会いに来た、君に。
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俺は今、例の部屋に向かっている。理由は簡単、天音と話すためである。
朝、担任から交流会に参加するよう説得してくれと頼まれた。
これを断らなかったのは、教師陣への印象アピールというのもあるにはあるが、本音をいえば天音に少し興味があるからである。
ただ、この興味は純粋に来るのか来ないのかどっちなんだというものと、来るにしろ来ないにしろ、その理由はなんなのかというものである。
天音と言う人間に興味がないというわけではないが、少なくとも今はそのレベルでしかない。
倉庫部屋に静かに入り、奥の部屋の扉をノックし呼びかける。
「紫宮だ。天音はいるか」
「はーい!いるよー!入っていいよー!」
元気な声で返事が聞こえた。
入室許可を得たので扉を開け部屋に入る。
「やっほー!来てくれたんだ。私に会いにきた?」
「あぁ、天音に会いに来た」
「え!?」
天音は驚いた顔でこちらを見つめてきた。
「ちょっと先生からの頼まれ事でな」
「…なぁーんだ」
露骨に天音は不機嫌になったように見える。
「なんだよ」
「いいや別に〜。なんでもな〜い」
ふんっと不機嫌そうな顔をしている天音は、気にしてませんがとでも言うようにすぐさま本題に入った。
「んでぇ、頼まれ事ってなに?」
「今日の朝、先生が交流会ってのをやるって話してたんだ。キャンプ場でカレー作りとその他いろいろって感じだが」
「それに参加するように説得してくれって頼まれてここに来たのかな?」
「あぁ、理解が早くて助かる。で、参加するのか?」
「…少し考えさせて欲しいな」
「分かった。また明日くる」
「あぁいや、その、数分だけ待って欲しいな。今決める」
「そうか。なら待ってる。俺は時間あるから急がなくていい。決めたら教えてくれ」
「ありがとう」
そうして天音は俺に対して後ろを向き、スマホをいじりながらなにかを考えていた。
…あれ?そういや日にちって決まってたっけ?
配布されたプリントに書いてあるかな。
書いてあった。4月30日。大体2週間後ぐらいか。
「考えてるとこ悪いが、プリント渡すの忘れてたから、テーブルに置いとくな」
「ありがとう」
天音は俺の置いたプリントを受け取ると、それを見ながらまた考え始めた。
正直、何を考えているのか分からない。
例えばただのサボりであれば、担任やその他教員は、授業に出ないことをそのままにはしないだろう。
ただ今の所注意や呼び出しされているとは思えない状態であるし、担任のあの感じだとこの状態を認めているのだと考えられる。
その理由はなにか分からないが、でも、少なくとも担任は参加させることができると考えている。
なんて考えたところで何も分からないし、俺には関係ないし、とりあえず参加するかしないか聞くだけだな。
「紫宮くんはもうグループ決まってる?」
こちらのほうに座りなおした天音が唐突に聞いてきた。
「まあ。勇也…俺の後ろの席のやつと同じグループの予定だが、まあ実際にカレー作りのときは4人ぐらいになるだろうから、そこはおいおい決める」
「ふーん。その勇也って人は優しい人?」
「優しいとは思うぞ。少なくとも場を悪くする人間ではないと思う」
「そう…」
「どうした?勇也になんかあるのか?」
「そういうことじゃない」
んーっと唸りながら悩んでいる天音だが、10秒もすれば口を開いた。
「紫宮くんと同じグループという条件なら参加する」
「俺と同じ?」
「うん。それが無理なら参加しない」
「まあ俺は平気だけど、勇也に聞いてみないといけないから、また明日ここ来る」
「メッセージ送るか電話すればいいんじゃない?」
「…そういえば連絡先知らないな」
「普通交換すると思うけどなぁ」
「俺にはそういう文化がないんだよ。言われたらするけど」
「んーじゃあ先に私と交換しようよ。ほらほら、LAIN起動して」
促されるままアプリを起動し連絡先を交換した。
「よーし、これでいつでもお話できるね!」
「それが目的か…」
「あとはまあ、今日みたいなやつも簡単に話せるようになるし」
「それはそうだな」
「まあでも、ここに来てくれてもいいよ。むしろ来てくれた方が嬉しいかな」
「暇ならな。とりあえず勇也と先生に話してみるから」
「はーい。ありがと、紫宮くん」
「じゃあ俺は帰るわ」
「またねー!」
「おう」
さて、結果的には参加には前向きってことは分かったな。明日にでも先生と勇也に伝えなくちゃな。
アプリに表示されている連絡先は母、父、妹、その他大勢。
一応昔のクラスのグループには入っていたから、そこから追加してくるやつが何人もいたし、出会ってすぐ交換するやつもいた。
だが、結局のところそれだけであり、ほぼ全ての人間の会話履歴は大量の公式アカウントによって下に追いやられている。
そんな画面にピコン、と通知が表示された。
「またきてね」と。
すぐさま「行けたらな」と返事した。
たったこれだけの変化でも、日常がいつもよりもちょっとだけ彩られたと、そんなふうに感じた。