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カオス系

号泣裁判

作者: 七宝

 被害者の父親・勇彦(いさむひこ)がハンカチを片手に傍聴席に腰を下ろした(*´ω`*)俯きながら何度も娘の名前を呼んでいる。


「うぅ⋯⋯うぅ⋯⋯うああああああああ!!!」


 パニックになり号泣する勇彦(*´ω`*)


 何度でも蘇るあの瞬間。

 彼は、目の前で娘を殺されたのだ。


 少しして、被告人である田島も出廷した。目が腫れており、頬には涙の跡があった。


 約20分前、彼もまた泣いていたのだ。

 拘置所から出たところで巨大なカメムシを見つけた田島は、「わーいカメムチー」と言いながら足元も見ずに追いかけた。その際、ちょうどのタイミングでコンクリから生えてきたタケノコに躓き大転倒し、右膝を擦りむいたのだ。


 静かな法廷には勇彦の嗚咽と、田島の鼻をすする音と、時折発せられる「痛⋯⋯」という声だけが響いていた。


 やがて検察官も泣き始めた。早弁の際に齧ったワサビが辛すぎたからだ。


 弁護士も泣いている。昨日の買い物でお母さんにほねほねザウルスを買ってもらえなかったからだ。「せっかく4番のやつが売ってたのに」と一晩中ぐずっていたという。


「開廷します。もぐもぐ。しくしく⋯⋯カメオ⋯⋯うぅ⋯⋯」


 泣きながら寿司を食べていた裁判長が開廷の言葉を述べた。

 今朝、家で飼っている巨大カメムシが逃げてしまったため5分前まで号泣していたが、仕事中に泣く訳にはいかないということで自分の機嫌を取るためにパック寿司を購入し、食べていたのだ。


 申し遅れたが今回は(ワタクシ)、地獄の鬼が実況を努めさせていただく。


「令和5年11月43日午後4時マントヒヒ分頃、被告人は中学校から下校中だった豆本(まめもと)美沙美紗美(みさみさみ)ちゃんの頬を近くを走っていたダチョウでビンタし、死に至らしめた⋯⋯カメオ⋯⋯どこ行っちまったんだよ⋯⋯被告人、事実と違うところはありますか?」


 事件の詳細を読み上げ、田島に確認する裁判長。


「うぅ⋯⋯ありません⋯⋯ヒザ痛い⋯⋯」


「私も見てたんで、絶対そうです。一瞬の出来事でした⋯⋯うぅ⋯⋯なんか俺もヒザ痛くなってきた⋯⋯ストレスかな」


 勝手に口を開く傍聴席の勇彦。


「失礼ですが、お父様は止めなかったのですか? ⋯⋯カメしく⋯⋯」


「はい、夢かと思って⋯⋯」


「確かに、ダチョウでビンタなんてヘンですもんね。カメオ⋯⋯どこ行っちまったんだよ⋯⋯早く帰りたい⋯⋯ムゴッ! ムホッホ!」


 思っていたより酸っぱかったガリにむせる裁判長。


「ちょっといいですか、裁判長⋯⋯ぐすん」


 裁判員の席に座っていた鼻血の青年が挙手してちょっと泣きながら裁判長に声をかけた。


「なんだお前、ダメに決まってるだろ! アホ!」


「あ、ダメなんですか」


「ダメ」


「はい」


 今日初めて裁判所に来たこの青年は裁判のことをよく分かっていなかったようで、水を差してしまったと深く深く深く反省している様子だ。なお、鼻血の理由は不明である。


「はい、裁判長。ちょっとよろしいですか?」


 手を挙げたのは、2秒前に発言を却下された鼻血の青年だった。


「えっ、俺今ダメって言ったよね? 君大丈夫? こわ。石とか食べてるよね? 絶対石とか犬とか食べてるよね? あと凍ったままの冷凍カレーパンも食べてるよね? 常識の外にいるもんな、君。こわぁ⋯⋯」


「トリケラトプスです」


「なにが?」


「昨日の夕食です」


「美味いよなアレ。チキンみたいで」


「プテラノドンと間違えてません?」


「あ?」


 意気投合して肩を組む2人。


「検察官木村、なんか述べよ。求刑とか」


 裁判を進める鼻血。ちなみに検察官の名前は山田である。


「はい、死刑3回を求刑します⋯⋯えっ、なんか口の中辛っ。急になに? 鼻ツーンてなるし。なんだこれ、こわっ」


 2本目のワサビを齧りながら求刑する山田。目が黄土色に充血している。


「異議あり!」


 ここでついに弁護士の馬場(ばば)婆拡(ばびろん)が動いた。


「はい、馬場くん」


 生徒を当てるように指をさす鼻血の青年。


「死刑60回が妥当かと思われます」


「異議を認めます」


 ヒザをさすりながら異議を認める被告人。


「それじゃあ亡くなった美沙美紗美ちゃんの気持ちはどうなるんだ! 美沙美紗美ちゃんの魂はどこへ行くんだ! 答えろ裁判長!」


 傍聴席で激怒する裁判長のクローン(皮膚は赤色)。


「裁判長!」


 挙手する被告人。


「なんだね」


「エアコンの温度を上げてもらえるとありがたいです」


「はいはい。オーケーグーグル、設定温度を0.2℃上げて」


御意(ぎょい)のままに』


 被告人の田島は金がないので、全裸で出廷しているのだ。


『プルルルルルルル プルルルルルルル』


「はい」


 フロントからの電話を裁判長が取った。


『あと5分でお時間となりますが、延長なさいますか?』


「いや、あと5分で出ます」


『かしこまりました。ではよろしくお願いします』


「はい」ガチャ


 内線を切り、神妙な面持ちで前を向く裁判長。


「被告人・田島チンピコは殺人罪。懲役1800円とする」


「これで」


 財布から1000円札を2枚取り出し、裁判長に手渡す田島。ヒザを庇っているためか歩くのが遅い。


「1800円のお釣りとレシートです⋯⋯カメオォ⋯⋯」


「ありがとうございます⋯⋯ヒザ痛⋯⋯」


「これにて閉廷。みなさんあと2分以内に出てください。お願いしますね。延長になっちゃうんで。あの、お願いしますね⋯⋯? あの! ちょ、早く! わざとゆっくり動いてません? 早くお願いしまーす! ⋯⋯おい! はよ! はよ動けお前ら! アホ!」


 そんなこんなで今日の裁判も無事に終わり、あとは私がこの記録を閻魔様に提出するだけ⋯⋯はっくしょい!


 ティッシュ忘れたからその辺の草で拭こ。


 やべ、手に草の汁がついて青臭くなっちゃったよ。


 ったく、ついてねぇや。

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