互に指を指して、不安気に彼女の答えを待った。
「哲学者って言われるので、答えないですぅ。ではまたですん。」
プイっとミウが話を切り上げて、ミウがぽわーんと微笑み俺に視線を移す。
「アキラ〜遊ぼう!」
「うわっ、こっち来た!」
彼女の突然の変化に、びっくりする様に俺は言った。
「むぅ〜人を疫病神扱いするなですん。」
胸の前に両腕を握り拳を作り、可愛く言う。
それが微笑ましく、俺は頬を掻いて話を変える。
「そうだ、今日ギルド改修工事終わったらしい。早速行こうぜ。金稼がないと。」
「そうね、誰かさんがお金を盗んで無一文になってしまったからね。」
目を薄めてカノンがミウを睨む。
「はい、私がやりました。反省してますぅ!」
ミウが視線を下にやり、頭を下げた。
「素直ね。毎日こうでいて欲しいわね。」
「ぷぷ、過去の話をいつまでも振り返す人が上から目線で素直になれって、笑ってしまいすん。」
反省しているフリをして、彼女の煽りに呆れて止めにはいった。
「おい、ミウいい加減そこまでにしとけな。その過去を払拭する為に、ギルドの任務で活躍すれば良いさ。」
「さすがアキラですぅ〜。言うことが誰かさんと天と地ほど違いますん。」
「は〜もう誰かさんの相手するの疲れたから、アキラと話すわ。用意してギルド行きましょう。」
「おう。」
カノンに元気良く返事を返した。
「駄目ですぅ、アキラは私の相手するですぅ。」
ミウが袖の服を掴み、甘える声を出して言う。
寂しそうな表情を作るのが上手いなと、彼女を見て笑みが溢れた。
「モテモテね。じゃあレイナと話してくるわ。」
ため息を吐き、カノンが手を振り、レイナのいる部屋に向かった。
「やれやれ、変なのに好かれたな。」
頭を傾げて、髪を弄る。
「ふっ、アキラの方が変人ですぅ。」
どこがと俺が聞くと異世界にきて、外出をほとんどせずに寝てばかりいるのが変だと言う。
家が1番居心地が良いと伝え、外なんて肉体的にも精神的にも疲れるだけで、良いところは、何も無いと反論した。
それは1人で外出するからであって、友達と一緒なら楽しいはずとミウは譲らなかった。
その友達に気を使うから、余計に疲労は溜まる。伝えると、気を使わない心を許せる友達と行くべきで、俺は考え過ぎだと言う。
議論は平行線になった。そこで俺は過去の話をすることにした。
俺は現実世界で、付き合いを無理してやっていた。正直つまらなかったし、家にいたいという感情を抑え、グループのリーダーをやっていた。
それに疲れたんだ俺は。地面に視線を落としそう言うとミウは、仕事とプライベートを一緒にし過ぎてる。
もっと肩の力を抜けと、真剣に俺を諭した。
「なんでミウはカノンそんなに構うんだよ?」
「ヤキモチですかー? ウフフ、大歓迎ですよソレ!」
「ちがーう! 普通に気になるだろ? 誰だって興味湧くと思うが?」
カノンには弟が居て、現世に残した弟のことを考えないよう、気を利かしてそうしてるとミウに言われた。気がつくと頬を涙が伝わった。
それはミウの優しさと、深い考えに感動したからだろうか?
カノンは親も大事だろうが、弟大好き人間とミウに説明された。よく見てるな、彼女は…感心して何度もミウの頭をポンと叩いた。
ミウが驚いた表情でこちらを見る。彼女が俺の涙を軽く手で拭う。
するとカノンとレイナが準備を整えて来たので、この話は切り上げてギルドに行くことにした。