そして王太子は
この作品を手にとって(?)いただき本当にありがとうございます!
最後まで読んでくださると嬉しいです。
私はこの国の王太子だ。
「ギルバート殿下。おはようございます。」
「おはよう。今日も天気がいいね。」
私の婚約者、公爵令嬢、アメリアだ。
将来私の妻として手伝ってくれる予定の完璧な淑女である。
本当に頼もしい限りである。
その日の昼過ぎ。
なんとなく私は外に出た。
花壇の前に1人の令嬢がいた。
「そこで何をしているのかい。」
彼女は振り返ると慌ててカーテシーをする。
たしか子爵令嬢、デズリー・マリンズといったはずだ。
「王太子殿下。花を拝見していたのです。
私はこの花が育っていくのを見守るのが日々の楽しみなのでございます。」
普通に話しているようで少し声に嬉しそうなのが表れている。
それほど好きなのだろうか。
今どんな表情をしているのか少し気になった。
「顔を上げて。
ここでは僕も1人の生徒にすぎないんだから。」
そう。この学園では身分なんて関係ないのだ。
しかしどうしても下の身分の者は上の身分の者に気をつかってしまう。
実際にはカースト制度はあるのは仕方のないことだろう。
マリンズ子爵令嬢は恐る恐る顔をあげた。
そこには少し委縮したような表情しか残っていなかった。
___残念だな。
私は彼女の笑顔が見たくて毎日その時間に花壇に通うようになった。
花壇へ行くのがあたりまえになった頃、いつも見ていた昼顔の蕾が開いた。
「デズリー!咲いたよ!!」
「殿下!やっとですね!!」
そう言って笑った彼女の表情は貴族なんて関係ない、ひまわりのような自然な笑顔だった。
___やっと見れたな。
これで彼女と本当の友になれた気がする。
王太子である私にとって身分の関係ない友はめったにできない。
とても嬉しかった。
その日の帰り道。
私はいつものように婚約者と一緒に歩いていた。
「殿下。今日はいつもよりご機嫌ですね。」
「そうなんだ。少し嬉しいことがあったんだ。」
いつかアメリアに彼女の好きなコスモスの満開の花壇を見せたい。
今度デズリーと一緒に計画をたてよう。
アメリアは喜んでくれるだろうか。
私はそんなことを考えていたから大事な婚約者がその時どんな表情をしていたか見ることができなかった。
___もし気づいて気にかけてあげられればあんなことにはならなかったのかもしれない。
デズリーと計画を実行し、もう少しで花が咲く頃。
私達はデズ、ギル殿下と呼ぶほど仲が良くなっていた。
次は何を植えるかという話は終わることがない。
「あとちょっとか。早くアメリアに見せたいな。」
「またまたー。ギル殿下ったらアメリア様のことでそんなにのろけて。
私もアメリア様と話すことができるのが楽しみです。
アメリア様のこと、遠慮なく口説くので見捨てられないように頑張ってくださいね!」
私の前でよく笑うようになったデズは私のことをからかうようになった。
彼女は以前からアメリアに憧れていたが話す機会がなかったのだそうだ。
私としてもアメリアとデズに仲良くなってもらいたい。
アメリアは完璧な令嬢として一目置かれている存在だから気の置けない友はいないのだ。
デズなら王太子である私とこんなに仲良くなれたのだしアメリアの良い友になれるだろう。
「この様子なら開花に1週間もかからないでしょう。
ギル殿下は絶対に気づかせないようにしてくださいね!」
「ああ。まかせて!」
デズは信用なりませんね〜といいながらとても楽しそうに笑った。
その日の帰り道。
今日もアメリアと一緒だ。
「…最近殿下はよく嬉しそうな表情をされていますね。」
どうしよう。アメリアに計画がバレてしまう。
「えーっと。これはあれだよ。」
「あれとは?」
「その…。笑うのは健康に良いと聞いてね。
たくさん笑うようにしようと思ったんだ。」
我ながら苦しい言い訳である。
しかし彼女はただ「そうですか。」と言った。
よかった。バレなかった。
「ところで殿下。明日殿下のお部屋に伺ってもよろしいでしょうか?
少し話したいことがございます。」
「明日?全然構わないよ。
アメリアの好きな紅茶とケーキを用意しとくね!」
明日は学園に花壇を見に行こうと思っていたが予定を変更しよう。
デズにはつかいを出さなくては。
…後でさんざんからかわれるだろうが。
「…ありがとうございます。
それなら3時頃に伺いますね。」
「ああ。待っている。」
次の日。
「ギルバート殿下。突然の訪問お許しくださりありがとうございます。」
「ああ。アメリアが来てくれてすごい嬉しいよ。」
アメリアが来てくれるなんて油断すると頬が緩みすぎてしまいそうだ。
今日は昨日みたいに花壇のことでぼろを出さないようにしなくちゃ。
2人でのどかに紅茶を飲みながら談笑しているとアメリアがカチャリとフォークを置いて神妙な面持ちで切りだした。
「ギルバート殿下。お話があります。」
「ああ。昨日言っていたことか。」
何かあったのだろうか。
そろそろ愛称で呼びあう覚悟ができたとかなら嬉しいな。
学園の中等部に上がる前から言っていたのだが恥ずかしがって断られてしまったのだ。
覚悟ができるまで待ってほしい、と。
今は高等部だからあれから3年以上経ったことになる。
とりあえず部屋に2人きりにする。
「…婚約破棄させていただきたいのです。」
「えっ…。」
婚約破棄?こんやくはき?コンヤクハキ?
急に何を言っているのだろうか。
「殿下はいつも優しく、私のことをよく気づかってくれていました。
恐れながら私は!それは殿下が私のことを好いてくださっているのだと思っておりました。」
「そうだよ!その通りだよ!」
「しかし最近の殿下は本当に楽しそうで…。
私にあの楽しそうな笑みをあげることはできません。
デズリー・マリンズにしかできないのです!」
「違う!デズはそんなんじゃないんだ!」
「デズ…。そんな風に彼女のことを呼ぶのですね。
もういいのです。殿下を私から開放して差し上げます。
私にはそれしか殿下のためにしてあげられることはないのです。」
「お願い!話を聞いて。
違うんだ!全部話すから!!」
「私はやっと覚悟を決めることができたのです。
殿下。今まで本当にありがとうございました。
私は____アメリア・ビーンズは____ずっと殿下のことをお慕い申し上げておりました。」
「待って!!行かないで!!」
覚悟を決めた彼女に僕の声は届かない。
にこり、と微笑んでカーテシーを決め、部屋を出ようとする。
駄目だだめだダメダ
行かせないいかせないイカセナイ___
彼女の腕を掴み、強引に隣の僕の寝室に連れていく。
___アメリアの腕はこんな柔らかくて心地いいんだな。
その次の日。
デズリー・マリンズは花壇に向かっていた。
「今日学園に行く予定なかったのに…。
昨日ギル殿下が行けないって言うから…。」
口では嫌そうに言うがとても楽しみなのである。
花を見守るという趣味の共有できる友ができ、見守るだけでなく自分達で育てるようになってやりがいを感じていた。
花壇につくとピンクの花びらが散っていた。
「え、どうしたの?」
よく見ると1輪の花が咲き、散った後だった。
きっと鳥か犬かに散らされてしまったのだろう。
すっごく悲しいが仕方のないことだ。
___1輪なくなってもあまり支障はないだろう。
そう思い直して彼女は伸びをした。
もうすぐ満開になる。
そうしたらギル殿下やアメリア様と一緒に笑いあおう。
ピンクのコスモスの花言葉___それは「乙女の純潔」である。
お読みくださりありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
初めてなので至らない点も多くあったと思いますが、感想などで教えていただけると嬉しいです!
星を入れていただけると跳んで喜びます笑
ちなみに季節は春→夏→秋のイメージです。
今度アメリア目線で書けたらなーっと思ってます!