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第22話 酒の席の戯言

廊下の窓から外を見ると突風が吹いていた。

これは明日には国家魔術師がルカをこっちに連れてきて、俺たちは解放されるだろう。

それに外はもう暗かった。

先輩さんとグレイでだいぶ時間が潰せたらしい。

軟禁部屋に戻り、扉を開けて中に入るとジャーさんが居た。


「おーレント君!おかえりなさい。」

「どうも・・・耳はもう大丈夫なんですか?」

「大げさに包帯を巻いてるけどね。ほら!元通りだよ。」


ジャーさんは包帯とガーゼを外し、耳を見せてくれた。

確実に耳の一部が欠損したと思ったが、多少傷が残っているとはいえ、耳のかたちが元通りになっている。

対応が早いと、この国の治癒魔術レベルでは完全に失った体の部位でも元に戻るのか。


「それと・・・この間の会議では・・・申し訳ありませんでした。」

「もう謝罪はおなかいっぱいです。それにジャーさんは指示に従っただけじゃないですか。・・・そんなことより耳が元に戻ってよかったです。」

「まあこの国のお医者さんの魔導術は優秀だからね!」


前々から気になっていたが魔"導"術ってなんだ?

魔法と魔術の違いは知っている。

でも魔導なんて話はほとんど聞いたことが無い。

ハンナさんも医者に連れて行けば医者の導きで元に戻るって言ってたし。

この"導き"という言葉はなんだろうか。


「あのー・・・魔導術って何ですか?」

「お医者さんが使う治癒魔術は基本的に魔導術って言われてるの。」

「この国には"カンナビア医師会"という組織があります。そこに所属する医者が使う魔術は魔導と呼びます。マチダ様は一度カンナビア医師会所属の人に会っているはずですよ。」


一度会っているだと?

・・・そうか、あいつか。

俺の目の前で治癒魔術を使った奴なんて一人しかいない。


「ルカの母親か。」

「ルカってこの間の会議で話題になった子だね!じゃあルカちゃんとやらは"龍導会"の信仰者なのかな?」


カンナビア医師会の話をしていたら、"龍導会"を信仰しているという話になった。

この国の医師会は宗教団体が指揮しているのか。

でもルカからは何かの宗教を信仰しているようには見えなかった。


「龍導会っていうのはどのような宗教なんですか?」

「すべての事象は神の使いである龍によって導かれているという考えを信仰する宗教ね。魔術が使えるのも龍の導きのおかげだから"魔導"と表現しているの。」


そういえばルカの母親が俺にお願いをしてきたときも、「ルカと俺が出会ったのは導きでしょう」って言ってたな。

ハンナさんやジャーさんの話を聞く限りは2人は龍導会にいやな感情は持っていないらしい。

龍の導きか・・・この風も龍のせいだったよな。

ハンナさんは龍は空想上の生き物と言っていた。

良く分からないが龍導会も空想上の生き物だったから信仰していたのではないだろうか。

でも、今はこの国で龍は存在することになっている。

この国における龍導会の影響力が上がっていそうだな。


「ルカも信仰者なの?」

「ルカと両親との関係がこじれているところから察していただけると。それにマチダ様は一度もルカの口から魔導という言葉は聞いていないでしょう?」

「・・・確かに。」


ルカとその家族の関係は想像以上に面倒くさいこじれ方をしているらしい。

医者を目指す魔導の勉強ではなく、魔術学校に通ってるあたりにも親の言うことを聞く気が無いことが分かる。

ルカの現状を少し分かった。

だが、分かったからなんだと言うんだ。

さっきのグレイさんとの話が頭をよぎる。


「さてさて、何も知らない召喚者君のお勉強が終わったところで・・・じゃん!レント君はいける口かな?」

「おお!酒ですか!」


ジャーさんは自分の足元に置いてある箱から酒瓶を取り出した。

なんでこの人、職場に酒持ち込んでるんだ?


「突風が吹き始めてからお酒を常備してるのよー。今日みたいに帰れない日は職場の仲間とお酒を楽しむわけ。」


酒好きからしたら素晴らしい飲みニケーションだ。

それにしても何本持ってきてるんだ?

ジャーさんは炭鉱族(ドワーフ)だから、漫画とか小説のイメージだ通りだと酒がめちゃくちゃ強い気がするが。

そんなこんなでジャーさんがコップに酒を注ぎ始め、軟禁されてるはずの身でありながら飲み会が始まった。


この国に酒はビールとハーリルの2種類しかない。

ビールはそのままビールだろう・・・言語翻訳(トランスレーション)を通してビールと聞こえているし、味も似ているから元の世界のものと全く同じなのだろう。

問題はハーリルだ。

聞いたことない名前だし、何からできているかもわからない。

具体的な度数は知らんが、確実に高い。

・・・まあ酒なんてそんなもんだろ。

酒を飲むのが好きでかつ、酒をしっかり理解しているやつなんてそんなにいない・・・と思う。

俺は今まで死ぬほど酒を飲んできたが、ウィスキーだろうが日本酒だろうが作り方なんて一切知らん。

つまり、ハーリルだろうがおいしければいいんだよ。


今回、ジャーさんが持ってきたのはハーリルだ。

そんな度数の高い酒をジャーさんのペースに合わせて飲んでいたら、ベロベロになるまで一瞬だった。

炭鉱族(ドワーフ)の酒豪っぷりは想像の通りだった。


「ほぉほぉ。レント君はなかなか良い飲みっぷりをするねぇー。」

「いやージャーさんもさすがですなぁー。俺なんてもう限界が近いですよー。」


そんなヘベレケな俺をハンナさんは真顔で見ていた。

クソが・・・達観した目で見やがって。


「なんだぁその目はハンナさん。俺に対して言いたいことがあるなら言ったらどうだね!」

「・・・いえ、お二人が楽しそうだなと見ていただけです。」

「そうか!なら俺はハンナさんに言いたいことが1つある!」

「・・・"なら"の使い方を間違えてますよ。はぁ・・・好きなだけ酔っぱらいの戯言を話してください。」

「いいか!あんたがなぁ俺をどう思ってるか知らんが、俺はあんたに感謝してるぞ!」

「・・・やめてください。」

「俺が巻き込んだ以上は悪いようにはしない!その距離感でいい。安心してついてこい!」


なんか随分とカッコつけたことを言った気がするな。

もう・・・何話してるか分からなくなってきた。

それに急激に眠くなってきた。

はぁあ、どうせこれ・・・朝になったら全部忘れてんだろうな。


――――――――――――――――――


「レント君寝ちゃったね。」

「いつも通りです。言いたいこと言ってパタリと寝てしまいます。」

「ふーん。でも良いこと聞けたんじゃない?」

「酔わなきゃ言えないことなんて、聞く側にとっては価値がないものです。」

「私は酔っ払いの発言は普段隠してる本性が出てきてるって思ってるよ。」

「・・・そんなものですか。」

「良い事ねー仲が良いことは。」

「仲は良くありません。マチダ様と私はお互いの態度から察し、出会って数日後には確認事項以外の会話はしなくなりました。」


ハンナもレントもお互いが距離を置こうとしている考えは同じだ。

しかし、それは外側であって、その考えを形成する中身が同じところから来ているとは限らない。

ただ、反りが合わないのか、それとも事情があり距離を置かないといけないのか。


「"良い人"ということは最初からわかっています。良い人という事と反りが合わない事は別です。」

「それは感情的なところから?それとも他者からの命令?」

「・・・両方です。」


良い人だと分かっているが感情的にも命令的にも距離を詰めるわけにはいかない。

他者の考えやアドバイスが介入する余地がない絶対的な壁だ。


「なんだか不安だよー君たち。上手くいかなかったら王様からめちゃくちゃ制裁くらいそうねー。関わる私達も責任が……。」

「・・・何かあっても皆さんにはご迷惑はかけません。国王が直接手を下すのはマチダ様だけでしょう。」

「手を下すって・・・そんな物騒なレベルなの?」

「王は在籍間に7人召喚して、既に2人の召喚者は処分されております。現在カンナビアにいる召喚者はマチダ様含め5人です。なぜ処分されたかはさすがの私も分かりませんが。」

「処分って・・・ちょっと待ってよ。そんな話を私にしてもいいの?」

「問題ありません。私は召喚者に関する情報の秘匿は命じられておりません。誰だろうと聞かれたら私が知っているものは全てお答えしております。・・・私自身も多くは知りませんが。」

「召喚者に関する情報の秘匿はって・・・じゃあ何を隠しているの?」

「私が隠しているのは"マチダ様の人格が入った体"に関する情報です。王から秘匿命令が出されている事と個人的な理由の2点から一切話しておりません。」

「自分の体のことなんていつかバレるでしょ。」

「私が出されている命令は"秘匿"と"報告"です。聞かれても答えるな。マチダ様が何か気づけば報告。この2つです。マチダ様が個人的に気づき、バレてしまうことは問題ではありません。」


ハンナは最初は真顔で話していたものの、徐々にいつ泣き出してもおかしくない顔へと変わっていった。

ジャーは個人的にハンナとレントの関係に疑問を持ち、話を聞き始めただけだった。

たが、国の話になり、レントが死ぬか生きるかのレベルにまで発展した。

国王の考えてる事は分かったところでどうにかできる代物ではない。

ただの国民がこれ以上追求したところで無駄だ。


それよりジャーはハンナが漏らした一言が気になった。

ハンナは"個人的な理由"もあり、レントの体のことを秘匿していると言った。

理由が何個あろうと秘匿される事実は変わらないのだから、個人的な理由があることなんてわざわざ言う必要性が無い。

会話の中で自然と出た"言う必要性のない"言葉。

少しでも、現状の関係性を吐き出したくて出た言葉。

たとえ、話したところで無駄だとしても・・・。


「申し訳ありません。善し悪しに関わらず、ジャー様に話すような内容ではありませんでした。」

「いやー別にいいんだけどさぁ・・・。」

「私も酔っていたということで。」

「一滴も飲んでないじゃない。まぁいいわ・・・そういうことにしておく。」


後味が良くないまま、軟禁部屋での飲み会が終了した。

レントとハンナ、そこにルカを加えた3人は現状の関係性を維持したまま目標に到達することができるのだろうか。

これからも3人でうまくやっていくにはレントがさいたまズの失敗から後悔だけでなく、何かを学んでいる必要がある。

そんなことは露知らず、爆睡しているレントを横目にハンナは今日も一睡もせず座り続けた。

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