クラスの白聖女さまが小悪魔女子系配信者であることを、俺だけが知っている
お立ち寄りいただきありがとうございます。8,000字くらいの短編なのでもしよければ最後までお付き合いいただけますとうれしいです。
俺のクラスには『白聖女さま』がいるーー。
もちろんファンタジー世界でもない現代日本のごく普通の高校に、ホンモノの聖女なんている訳がない。成績優秀・スポーツ万能な上に、誰に対しても物腰やわらかで優しい、漫画に出てくるような美少女優等生ーー雨宮菜月。白聖女とは、そんな彼女にいつしかついた渾名だ。
「やっぱり白聖女さまの教え方は上手いな」
「ずるーい。聖女さま、私にも数学教えて!」
「はいはい、順番に、ですよ~」
定期テストを来週に控えた昼休み。彼女はいつものように沢山のクラスメイトに囲まれていた。そんな彼女らに、雨宮は控えめな笑みを浮かべながらテスト勉強を教えてあげている。あれだけ騒がしくてちゃんと勉強になっているのかは怪しいけれど。
そんな雨宮たち陽キャが視界に入らないように、俺は教室の隅の自席で寝たふりをする。そうでもしないと自分がボッチでいるのが少しみじめに思えてしまうから。と、その時。
ピロン、と携帯が音を立てる。ばっと起き上がってスマホを操作すると、メッセージアプリには1件の着信があった。相手は雨宮。
『今日の放課後、修くんのお家に寄るね』
それを確認してからつい雨宮の方を見てしまうと、一瞬、雨宮と俺の目が合い、あろうことか雨宮が俺に向かってウインクしてくる。雨宮のことだからウインクなんてそんなあざといことに慣れてるわけもなく、ちょっとぎこちないのがちょっと微笑ましい……って!
雨宮が思わせぶりなウインクをした瞬間。
「えっ、白聖女さま、今まさか俺にウインクしてくれた?」
雨宮を取り囲んでいた男子生徒の一人が勘違いして大きな声を上げる。。
「えー、それはないでしょ。一番の親友であるわたしに何か伝えてくれようとしてくれたんだよね~」
「あわわ、えっと……」
彼女を取り巻く生徒たちが少しざわつき始めて俺は頭を抱える。
……学校では俺たちの関係に気づかれないようにしてくれ、っていつも言ってるんだけどな。
そしてその日の放課後。
「……ってことで、今日の配信はこれでおしまい。 チャンネル登録と高評価もしてくれると、ナツミ、うれしいですぅ! じゃ、次回も待ってますね、せ・ん・ぱい♡」
マイクに向かって最後に甘えるような声でそう言うと。配信は終了され、PC画面に映し出されたプチデビルのコスチュームをした金髪少女のアバターが動きを止める。それを確認してからPCの前に座った雨宮はヘッドフォンを外し、俺の方を振り向く。
「修くん、わたし、今日もちゃんとできてたかな?」
「ああ、今日もばっちりだ」
俺がそう言ってうなづくと雨宮の表情がぱっと明るくなる。
俺と雨宮には1つだけ、2人だけの大きな秘密がある。配信の設備が整っている俺の部屋に週に2回集まり、雨宮が中の人・俺が裏方全般としてvtuber雛森ナツミの配信を行っていること――それが、俺と雨宮の中で共有している『秘密』だ。
vtuber雛森ナツミは魔界からやってきた悪魔で、自由奔放で甘え上手で、思わせぶりであざとい言動もよくする小悪魔系後輩の女の子ーーという設定。クラスの中で『白聖女』と慕われる雨宮の本来の性格とは真逆といっていいキャラ。きっとクラスメイトが雛森ナツミの配信を見かけることがあっても、その中の人がまさか雨宮とは思わないだろう。
なぜ優等生の雨宮が自分とは真逆のキャラクターのvtuberを演じているのか。なぜその配信を俺が機材を用意するなどで手伝っているのか。それは今から三か月前、俺と雨宮が出会ったばかりの時まで遡る。
◇◇◇◇◇◇
俺がその学校に転校してきた日、雨宮はすでにクラスで「白聖女さま」と呼ばれ、生徒からも教師からも慕われる人気者だった。対して俺はボカロ楽曲製作が趣味の生粋の陰キャ。雨宮みたいな陽の世界に棲む女の子とは卒業するまで関わることなんてないんだろうな。そう、雨宮のことを一目見たときに俺は確信した。でも、そんな確信は意外にもあっさりと崩れ去ることになる。
翌日の放課後。その日、たまたま忘れ物をとりに戻った教室で俺は、一人でクラス全員分の宿題のノートを整理をしている雨宮を目撃した。宿題の回収は日直の仕事で、今日の日直は雨宮じゃないはず。まさか雨宮、誰かから仕事を押し付けられてる……?
そう思った俺はつい聞いてしまった。
「こんな時間まで何してんだよ、雨宮。それ、お前の仕事じゃないだろ……」
「べ、別にいじめられてるとかじゃないですよ? ただ、日直の子から『いい子の白聖女さまならやってくれるよね』って頼まれちゃって、断れなくって。そうこうしているうちに担任の先生からも「雨宮は優等生だからな」って教室のお掃除を頼まれて、それを先にやってたらこんな時間になっちゃって……」
「……ッ! なんだよそれ。その友達も、担任も、都合のいいように雨宮のことを使ってるだけじゃないか! 雨宮に自分の仕事を押し付けた奴はどこだ? 今から文句言ってくる!」
そう言って飛び出そうとする俺だったけれど、それはかなわなかった。なぜなら、雨宮にぎゅっと腕を掴まれたから
「い、いいんです雪原さん! もとはと言えば『優等生』でなくなるのが怖くって断れなかった、弱いわたしがいけないんですから」
それから。雨宮は「こんな話、誰かにするのなんて君が初めてなんですよ」と前置きして話しはじめた。
「わたしの両親はすごく厳しい人で、物心ついた時からお母さんに『誰からも求められるような、優等生になりなさい』って言われてました。そしてその言葉は、今でも呪いのようにわたしを縛ってる。本当は『求められる優等生』なんて息苦しくってやめてしまいたい。わたしはお母さんの人形なんかじゃない! そう思ってるのに、優等生でいるのをやめられなくって、誰からも求められなくなるのが怖くなっちゃって、「優等生」だとか「白聖女さま」だとか求められたら、断り切れずに引き受けちゃうわたしがいる」
そう言って雨宮は視線を落とす。
「わかってます。本当は変わることに踏み出せないのはわたしが弱いせいで、それをお母さんのせいにしてるだけ。最悪ですよね、わたし。だから、『白聖女』なんて呼ばれる資格なんてわたしにはないんです……」
物わかりのいい優等生にしか見えなかった雨宮が抱えていた悩み。それは、少しも間違っていないのかもしれない。でも。俺は目の前の繊細な砂糖細工のような彼女のことを、烏滸がましいながらも「助けてあげたい」と思ってしまった。
「……なら俺が、優等生じゃない雨宮を必要としてやる」
「えっ?」
つい零れてしまった言葉に雨宮は目を丸くする。言ってしまってからちょっぴり後悔。でも、もう後には引けない。そう覚悟を決めた俺は、深く深呼吸して、まくしたてるように言う。
「誰かに求められるキャラクターにしかなれないなら、誰かに必要とされないことがこわいんだったら、俺が『優等生じゃない雨宮』を必要とする! だから少なくとも俺だけの前では、優等生であろうとしないでくれよ。雨宮が心の底から在りたいと思う自分でいてくれよ。もし誰かがそう言ってくれないと雨宮が踏み出せないなら、俺がその背中を押してやる!」
次の瞬間。雨宮の頬に一雫の涙が伝った。
「これまでそんなこと言ってくれたの、君くらいですよ」
「ですよ、じゃないだろ」
「へっ?」
「俺の前では優等生キャラ禁止。だから、俺の前では敬語もダメ」
俺の言葉に雨宮はしばらくぽかんとして、それから口元を抑えて吹き出す。
「あはは、何それ、って感じですけど……わかりました、じゃない、わかったよ、雪原修くん」
そう言ってぎこちなくはにかんで見せる雨宮。それはこれまでの白聖女としての上品な微笑とは違うように俺には感じられた。
それから俺と雨宮は放課後に2人きりで会うことが増えた。でも、十数年間、家でも学校でも続けてきた「優等生キャラ」ってのはそう簡単に抜けないらしい。いくら俺の前では優等生じゃない「悪い子」でもいいと口で言っても、どうしても雨宮は優等生キャラをやめられない。そんな雨宮のことをもう一押しするために俺が考えたのが、vtuberだった。
「ぶいちゅーばー?」
俺の提案に、雨宮はネットのことなど疎い優等生らしく首をかしげてみせる。
「そう。いきなりリアルで変わることが難しいなら、まずはなりたい自分をアバターに託して、そのアバターを演じる、って形なら、雨宮でも理想の『自分』に、ネット上だけかもしれないけどなれるんじゃないかな、と思って。そして本当になりたい自分になるには、そこからステップを踏んでいけばいい」
「……わかった。やってみる」
そして俺たちはあーでもない、こうでもないと意見を出し合ってvtuber雛森ナツミのキャラクター像を作り上げていった。清楚な黒髪ロングな雨宮と対照的な金髪ショートカット、物腰柔らかな雨宮と対照的にちょっとわがまま、読書が好きな雨宮と対照的にゲーム好きという設定。設定を付け足せば付け足すほど、雛森ナツミは雨宮と真逆な女の子になっていった。でもそれは他ならない、雨宮のずっと抑圧してきた「なりたい自分」そのものだった。
そうやって始まった俺と雨宮の配信活動。それでも、最初のころは中の人の雨宮の優等生感がどうしてもにじみ出てしまっていて、キャラと中の人が合ってないと叩かれることも日常茶飯事だった。でも。
続けていくうちに要領のいい雨宮はどんどん、本物の『雛森ナツミ』になっていった。最初はぎこちなかったゲーム配信も上手にこなすようになり、配信している時だけは、雨宮は周囲から求められる優等生ではなく、数百もの同時接続のファンを魅惑する、あざとかわいい後輩ヒロインになっていた。
リアルでの雨宮は今でも、たとえ俺と2人きりの時でも完全に優等生キャラを抜け出せていない。でも、ネットの中だけでも「なりたい自分」になれている雨宮のことを見ていると、俺は無性に嬉しくなった。そして雨宮も、そんな俺と雨宮だけの「なりたい雨宮になる活動」を楽しんでくれているみたいだった。
まあ楽しみにしすぎて、学校では2人きりの配信活動は秘密にしてるのに今日みたいにちょいちょいぼろを出しそうになるから、気が気じゃないんだけど。
◇◇◇◇◇◇
1週間後。定期テストが明けた教室はテストからの解放感のせいか、どこか空気全体が浮ついていた。そしてそんな時に話題に上がるのは色恋沙汰などの浮ついた話題になるわけで。
その時、雨宮を中心とするグループが話に花を咲かせていた話題もコイバナだった。だれだれとだれだれが付き合い始めただとか、隣のクラスのどのカップルが最近別れただとか、そんな話がひと段落して。
「そう言えば白聖女さまは誰か気になる男の子とかいないの?」
いつも雨宮の近くにいるショートカットの少女がふとそんな疑問を口にした瞬間。それまでいつも通り興味なさげに彼女らの会話を聞き流していた俺はつい、耳をそばだててしまう。そしてそんな白聖女さまの『気になる男子』という話題にこれまでも元気だった雨宮の近くの男女も一段と色めきだつ。
「そういえば白聖女さまってあんまり男っ気ないよね~。付き合ってないとおかしいくらいかわいいのに」
「白聖女さまの気になる男子! 気になるぅ!」
「白聖女さま、気になる男の子がいるなら告っちゃいなよ。白聖女さまからの告白を断る人なんて絶対いないって!」
「あ、えっと……」
周りの女の子たちに迫られて雨宮は困惑したような声を漏らす。でも、その頬はほんのりと赤みがさしていた。
--ってことは、雨宮にも好きな男子がいるってことか。毎週二人きりでいるのに、そんな気配、全くなかったんだけど……。
そう考えた瞬間、俺はなぜか、背中に冷水を浴びせられたような気持ちになった。
――って、まあ、そうだよな。雨宮ってかわいいし、運動も勉強も人気者だし、恋愛くらい興味あるだろ。誰かが言っていたようにイケメンの彼氏がいない方がおかしい。そしてそんな恋愛相談、単なる配信のパートナーでしかない、しかも異性の俺に相談するわけがないよな。でも……だとすると雨宮と俺が2人きりで会っているのって邪魔だったりするのかな。
そんな不安が心の中に沸き上がり、そのもやもやがどんどん広がっていく……。と、その時。
「やめろよそんな話。白聖女さまが困ってるだろ」
「そうだそうだ! 大体、誰にでも優しい博愛な白聖女さまが誰か一人を愛するなんて、そんなこと自体解釈違いなんだよ!」
雨宮を異様に神聖視する、自称「白聖女騎士団」(要するに雨宮ファンクラブ)の面々が声を上げる。普段は鬱陶しく感じるこいつらだけど、その時の俺はなぜか、こいつらに救われた気がした。そしてそんなファンクラブの面々の登場に雨宮の彼氏で盛り上がっていた陽キャ達もクールダウンしてくる。
「あー出た出た、白聖女さまを必要以上に神格化する親衛隊。あんた達、白聖女さまに夢見すぎなのよ。白聖女さまだって女の子なのよ? 恋愛くらいするでしょーーでも、確かに無理に聞くのは失礼だったわね。ごめんね、白聖女さま」
「あっ、べ、別に大丈夫ですよ」
愛想笑いを浮かべながらそう答える雨宮。そこで雨宮に好きな男子がいるのかという話題はおしまいとなった。でも、この昼休みのことは俺の心に大きな爪痕を残した。
そして、そんな会話があってから最初の配信日。いつも通りの雨宮と対照的に、俺は最初から、妙に雨宮のことを意識してしまっていた。
「え~、先輩、まさかあたしのこと好きなんですかぁ? わたしも、先輩のカノジョになれたら幸せだろうな……なんちゃって」
視聴者に対して思わせぶりなことを言いながら、今日も元気に小悪魔系女子になり切って配信をする雨宮。いつも通りの光景、なはず。でも、そんな雨宮の配信を聞いているとなぜか、俺の心はざわついた。こんなこと、これまでの配信で一度もなかったのに。むしろ同時接続で見てくれている視聴者と雨宮のやりとりを微笑ましく感じていたはずなのに。
ーーなに本気にしてるんだよ、俺。雨宮の配信は演技だろ。
そう自分に言い聞かせようとして俺ははっとする。
――違うだろ。今、目の前にいる雨宮が本当に雨宮がなりたかった雨宮で、今の雨宮は演技なんかじゃない。そう導いたのは他ならない俺じゃないか。そして、そんな『本物の雨宮』を認められないような俺は、雨宮の隣にいる資格なんてない。だいたい、雨宮には好きな男子がいるらしいし、そういう意味でも、俺の役割はもう終わったんだよ。
そう思うと掠れた自嘲が口から漏れそうになったけれど、必死に抑え込む。そんなのは配信の邪魔になるってわかってたから。
そして永遠かとも思えた配信がようやく終わり。
「今日の配信も楽しかった! 修くん、今日も付き合ってくれてありがと……って修くん、まさかわたしが視聴者さんのこと『好き』なんて言ってるから妬いてる?」
ヘッドフォンを置いてこちらを振り向いてきた雨宮がそんなことを聞いてくる。
こ、心を読まれてる? そう思うと、顔がかぁっと熱くなる。雨宮に言語化してもらった瞬間。俺はあの日以来自分の中に感じていたもやもやの正体がようやくわかった気がした。
――そうか、俺、いつの間にか雨宮のことが好きになっちゃってたんだ。だから、顔も知らない雨宮が気になっている男子に嫉妬して、もやもやして、あろうことかファンと雨宮の交流にまで嫉妬しちゃったんだ。
「……」
自分がかっこ悪すぎて情けなくなって言葉に詰まってしまう。と、その時。
「心配しなくっても、あたしにとっては修くんが一番だよ」
耳元で囁かれる雨宮の甘い声音。それだけで俺の脳が焼き切れそうになる。
「!!!!!! 雨宮、vtuberとしてのスイッチが入っちゃったままなんじゃないのか!? 俺のことをからかうのもいい加減にしてくれよ!」
雨宮の体を押しのけて俺はなんとかそう言い放つ。そのまま雨宮のペースに流されていると雨宮の言葉を本気にしてしまいそうだったから。そしてそうなった時、傷つくのは雨宮にガチ恋してしまっている俺なのは明白だった。
でも、この日の雨宮の追撃は止まらなかった。何のつもりか上目づかいで俺のことを見つめながら、雨宮は言葉を続けてくる。
「でも修くんの前ではあたし、優等生じゃない、わるい娘でいてもいいんだよね? わるい娘になって、修くんの心を射止めちゃってもいいんだよね? ーー数日前にクラスで話した気になってる男の子って、実は、修くんのことなんだ」
ほんと今日の雨宮は何を考えてるんだ? このままだと、このままだと、雨宮も俺のことを本気に好きだと勘違いしちゃうじゃないか……! と、その時だった。
「ごめん、今のナシ! ……うう、やっぱ恥ずかしい」
気づくとこれまで余裕そうな表情で俺を魅了してきた雨宮はすっかり影を潜め、いつもの優等生をやめきれない、初心な雨宮が恥ずかしそうに両手で自分の顔を覆っていた。指の隙間から垣間見える雨宮の顔は、紅潮している。そんな雨宮に、俺は困惑してしまう。
「ええっと……」
「あはは、配信の時のキャラのままだったら思い切って修くんに思いを伝えられるんじゃないかって思ったけど……やっぱわたし、まだまだ本物の雛森ナツミにはなれないなぁ。肝心なところでぼろが出ちゃう」
顔を両手で覆ったまま雨宮がいう。そうか、そうだよな……って!
「今、思いを伝えられる、って言った……?」
震えた声で思わず聞き返す。それに、雨宮は小さくうなづく。
「自分でもずっと気づいてなかったんだけど……数日前、クラスでわたしの好きな人について話題になりかけたじゃない? その時、『気になっている男子』って聞かれて、真っ先に頭に浮かんできたのは修くんの顔だった。『優等生』という生き方に息苦しさを感じていたわたしの手を引いて、新しい世界へと連れて行ってくれた、わたしだけの王子さま。
そして、一回修くんのことを男の子として意識しちゃうと、もう駄目だった。授業中も、夜寝る前も、修くんのことで頭がいっぱいになっちゃった。修くんはわたしのことどう思ってるんだろ。わたしのことなんて、「かわいそうな女の子」としてしか今でも見てないのかな、って不安になった時もあった。今日ここに来て、修くんと二人きりになるのだって正直すっごく緊張してたんだよ!
でも、いつまでもこの気持ちを引きづって、告白を先延ばしにして、修くんが他の女の子にとられちゃうのだけはイヤだった。だから、2人きりになる子の配信の日に告白しよう、って決めたの。って、言っても、『優等生』としてのわたしはヘタレで告白する勇気なんてないから、配信の後、雛森ナツミの勢いのまま、告白しようと思ったけれど、やっぱり最後の最後で失敗しちゃったね。でも」
そこで雨宮はいったん言葉をきり、俺のことをまっすぐに見つめてくる。
「わたし、うまい小悪魔系女子にはなれてないけれど、それでも修くんの前ではちょっとわがままで、魅惑的な女の子でいいんだよね? だから、改めて告白するよ。――修くん、わたしのものになって」
そう、ちょっとあざとらしく言い切った雨宮だけど、その体は不安のためか小刻みに震えている。そんな雨宮を見ていると、これまで必死で抑えていた熱いものがこみ上げてくる。
――こんな小さくて触れたら壊れてしまいそうな雨宮のことを、これからも支えていきたい。誰よりも近くで、雨宮が雨宮のなりたい女の子に成長していくのを見ていきたい。それが俺の、「好き」のかたちなんだろうな。
次の瞬間。俺は思わず雨宮のことをぎゅっと抱きしめてしまう。
「……俺の方こそ、雨宮のことが好きだ! いつまでも、誰よりも、お前のすぐ近くに居させてくれ!」
そんな俺の告白に雨宮は一瞬安心したように頬を緩め、でも何を思ったのかすぐに頬を軽く膨らませて言う。
「菜月」
「えっ?」
「菜月、って名前で呼んで。だってわたし達、これから付き合うんだもん」
そう膨れる雨宮――菜月がいとおしくて、俺はつい吹き出してしまう。
――菜月、俺にとってお前は、もうとっくに俺のことを魅惑する小悪魔系女子だよ。雛森ナツミなんて演じなくても。
そう思ったけれど、それは口にしなかった。それを口にしてしまうと、今以上に俺の愛しのプチデビルに翻弄されちゃいそうだったから。
ここまでお読みいただきありがとうございます。配信系が流行っている、と聞いて実験的に書いてみました。
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