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ココエコ(相互作用の生態系)

 少々、田舎にある一軒家での話。

 その男がその家を買ったのはほんの気まぐれで、一生そこで暮らすつもりなど毛頭なかった。都会でばかり暮らしていたから、田舎の暮らしがどんなものかと経験がしてみたくなっただけ。まぁ、裕福な人間の道楽の一種みたいなものだ。

 実際に暮らしてみると、気に入らない点がたくさんあった。その内の一つを挙げるのなら、蚊が多い。それもそのはず、その家の庭には池があり、しかもほとんど男は手入れをしていなかった。当然、たくさんのボウフラが沸いて育って蚊になっていく。

 もちろん、男もそれに直ぐ気が付く。ボウフラを退治してしまえばいい、と男は殺虫剤をその池にまいた。その効果はテキメンで、直ぐに蚊は少なくなった。が、それは一時的な効果しかなかったのだった。直ぐにボウフラがまた湧き、蚊が発生する。

 池の水を抜いても、雨が降れば簡単に水はまた溜まってしまった。水があれば簡単にボウフラは発生する。池を埋めてしまおうかとも考えたが、仮の住まいでしかない場所にそれだけの金をかけるのも気が引けた。

 それで結局、男は部屋を締め切り、クーラーで夏を過ごすようになった。網戸では蚊の侵入を防ぎきれなかったからだ。

 それからちょっと経つと、男はその家を離れる事になった。ただし、資産としては保持しておきたいとも考えていたから、それを知り合いに貸す事にした。「蚊が多いけど、気にしないでくれ」と、かなり安めの家賃で。もちろん、管理してくれる事を期待したのだ。

 それから一年が経って、男はその家に帰ってきた。もっとも再び住むつもりはなく、様子を見に来ただけだ。しかし、そこである変化に気が付いた。

 蚊が少ない。

 男は当然、その事を管理を任せておいた知り合いに質問した。

 「一体、どうやったんだ?」

 池には小魚が放してあり、気持ち良さそうに泳いでいた。また、トンボが少し多めに飛んでもいた。この家でトンボを見かけた記憶が男にはなかった。

 変化といえばその程度だ。

 知り合いはこう返してきた。

 「魚を飼ってみたんだ。それと、トンボを捕まえてきてさ。居ついてくれるかどうかは分からなかったけど、そこの池で卵を産んでくれるようになったみたいだ」

 男には意味が分からない。

 「それがどうしたんだ?」

 知り合いは少し笑うと、こう答えた。

 「魚はボウフラを食べれくれるんだ。トンボは、幼虫の頃も成虫になってからも、蚊を食べる。

 まぁ、自然の生態系の仕組みを、有りのままに利用して、蚊の数を減らしたのだな」

 それを聞くと、男はなるほどとも思ったが、同時に軽い妬みも覚えた。それで、こうそれに返した。

 「でも、完全に減らせる訳じゃないだろう? その方法じゃ」

 殺虫剤で殺してしまう方がいいと暗に言いたかったのだ。ところが、知り合いはそれに対してこんな事を述べるのだった。

 「当たり前じゃないか。完全に蚊がいなくなったら、トンボもいなくなるよ。餌がなくなるのだから。すると、天敵がいなくなった事でまた蚊が繁殖するようになるんだ」

 カラカラと笑っている。

 「生きていく上で、ストレスはつきものだと思うよ。少しの蚊の存在くらい受け入れて、全体の調和を考えようじゃないか。

 人間だって、生態系の一員なのだから」

これは、農業における「総合的害虫防除」だとか、「導入天敵利用法」だとかの考えでもあります。学校の授業みたいで嫌ですかね(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] すんなりと読めました。 自然とどのように向き合うかは難しい問題ですね。
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