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有紗視点

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〜〜有紗視点〜〜


紫宮くんが帰ると、そこは静かで、寂しさの感じる空間に戻ってしまった。


私にとって、ああやって話して、遊べる友人はとても貴重だ。

そしてそれが彼であるというのは、とても嬉しい。


彼は覚えてないかもしれないけど、私は彼のことを前から知っている。

一年生のときも同じクラスだった。でも今と同じように教室にほとんど行ってないし、多分彼は私がいたことを知らない。


私だって彼のことは知らなかった。でも知るきっかけがあった。


去年の夏、私は交通事故に遭った。いや、遭いそうになった。

学校帰り、青信号になるのを、スマホを見ながら待っていたら居眠り運転の車が横から突っ込んできた。

正直私は気づいていなかった。

突然横から強い力で引っ張られたと思ったら、次の瞬間には、私はなにかを下敷きにして倒れていた。

それと同時に、横から大きな音が聞こえた。

この一瞬で、何が起きたのか分からず、困惑した。


下から声が聞こえた。


「大丈夫か?怪我はないか?」


この声で、私の下に男の人がいることをしっかり認識した。


「は、はい、大丈夫です。すみませんすぐ退きます」


私はすぐその人から離れた。


「無事なら良かった」


「あ、ありがとう、ございます。えっと、助けてくれた…んですよね」


「まあ、助けるというか、咄嗟に避難させようと思っただけだ。あんまり俺のことは気にするな」


彼は立ち上がりながらそう言うと、交通事故を起こした車の方へ向かっていった。


私も周りを確認した。

パッと見10人ぐらいだろうか。恐らく救急と警察に電話している人、事故を起こした車に向かっている人、ただこの現場を見ている人。


車は、壁にぶつかり止まっていた。壁も車もボロボロになり、車の前方はほんの少し潰れていた。その光景を見た時、私は死ぬ寸前で、そして彼に助けられたことを実感した。

恐怖で少しの間動くことができなかった。


救急や警察が到着し、彼は警察となにかを話していた。

私も警察の質問に答えたりした。


私は帰る前に、彼の名前を聞こうと思った。

私の命の恩人の名前は覚えておきたかった。


「助けてくれてありがとうございました。あの…お名前を、教えて貰ってもいい、ですか?」


「別に名乗る程でも無いだろ。無事でよかった。気をつけて帰れよ」


「教えてください!私の命の、恩人なんです」


「はぁ…紫宮奏だ。じゃあな」


彼はそのまま歩いていってしまった。

私はあれ以来、紫宮奏という名前を一度も忘れていない。



私は、みんなと同じように教室で授業を受けることは無い。秘密基地のように使っている、人のこない倉庫の奥だけが、学校での居場所。

だから、なかなか彼の存在に気づくことは無かった。


提出するものがあるため朝早くから登校した。人の少ない時間に教室の前を通ると、席に座りぼーっとしている人がいた。一瞬見えただけだが、間違いなく彼だった。


私は彼が同じ高校で、同じクラスにいるという奇跡がとても嬉しかった。話しかけようと思った。

でも私はそこで勇気が出せなかった。話しかけて、何をすればいいのかとも思ってしまった。


それに、朝以外の時間では、クラスメイトに話しかけられている彼を何度も見た。そんな彼に近づくことは、クラスで注目を浴びてしまうと、感じてしまった。恩人補正で過剰に考えてるだけなのかもしれない。でもその思考が私から勇気を奪っていった。


いつの間にか、二年生になっていた。

私はあいもかわらず、勇気の出せない人間だった。


その日はいつも通り、過ごしやすくなった部屋の中でうたた寝していた。

倉庫に誰か入ってくる音が聞こえた。でも、ここまでこないだろうと思ってうたた寝を続けた。

思いのほか静かに動いていた彼に気が付かず、私は彼の驚いた声を聞いて心臓が止まりそうになった。


でも変な人に思われたくないから、冷静に、今起きましたという態度でわざとらしく起きた。

彼は私を見てどういう反応をするのか気になった。

私を見て、あの時の人だ、と分かってくれるかなと期待した。


でも私のことは覚えていないような素振りだった。すぐに部屋を出ていった。

きっと彼が部屋を出る時、私は暗い顔をしていただろう。


でも、それでも、逆にこれは大きなチャンスだとも考えた。

幸運だったのは、また彼と同じクラスだったことだ。話しかける理由になる。

早速私は行動した。


私は、彼が朝早くから来ることを知っている。だから私も早くから教室に向かった。

想定通り彼は席でぼーっとしていた。

私は勇気をだして話しかけた。


彼と話すのは楽しかった。

いや、彼は楽しくなかったかもしれない。

でも私は楽しかった。というより浮かれていたと言うべきか。


私は会話の中で、もう一度勇気をだして、彼を誘った。

渋々ながらも彼は来てくれることになった。


彼を待っているあいだはとても緊張した。

彼が来た時、緊張で声が裏返らないか心配だった。


隣に座って欲しくて呼んだけど、来てくれなかった。でも前にいたらよく見えるから問題ない。


彼とゲームするのは楽しかった。この1回で終わらせたくなかった。

だから私はまた誘った。


私は彼のことをどう思っているのか。自分自身のことが分からない。でも、少なくとも、他の人よりはかなり好意的だ。だからこそ、彼が帰ってしまった今は寂しいのだろう。


「また、遊びたいなぁ」


それは自然と零れた言葉だった。

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