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第5-15話 ポイズンドガール・ファイナリー・ウェイクアップ

 魔獣騒動の翌日、アベルがライーユの町のやってきてから三日が経った。


 やっと病状が回復したラケルが目を覚まし活動を再会した。まだまだ全快には程遠いがまともに起きられるようになっただけでも感動ものである。 


「アベルさん、改めてありがとうございました」


 言葉を紡ぎながら身体を起こそうとするラケル。しかし、消耗した身体では一人で身体を起こすのも難しい。アベルに手を借りながらゆっくりと身体を起こす。


「いやぁよかったよ。特に後遺症みたいなのもなさそうでさ」


「まだ身体はすこしだるいですけど、手足に痺れとかはありませんし体力が回復すれば起き上がれるようになると思います」


 彼女が目覚めたことでどことなくテンション高めのアベル。そんな彼に笑みを向けながらラケルは言葉を紡ぐ。


 そんな二人の空間にガチャっという言葉とともにミランダが部屋に入ってくる。


「起きたか。会話もできるくらい回復したようで何よりだわ」


 見覚えのない人物が入ってきたことで首を傾げるラケル。アベルの口から町長兼治療をしてくれた医者であることを聞くと、少々慌てた様子で頭を下げた。


「わわっ、すみません! 私ラケル・ヘルブミアです。今回は私のことを治してくれてありがとうございます」


「気にしなくてもいいわ。すごいのは私じゃなくて泉の水よ。私は適切な方法で処置をしただけ。お礼はここまで命がけで連れてきてくれた彼に言うことね」


 ラケルの言葉に笑みを浮かべながら答えたミランダ。アベルのほうに視線を向けながら語り掛けると、ラケルは改めてアベルのほうに視線を向けた。


「ところで目覚めて早々で申し訳ないんだけど、あなたには風呂に入ってもらうわ」


「へっ? お風呂、ですか?」


「そう。この街のことは彼から聞いてないかしら?」


「ああ、起きたばっかりなのでまだ教えなくていいかなと思って」


 アベルにまだライーユのことを教えてもらっていないことを知ったミランダはラケルに簡潔にライーユのことを教えていく。


「へぇ、そうなんですか……」


「君の身体はまだ弱っている状態だからね。だからこの町自慢の風呂に入ってもらって肉体の回復を早めるというわけ。ベットの上でじっと天井を眺める生活は短い方がいいでしょう?」


「わかりました。それじゃあお願いします」


 ミランダの言葉を聞き、疑問を解決したラケルは風呂に入ることを了承する。


「それじゃあ浴場施設まで行きましょう。水の特殊性で一か所で管理しててね。病院じゃ入れないのよ。それじゃアベル君、彼女を運んでもらえるかしら?」


「わかりました」


 ミランダに言われ、ラケルの身体を持ち上げるアベル。体重が落ちたことで軽くなった彼女の身体を持ち上げるのは難しくない。易々と彼女の身体を持ち上げ、おぶり上げる。


 病院を後にし、浴場に向かう三人。その道中、ラケルがアベルの耳元でささやく。


「そういえばアベルさんは大丈夫だったんですか?」


「何のこと?」


「この街に来る途中で誰かに襲われたみたいだったので……」


「あー、やっぱり起こしちゃったよね……。ごめんね?」


「そうじゃなくて。アベルさんは大丈夫だったんですか?」


「俺は大丈夫だったよ。何とか逃げられたから」


 殺されかけたという事実を伏せたまま、アベルは説明する。


「……そうですか。ならよかったです」


 それを聞き、ラケルはどこか不満そうにしながらも一応納得の意思を見せる。意識が朧気で、どんなことがあったかは分からないとしても、アベルがどんな目に合ったかは付き合いの濃密さで大体分かる。その結果、彼は嘘をついた。心配すらさせてくれないのかと不満で彼女は小さく頬を膨らませた。


 しかし、彼女は同時にこうも思っていた。彼が大丈夫だと言い張っているのは自分に心労を与えないためなのだと。今の彼女に余計な心労は身体によくない。それを分かっていて何も言わないのだと。


 それに彼は毒に侵されて死にそうになっていた自分を命がけで助けてくれた。そんな彼に不満を漏らすのは感謝に泥を塗るような行為である。わざわざ言葉にする必要は無い。


 感謝を伝えるためにラケルはアベルの首元に回した腕の力を強め、力強くアベルのことを抱きしめるのだった。頬を膨らませていた彼女の顔は穏やかなものに変貌している。


 そんな彼女に気づいていながらもアベルは何も言わなかった。人肌恋しい時だって人にはあるだろう程度にしか考えていなかった。アベルにとって彼女を救うのは義務のような物。感謝されるほどのことではないのだ。


 周囲に漂うどこかしんみりとした空気を変えるため、アベルは話題転換のための言葉を紡ぐ。


「そういえば後でいろいろと話しておかないといけないことがあるんだ。あとで時間もらっていいかな?」


「もちろんですよ。ベットの上なんて暇でしょうがないんですから」


「だったら、ラケルちゃんが眠ってた間の事、起きてる間ずっと話しててあげるよ。何度でも、案切るまでね」


「割って入るようで申し訳ないけど、病人に無理をさせるんじゃないわよ。ほどほどにね」


 雑談をしながら浴場に向かう三人。しばらく歩いてようやく到着した。アベルとしては二度目のそこは懐かしさを覚えながらも真新しく感じる。


 さっさと中に入っていき、ミランダの先導で奥に進んでいくと、辿り着いた先には一人用の湯舟が設置された一人用の個室の浴場であった。既に湯気の立っているお湯が張られており、そのせいで肌にまとわりつくような湿気が付く。


 浴室に足を踏み入れた三人。清潔感ある浴室に入れてもらえれば満足だろうと思い、アベルはラケルを下ろして浴室から出ようとする。


「じゃああとは任せるよ」


 しかし、ミランダはアベルのそんな行動を阻止する。彼女の言葉にアベルは驚きを隠せず目を剥き、動揺で身体を震わせる。


「ハァッ!? 俺が入れるんですか?」


「そのつもりだけど? 私も忙しくてね。患者一人に構いきりというのは出来ないのよ」


「いやいやダメでしょ! 嘘でも俺は男ですよ!?」


「別にいいじゃない。目隠しするなりそっぽ剥くなりすれば。それに二人で旅するくらいなんだからそういう関係なんでしょ?」


「そーいう関係じゃないから困るんですよ!」


「だったら何? 病人で目覚めたばっかりに女の子に手出すつもりかしら? 鬼畜ね」


「そんなことするわけないでしょう!」


「だったらいいじゃない」


 激論の末、言い負かされてしまったアベルは、ぐっと言い淀む。だがここで折れるわけにはいかない。何とか代理を立ててもらうため策を練ろうとする。


 だが、そんな彼の思考を耳元でささやかれた声が妨げる。


「……私は別に構わないです」


「んんっ!?」


「あら、だったらもう私は行くわね? 仲良くねー」


 アベルの混乱も他所に二人の間で決まってしまい、ミランダは浴室から姿を消す。混乱で動けないアベルが彼女の後を追おうと立ち上がった時には彼女の姿を見えないところに消えていた。


 浴室に残されてしまった二人。ここで彼女を放り出して代わりを探しに行くのも彼女を風呂に入れずにこのまま帰ってしまうのも人としてどうだろうか。もはや彼に逃げ場はない。


「……ハァ」


 ため息をつき、覚悟を決めた彼は懐から籠手から適当な布を取り出すとそれを目元で縛り、完全に視界をふさぐ。これでもう彼の瞳には何も映らない。


「お風呂、入れるね」


「はい、よろしくお願いします」


 ラケルの入浴時間が始まった。
































「ふぅ……、気持ちいいですね……」


 湯舟に浸かり蕩けた声を漏らすラケル。


 服を脱がせるところから始まったラケルの入浴時間。まったくもって何も起こることなく入浴は進み、ラケルは湯舟の中で全身のほぐす湯の感触を楽しんでいた。


「そういえばアベルさん。何か話したいことがあるって言ってましたけど?」


「ああ、そうだったね。じゃあ今のうちに話しておこっか」


 彼女が切り出したことで話す機会を得たアベルは早速以前、ギルディから聞いた彼女の故郷のことを話し始める。話し始めると、最初の方はラケルは珍しく嫌悪感を表情で表していたが、次第にその表情も柔らかくなっていき冷静さを取り戻したものへと変化していった。


「そう、ですか……」


 少し思いつめたような表情を浮かべながらもアベルの話に納得したような様子を見せるラケル。


「ごめんね、病み上がりでこんな話しちゃって」


 そんな彼女の様子を見て謝罪するアベル。やはり病み上がりの彼女にこんな話をするべきではなかっただろうかと後悔していると彼女がさらに口を開いた。


「いいんです、別に。もう他人みたいなものですから」


 ずいぶんと冷たい言葉を呟くラケル。


「まあ、あの人たちが厳しい生活を強いられていたのはあの人たちが賢くなかっただけですから。それにもう会うこともないでしょうし、気になりもしません。大体、自分たちの生活が苦しいからって女のことを売るってどうかしてますよね。自分たちで行動も起こさないでお金がないって今思えば大人のする行動じゃないですよね」


 ハハハと乾いた笑いを上げながら、堰を切ったように続々と、それでいて淡々とラケルは言葉を紡ぐ。やはり何か思うことがあるらしい。それも当然だろう。いくら裏切られたとはいえ、彼女にとっては残されたたった一人の母親なのだから。


 声が水分で淀み始めたタイミングでアベルは彼女に近づいていき、彼女の頭に手を置いた。アベルの手に伝わってくる彼女の振動。見ることは出来ないが、彼女は昔のことを思い出し、怒りや悲しみ、恐怖など様々な感情で震えていた。


 アベルの手で安心感を覚えたラケルは、押し殺していた恐怖が溢れたようにさめざめと静かに泣き始める。湯舟に涙が落ち、雫が波紋を呼ぶ。


 しかし、ある程度泣いたところで彼女は泣き止み、普段のような明るい様子に戻る。


「でも、あの人たちが普通に生きてるみたいでよかったですよ。嘘でも知ってる人が死んじゃったら気持ちよく寝られないですからね」


 いつもの明るい様子に戻った彼女を見て、アベルはホッと肩を撫で下ろす。するとラケルが湯舟のふちに手をかけるとアベルに声をかける。


「ねえアベルさん。少し耳を貸してもらってもいいですか」


「ん? はいはい」


 猫なで声のような高い声を上げるラケルに少々違和感を覚えながらもアベルはラケルに顔を近づける。ラケルは湯舟のふちにかけた手とは逆の手を首に手を回しアベルの耳に口元を近づける。そのまま耳元でささやくのだろうかと思った次の瞬間のことだった。 


 耳元にまっすぐに進んでいた彼女の口元がいきなり方向転換し、アベルの方に向かうと彼女の唇が水音を立てながら頬に触れた。


 ラケルに頬にキスされたという事実にアベルが理解できないでいると、再びラケルの唇がアベルの耳に近づいていき、小さく囁いた。


「熱くなってきちゃったので、お風呂から上げてもらってもいいですか?」


 二ヘラと恥ずかしそうに笑みを浮かべながら囁いたラケル。しかし、キスをされたという事実を受け入れるのに精いっぱいのアベルはそのことを気にすることもできないまま、彼女の願いを聞き入れ止まった思考のまま彼女を湯舟から引き揚げ、病院に戻っていくのだった。




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