第3話
仕入れ業者の男にしてみれば。
元々のパイナップル泥棒たちが「どこかで売り捌く」ほど盗めるのであれば、自分たちにも出来るはず。盗みに関してはアマチュアでも、パイナップルを手に入れた後の販売ルートに関しては、むしろ自分たちの方がプロだ。
しかも設置されている警報装置や罠については、ご丁寧に説明を受けている。これならば「盗みに関してはアマチュア」でも簡単な仕事になるだろう!
そんな考えだったらしい。
仕入れ業者の男が忍び込んだのは、空が雲に覆われて、月や星の光はほとんど見えない夜だった。
持参の懐中電灯は、外に明かりが漏れないよう注意して、足元と手元だけを照らす。警報装置も罠もクリアして、いざビニールハウスに入ってみると……。
パイナップルが並んだ辺りから、ガサゴソと不審な音が聞こえてくる。外ならば「風のせい」とも思えるが、ビニールハウスの中だから、その可能性はありえない。
では、先客だろうか。ちょうど同じ夜に、先に泥棒に入った者がいるのだろうか。例のパイナップル泥棒だろうか。
しかし不思議なことに、物音はするものの、人の気配は皆無だった。
怖くなった男は、自らの立場も忘れて、つい声を上げてしまう。
「誰だ? 誰かいるのか?」
さらに、そちらに懐中電灯の光を向けてみると……。
「……!」
絶句すると同時に、腰を抜かした。
まるで怪談の提灯お化けみたいに、パイナップルが宙に浮いていたのだから!
ただ宙に浮いていただけではない。それこそ提灯お化けと同じで、パイナップル表面の硬い皮が横一直線にパクッと割れて、大きな口が形成されていた。
目や鼻として切れ目や穴もあったというから、もしも現代の我々だったら、提灯お化けよりもハロウィンのカボチャを連想したかもしれない。
そんなパイナップルのお化けが、他のパイナップルに齧りついて、硬い皮ごとムシャムシャと食べていたのだ。いわばパイナップルの共食いだ。
しかし声をかけられたりライトを向けられたりが鬱陶しかったようで、お化けは食べるのを中断。口からパイナップルの汁を滴らせながら、恐ろしい形相を男の方へと向けて……。
「……ミタナァ?」
「ぎゃあああああっ!」
今度は大きな悲鳴を上げて、男は慌てて逃げ出そうとする。
でもあまりにも動揺していたものだから、ビニールハウスから出られなかった。入り口近辺にあった罠に足を取られて、そのまま失神してしまう。