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第5-17話 ソードマン・エンジョイ・フリーティングピース

 ラケルが目を覚まして二週間が経過した。幸いなことにラケルの回復は順調に進み、もう一人で起き上がって行動できるようになった。一人で動き回れるようになったラケルは町中を一人で散歩し、体力の回復に努めている。


 その一方でもう一つアベル達の周りに大きな変化があった。それはリュティエルがよく姿を見せるようになったことであった。以前のアベルの告白が彼女に何かしらの変化を及ぼしたのか、ちょくちょく病院に姿を見せてはラケルの体力回復に付き合っていた。


 友人関係というものをあまり経験してこなかったせいか、たびたびたどたどしいところを見せていたリュティエルであったが、徐々に慣れを見せていき、同世代の女子そしてライーユの町では数少ない魔技使いとしてラケルとの生活を楽しんでいた。


 今日もアベル達のもとに姿を現したリュティエル。そんな彼女をラケルは快く迎え入れる。


「こんにちわー」


「いらっしゃーい、リュティエルちゃん!」


 病室に姿を見せたリュティエルに駆け寄り抱き着くラケル。いつもの光景になりつつあるそれに動じることなく受け入れたリュティエルはやんわりとラケルを引き剥がす。


「またいつもの?」


「うん、お願いしてもいい?」


 リュティエルたちの言ういつものとは風呂に浸かってから街の散策をするというものである。


 早速準備を済ませ風呂に向かう二人。それに便乗する形でアベルは温泉に浸かる。毎日入っても飽きない気持ちよさに身をほぐしたアベルは、飲み物の入った瓶を片手に二人が上がってくるのを待っていた。


 しばらく待っていると先にリュティエルが上がってくる。風呂上がりでより艶のある姿である。年頃の少女の姿にときめきを覚えてもおかしくないが、毎日のように見ていれば感動も薄れていくものである。


 アベルの姿を見つけたリュティエルは、歩み寄ってくると彼の隣に座り込んでくる。いつもは少し離れたところに座る彼女の珍しい行動にアベルは少なからず驚く。


「どうした? 珍しいこともあるもんだな」


「……この間さ。あなた、家族が食い殺されたって話したじゃない」


「ああ、したな。それがどうかしたか?」


「あなたは一人残されて、その……、死にたくなったりとかしなかったの?」


「まあ、最初のころはそりゃ思ったさ。なんで俺だけ生き残ったんだとか。家族のところに行きたいとか毎日のように考えてた。けど、オジサン……、親父の兄に引き取られて、仕事を手伝わされてそれどころじゃなくなったな。あの頃はふざけんなとか思ってたけど、今思うと思いやりだったんだろうな」


 アベルは言葉を続ける。


「それにいろいろ考えるうちに思ったんだよ。残された俺が勝手に折れて、何もできなくなったら、俺を必死で生き残らせようとした父さんたちが報われない。俺たちは親からしてみれば命を懸けてでも守りたいものなんだってことを知ってからは死にたいとかはどうでもよくなった、かな」


「そう……。強いわねほんとに」


 アベルは立ち上がると飲み物を買い、言葉を紡ぎながら彼女に手渡す。

 

「そんなことよりもお前、ロバートさんに何かしら言ってあげたのか?」


「…………まだ何も。踏ん切りがつかなくて」


 アベルから飲み物を受け取りながらリュティエルは言葉を濁らせる。


「どの面下げてってか? 向こうは多分そんなこと気にしてねえよ。プライドなんてかなぐり捨ててとっとと言っちまえよ」


「……うっさいわね。言われなくてもわかってるわよ」


 アベルに言われたことで溜め込んだ鬱憤を晴らすようにリュティエルは飲み物を容器の半分一気に流し込む。


「あ、ラケルちゃん。ラケルちゃんも飲む?」


「お願いします!」


 ちょうどその時、ラケルが上がってくる。アベルは彼女にも彼女にも飲み物を買って渡した。しばらくゆっくりと身体を落ち着けた三人は、浴場から離れ魔技の鍛錬をすべく町の外に繰り出していくのだった。






























 夕刻、太陽が地平編に沈みかかったころ、鍛錬を終えた三人は町に戻ってくる。


「それじゃあ、またね」


「おう、ロバートさんにちゃんと言ってやれよー」


 リュティエルはアベルとラケルに軽く頭を下げると背を向けてその場を去っていく。アベルの最後の言葉に苛立ちを覚えながらも彼女は背を向け歩いていく。


「はぁ……」


 一人町を歩くことになったリュティエルは小さく溜息を吐いた。楽しくなってきた最近の生活を思い返すと一人の時間が妙に辛く感じられる。以前は一人でいることに不安や苦痛など覚えることもなく、むしろ周りの人間が巻き込まれることがなければこれでいいとすら思っていたのに。アベルという神装使いがやってきてから生活が百八十度変化した。


「前はこんなことなかったのに……」


 寒くもないのに身体を震わせるリュティエル。しかし、彼女の意識はより良い方向に向かってきている。こんな彼女の状況を見ればロバートは泣いて喜ぶだろう。


「リュティエル! 偶然だな」


 そんな彼女の前にロバートが姿を現す。アベルからさんざん突っつかれたお礼を言うべき相手が目の前に現れたことでドキリとし身体を跳ねさせる。


「今日はいい肉をもらったからこいつを焼いて食うつもりなんだが……。お前も食うか?」


「……行く」


「本当か!? だったら早く帰って支度しないとな。お前と一緒に夕飯が食べられるなんていつぶりだろうな! それに肉だけじゃ寂しいし付け合わせも用意したほうがいいな……」


 娘と一緒に食事ができるという喜びで舞い上がりウキウキのロバート。子供の用に落ち着きのない様子を見せると家に早く帰ろうと動きを速める。


 そんな父に呆れた様子のリュティエル。だが、この機を逃すわけにはいかない。アベルにもせっつかれ、二週間たっぷり悩んだのだ。今言わずしていつ言うか。


「あ……、あのさ!」


「ん、どうした?」


 ありがとう。この一言を音として発するだけでいい。それだけで目の前ではしゃぐ男は恥も外聞もなく号泣して見せるだろう。しかし、たった五文字の言葉がどうしても出てこない。喉元まで出かかっているのにそれを言葉をして発することが出来ない。


 ――さあ、早く言え。プライドなんて捨てるんだろう!―― 


 頭の中でははこう思っていてもそれを身体が拒む。


「……なんでもない」


「……そうか。だったら早く帰ってご飯にしよう!」


 いい淀んだ彼女の様子で何かを感じたのか、ロバートは一瞬口を紡ぐが、すぐに切り替え先ほどのような騒がしさを取り戻す。


 そんな彼の様子でこの男はすぐには死なないだろうな。そう直感したリュティエル。また今度でもいいかなどと考えると、家に向かって歩く彼の後を追って歩き始めるのだった。


 

































 アベルたちがライーユの町でリュティエルと交流するしていたその一方、サリバンたち冒険者チームはなんやかんやでライーユの一歩手前の町であるスートの町に辿り着いた。


「やっと着いた……」


「もー疲れた! 休ませてくんないともう絶対動かないからね!」


 疲労困憊の雰囲気を纏う彼ら。ほとんど休む暇もなくスートに向かって進み続けたことでナリスたちの疲労はマックス。とうとう不満が爆発した。ナリスが不満をぶちまける。


 確かにこれ以上自分の我儘に付き合わせるのは酷だと判断したサリバンは今日一日は完全休養日にすることに決定する。まだ太陽がてっぺんに上る前、休む時間はたっぷりと取れる。


 そのことを伝えると部下たちは各々歓喜の表情を見せ町中に散らばっていった。残されたのはサリバンとミコトの二人。


「さてじゃあ俺も……」


「お供します」


 ミコトを同行させ、ライーユの向かうための準備をすることにしたサリバン。そのために一歩踏み出したその直後、彼はすれ違った人物に向かって振り返り、睨むような視線を向けた。


「どうしました?」


「いや、さっきの少年。なんだか妙な感じがしてな。気のせいだったらいいんだがな……」


尾行(つけ)ますか?」


「いや、やめておいた方がいい。何か嫌な予感がする」


 尾行を提案したミコトを静止するサリバン。ローブを着込み、顔を隠した男を睨みつけている。男を見たその瞬間、言いようもないまとわりつくような嫌なものを感じたサリバンであったが、だからと言ってどうすることもできない。


 小さな違和感を覚えながらもサリバンはそれ以上の追及をすることなくスートの町を進み始めるのだった。


 その一方でサリバンの存在に気が付いていたラスター。彼が歩き始めた直後を狙ったように振り返ると彼に一瞥くれた。


「あいつは今話題の冒険者……。だが、所詮一流程度。支障はないな」


 ポツリと呟いた彼は思考の片隅に留める程度に収めて歩みを弛めず、大通りを堂々と進む。


 二週間が経過し、彼はライーユの町を守る結界の解析を終了させていた。あとは乗り込むだけというところで大地信教団から送られてくるという援軍と顔を合わせるためにわざわざこの街に戻ってきていた。


 指定された人目のつかない裏路地にやってきたラスター。しかし、時間通りに来たというのにそれらしい人物はいない。しばらく待っていると十分ほど遅れて彼の前に一人の少年が姿を現す。


「やっと来たか……」


「なんだ俺よりもガキじゃねえか。いやあ、すいませんね。くだらないトラブルに巻き込まれてその処理、に、追われ、て……」


 ラスターの前に姿を現したクォス。あえてヘラヘラと気分を逆撫でするような口調でラスターの前に姿を現した彼であったが、彼の姿を見た途端、言葉が尻つぼみになっていき、腰の破神装を引き抜き戦闘態勢に入る。


「貴様ァ! どういうつもりだ!」


「どういう、とは?」


「俺は上層部の指示を受けてここに来た! そこになぜ貴様のような神装使いがいる!」


 鬼気迫る表情を浮かべるクォスに対してラスターは無表情で一切表情を変えようとしない。無表情のまま、クォスに視線を向けたラスターはゆっくりと口を開く。


「それはあれだな。上層部と俺がつながっている、というより上層部の指示は俺が出している指示だからだ。もはや奴らに何かを考える頭はない。すべて俺の言いなりだよ」


「貴様ァァァァ!!!」


 地獄の底から響くような怒声を上げ剣を振りかぶるクォス。それに対して先制攻撃だと言わんばかりにラスターは指を突き出し、詠唱もなしに魔技で水を発生させ打ち出した。


 不意を突かれたクォスであったがさすがに破神装使いとして選ばれているだけのことはある。振りかぶった剣を咄嗟に降ろし防御する。


「フン、その程度でこの俺が倒せッ、るとでも」


 規模の小さい攻撃を仕掛けてきたラスターに対して啖呵を切ろうとするクォス。しかし、その途中言葉に詰まり、紡ぎ終わるころには自身の異変に気が付く。


「な、なんだと……。さっき弾いたはずの水が……」


 胸元に視線を落とすと彼の胸からは針となった水が突き抜けていた。水の針に徐々に血の赤色が混じっていき、口元から血が溢れていく。苦痛に悶えながらもクォスは必死でラスターを睨みつけた。


 しかし、クォスを見る彼の目は何の感情もない。まるで道端の石ころを見るかのようであり、情動というものが何も感じられなかった。


「貴様なんかとは練度も積み上げてきた経験も違う。わかったらとっとと消えろ」


 ラスターが少し手を動かすと彼を貫いていた水が身体の中に侵入し、次の瞬間クォスが白目を剥いて地面に倒れた。彼の頭の中は侵入した水でスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃにされてしまっていた。


 アベルが苦戦したクォスを一歩も動かないまま殺害したラスター。彼はローブの中に収納していた自身の持つ杖を取り出すと、万年筆のような形をした石突部分をラスターに向ける。そして小さく石突を文字でも書くように動かした。


 すると、クォスの身体が一瞬にして消失した。まるで最初からそこになかったかのように消えてしまったクォスの肉体。その場に残されたのは彼の持っていた破神装だけであった。


 しかし、ラスターはそれに対して何の感情も持たず、歩き出すとクォスの破神装を手に取り何かお札のようなものを張って杖と同じようにローブの中に仕舞い込んだ。


 援軍を消してしまったラスター。しかし、何の問題もない。そう言わんばかりに堂々とした立ち振る舞いを見せる彼はローブの裾を翻すと裏路地から立ち去るのだった。


 準備は整った。平和だったライーユの町に悲劇が訪れるまであと少しである。






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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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