指切りげんまん、嘘ついたら…
それはよくある幼い口約束だった。
「おおきくなったら、ぼくとけっこんして」
「けっこん?」
「ずっといっしょにいよう、ってこと」
「わたしをまもってくれる?」
「うん、もちろん!
ぜったいにしあわせにするよ」
二人の小さな小指が絡まる。
可愛らしく微笑ましい約束だった。
少女は美しく成長し、男たちを魅了した。
小学校でお付き合いをしたのは、学年で一番足の速い子。
中学生でお付き合いをしたのは、サッカー部のエース兼部長の子。
高校生でお付き合いをしたのは、生徒会長の子。
大学生でお付き合いをしたのは、主席入学の子。
OLになってお付き合いをしたのは、青年実業家の人。
誰もが羨む相手と絶え間なく交際を重ねた。
しかし、結婚した相手は幼い頃約束を交わした男で、平凡な風貌のサラリーマン。
友人知人は口々に疑問を問いかける。
「なぜ、あの人と結婚したのか?」
美しい女は笑って言った。
「私をいつも守ってくれるから」
小学生の彼は、中学に上がってから部活に明け暮れた。一緒に過ごす時間が減って、彼女が寂しいと訴えても変わることはなかった。
そんな時、階段から落ちた。
中学生の彼は、口喧嘩がエスカレートして、彼女に手をあげた。
その後すぐに、車に轢かれた。
高校生の彼は、嫌がる彼女に性交渉を強要した。
次の日、乗っていたバイクのブレーキが効かなくなり、トラックに突っ込んだ。
大学生の彼は、彼女が希望した就職ではなく大学院への進路を選んだ。
そんな話をしたその日、電車のホームから落ちた。
実業家の彼は、結婚したら彼女に専業主婦になってほしいと願い出た。
彼女がそれを拒否した日、通り魔に刺されて死亡した。
犯人は捕まっていない。
美しい女の母は言う。
「お父さんにも貴女のウエディングドレス姿を見せたかったわ
あの日、ベランダから足を滑らせて落ちなければ…」
父である男はよく癇癪を起こしては幼かった女を殴っていた。
美しい女は悲しそうに眉尻を下げて「仕方ないわ」と呟くと母に背を向けた。
そうして微笑む。
「私は守られているのだから」