クレーンゲーム最強伝説
この会社では、さまざまなクレーンゲームを開発している。
クレーンゲームにおいて、「機械の握力」は非常に重要だ。その設定を間違えると、こちらが想定していた以上の景品を取られてしまう。
だから、「ほどほどに弱く」というのが、握力設定の基本だ。
ところが近年、お客さまたちの技術向上には、すさまじいものがある。特に、「上級者」と呼ばれるお客さまたちは、一回のプレイで二つも三つも景品を取っていく。
この状況で赤字にならないためには、機械の握力を下げるしかない。これは、経営上のやむを得ない判断だ。
それに対して、「ずるいぞ、握力を下げるな」という声が、ネットを中心に起こる。
会社としても辛いところだった。上級者を基準にするなら、もっと握力を下げたい。しかし、普通のお客さまたちのことを考えると、「握力を下げるな」という声も理解できる。
そこで、会社は考えた。新しいクレーンゲームを開発しよう。握力は強いのに赤字にならない、そんなクレーンゲームだ。
数か月後、一号機が完成する。さっそく近所のゲームセンターに設置した。
で、初日からものすごく話題になる。
なにせ、業界最強の握力を誇るクレーンゲームだ。なんと、おすもうさんと同じ握力がある。
そして、その景品が衝撃的だった。
挑戦した上級者たちが、口々に叫ぶ。
「これ、絶対に無理だろ!」
このクレーンゲームの景品は、「絹ごし豆腐」である。
ところが数日後、その最強伝説に終止符が打たれることになる。
保健所の人がやって来て、「不衛生」だと指摘していった? それで稼働停止?
いや、そうではない。
本来なら、そうなるはずだった。
が、保健所よりも先に、この最強伝説を打ち破る者が現れたのだ。
その日、ある男が鍋を持って、クレーンゲームの前にやって来た。
「今夜は湯豆腐にしようかな」
そう言ってお金を投入すると、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
男が気合いを込めた途端、あら不思議。ケース内の豆腐がすべて、宙に浮いたのである。
それもそのはず、この男は超能力者だ。
クレーンゲーム業界にとって、天敵の出現である。