出会いは春、2人きりで。
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それは、ある春の日のことだった。
高校2年生になり1週間が経ったころ、教室で担任から頼まれたのは、道具の入った箱を取ってきてくれという雑用だった。
放課後に予定なんてものはなく、これを快諾した。
教室から少しの間、担任と会話する。
「箱ってどこにあります?」
「3階の倉庫、美術室の前にある部屋なんだけどドアの上に手書き看板で第3倉庫って書かれてるから見ればわかるよ」
「了解っす」
「入って右側だったかな?にある棚にいくつかダンボール箱が置いてあるんだけど、交流会イベント用って書いてあるやつあるから。それを職員室まで持ってきて。呼んでくれればすぐ受け取りに行くから」
「分かりました」
「じゃあまた後で。よろしくね〜」
そう言うと担任は階段を降りていった。
俺たちの教室は2階にある。俺の目的は3階、職員室は1階にあるため、階段で別れた。
階段を上り、目的の部屋の前に着いた。
「失礼しまーす」
扉を開け中に入ると、そこは思っていた以上に綺麗にされていた。予想では埃まみれでぼろぼろになっているのではないかと思っていたのだが。
入って右側の棚を見てみれば、担任の言う通り複数の箱が置いてある。
目的の箱は棚の手前側、簡単に取れる位置に見つかった。
「ういっしょっと」
箱は無事回収。あとは職員室に持っていくだけである。
扉の方に振り返り部屋を出ようと歩き出した時、部屋の左奥、扉からは左の壁にある棚のおかげでちょうど見えない位置にもうひとつ扉があることに気がついた。
その扉は開いていた。何があるのかと単なる好奇心で覗くことにした。
「!?」
俺は驚いた。
扉の奥は少し小さめの部屋だった。机と椅子が重ねて並べられ、ダンボール箱やカゴが置かれていた。
そして、注目すべきは部屋の1番奥の空間である。
下に薄めのマットが敷かれ、クッションが置いてある。低めだが大きめのテーブルも置いてある。
そしてそこには、窓から入る夕陽に照らされ、気持ちよさそうに眠る女の子がいた。
驚いた拍子に踵を壁にぶつけ、トンと音を立ててしまった。
その音が聴こえていたからか、彼女はゆっくり身体を起こしながら目を開けた。
「……だれぇ?」
彼女は眠そうにしながら問いかけてきた。
「あ、すまん、邪魔するつもりはなかったというか、入るつもりはなかったんだが、頼まれてそこに置いてある箱を取りに来たんだ」
なんというか、何故ここにいるのかだとか、睡眠を邪魔してしまったかとか、通報とかされないだろうかとかいろいろ考えてしまって、動揺して早口で喋ってしまった。
「んーそかあ。ここ、人来ないって言ってたんだけどなぁ。」
彼女はそう言いながら立ち上がり、こちらに近づいてきた。妙に笑顔である。
「いきなり入って済まなかった。俺はもう出るから」
何故ここにいるのか。気になるには気になるが、別に友人であるわけでも、気があるわけでもない。俺には箱を職員室に持っていくという仕事がある。早く出よう。そう思い歩きだした。
「ふーん、そう」
彼女はそれだけ言うと、俺が部屋を出たあと扉を閉めた。彼女の表情は明るくは見えなかった。
これが俺と、そして俺の人生を変えた彼女との出会いであった。