表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ【挿絵あり】

挿絵(By みてみん)


 寝間着に着替えて結っていた髪を解き、蝋燭の揺らめく炎を吹き消そうとしたトワは、ふと気配を感じて窓を振り仰いだ。三日月を背景に、高い位置にある窓枠に腰掛ける人影を認めて淡く微笑む。


「こんばんは、セオ。今夜も来てくれたのね」


 ひらりと窓枠から飛び降りた少年──セオドアは、悪戯っ子のように口元を緩めて笑う。まるで三日月の色を写し取ったようなセオドアの金髪は、薄暗がりの中でも眩く輝いた。


「もう寝る支度していたんだ。今日は早寝なんだね、トワ」


 トワの下ろした長く艶やかな黒髪は、この国では非常に珍しいものである。少女の黒髪と黒い瞳は、遠く東に位置する異国の母譲りのもので、セオドアはそのエキゾチックな美しさをとても好んでいた。


「明日の朝は、お父様に呼び出しをされているの。お屋敷には近づかないように言われているのに、どういう風の吹き回しかしらね」


 肩をすくめたトワの居室は、屋敷の外れの粗末な離れである。目立つものといえば、異国から母親が持ち込んで苗木から育てた桜と、トワが趣味で糸を組む高台くらいだろうか。いつもであればこの時間、トワが高台に座って器用に絹糸を組紐にしていくさまを眺めることも、セオドアは好きだった。


「お父さんに呼ばれて? そういえばトワは伯爵令嬢だっけ」

「令嬢なんて大層なものじゃないことは、セオもよく知っているでしょう。所詮、私は妾の子よ。この王国では異端の存在なの」


 少しばかり捻くれた物言いになってしまうのは、トワの生い立ちに由来するのだろう。セオドアはそんなトワを宥めるように持参した土産の櫛を差し出すと、素直な彼女は礼を言って受け取り、嬉しそうに黒髪を(くしけず)った。


「異端とか、自分を卑下する言い方をしなくてもいいじゃないか。僕はトワの髪が好きだし、話していて楽しいよ。お父さんもきっと、そういうことを知ってるんじゃないかな」

「そうかしら……」


 不安げに大きな瞳を伏せるトワの姿は、月明かりに照らされて、より一層異国情緒溢れた美しさが際立つ。十六歳の少女が持つ危うい色香に、知らず知らずセオドアは心惹かれていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、チャーコさん。御作を読みました。  素敵な導入と挿絵ですね^ - ^  トワとセオドアのこれからが楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ