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第5-14話 ガールズシークレット・ビギントゥ・リヴェール

 裏にある思惑も知らず、魔獣を討伐してしまったアベル。彼はそばで身を潜めていたロバートたちの下へ向かう。傷ついたロバートが傷一つないリュティエルの様子を心配そうにしている。


「二人とも、大丈夫ですか?」


「ああ、この子は傷一つないし私はかすり傷程度だよ」


 アベルの問いにロバートは小さく笑みを浮かべながら答える。彼の言葉通り命に係わる怪我はないらしい。二人の元気そうな様子を見てほっと息をつくアベル。


「ところでよく都合のいいタイミングでこんなところにいたね? それにリュティエルもなんでこんなところにいるんだ」


 落ち着いたところでロバートは首を傾げなぜ二人がこんなところにいるのかを問いかける。


「いや、リュティエルのことを追いかけてきてここに来たんですよ。こんな言い方じゃなんですけど来ようと思ってきたわけじゃないんです」


 アベルの口から放たれた真実にリュティエルは目を逸らし、ロバートの手を振り払い立ち上がる。そのまま二人の静止を聞くこともなく、彼女はどこかに歩いて行ってしまったのだった。


「あいつ、またなのか……」


「また?」


 ロバートの呟きにアベルが反応を見せる。すると彼は一拍おいて話始める。


「前にもこんなことがあってね。大人が気付かないようなところで溺れていた子供をあの子が助けたり、火事になりそうになっていたのをあの子が消していたり。色々な危ないところにあの子がいることが多くてね。まあ、そのおかげで何か大きな惨事が起こっていないからいいのだろうけど。あの子が危ないところに行くのはあまりいい気分じゃないしね」


 ロバートは眉間に皺を寄せながら語り続ける。その言葉を先ほどの行動で彼女に何かを感じ取ったアベル。しかし、まずはこの事態の後始末をしなければならない。


「ともかくまずはロバートさんは治療を。掠り傷とか言ってましたけど決して浅い傷じゃないですからね」


「いやいや、そんなこと……。イテテテテ、も、もうちょっと優しくしてほしいな」


 アベルが少々乱暴に座り込むロバートの手を引くと、彼は腕を抑え痛そうな声を上げる。ほれみろと思いながらもアベルは彼に肩を貸しながら立ち上がらせ、町のほうに歩いていくのだった。


 その後、魔獣襲撃騒動の後始末を終え、日の沈んだ町の外れをブラブラと歩き回るアベル。目的もなくただ歩き回っているだけ、というわけではない。ちゃんとした目的があって町を歩いていた。


 しかし、その目的のものがいくら町を歩いても見つからない。


「こりゃ町の外かな。だけど町の外だと範囲が広すぎる気がするな。……けど、一応行ってみるか」


 後頭部を掻きながら、呟いたアベルは町の外に向かって歩き始める。一応、行きそうなところのめぼしもあるし、目印になるものもあるにはある。見つけるのは不可能ではないだろう。


 そう考えて町の外に出たアベル。真っ暗な闇に包まれた森の中を探すのは一苦労だろう。しかし、それでも彼は森に一歩踏み出すと、森の中を進み始めるのだった。





























 一方で町の外、人目に付かない茂みの中でじっと膝を抱え込んで座っているリュティエルは昼間の父の出来事を思い出していた。


 助かったのはどう考えてもいいとして、なぜあの男がついてきていたのだろうか。まさか、自分の特殊な力のことがバレたのだろうか。


 いや、それならまだいい。最悪なのは特殊な力から彼女が破神装の依り代としての資格を持っていると推測され、大地信教団の連中が捕まえに来ることだった。神装使いが大地信教団と手を組むというのは考えにくいが、それでもないとは言い切れない。


 もしそうなれば、この街で暮らしている人々が戦いに巻き込まれることになる。それは避けなければならない。父に行って町を離れたほうがいいかもしれない。けどあの父親がそれを許すだろうか。けれど逃げなければ関係の無い人間が巻き込まれることになりかねない。


 リュティエルの頭の中で悪い考えがぐるぐると回っては消えていく。その思考の大回転に振り回されるように彼女の身体も小さく揺れていく。まるで地面が波打っているかのような感触に気持ち悪さを覚えながらもリュティエルは思考を巡らせる。


 思考に集中してしまっていた彼女は、周りが見えておらず周囲の変化に気づくことが出来ずにいた。彼女の背後には大柄な人影が仁王立ちしていた。


「こんな暗い時間に一人でいるのは良くねえな?」


 突如として背後から響いた声に驚いたリュティエルは身体を跳ねらせるとともに背後の人物から距離を取ろうと跳ね跳ぶ。


「おう、何もしないよ。ただちょっと聞きたいことがあったから来ただけだよ。何なら土産もあるぜ。腹減ってないか?」


 両手を上げて無実を表現したアベルは籠手から瓶に入った牛乳とサンドイッチを取り出した。彼の行動に警戒心を見せるリュティエル。彼の施しを受けるものかと威嚇混じりに声を上げる。


「ふん、ふざけないで。ちょっと助けられたからって尻尾振って懐くとでも思ってんの?」


「でも多分腹減ってるだろ?」


「お腹なんか空いて


 グゥ~


 ……ないわよ」


 ただし、身体は正直である。静寂に包まれた森の中に響き渡る低音。その発信源であるリュティエルは顔を耳の先まで真っ赤に染めて子犬のように振るえていた。人に聞こえるほどの大音量で響いたということはよほど腹が減っていたに違いない。


 そんな彼女の姿を見て、腹が減っていないと思えるのはよほどのノータリンだけである。アベルは警戒させない様にゆっくりと近づくとサンドイッチと牛乳を差し出す。


「ほら、食いな」


 恥ずかしさで顔を赤くして俯いていたリュティエルだったが、しばらくすると受け取る気になったのか、アベルの手からもぎ取るようにして受け取り食べ始めた。チラチラとこちらの動向を見ながら食べる彼女の姿にやはり子犬の姿を幻視したアベル。彼も彼女のそばで同じように食べ始めた。


 食べながら口を開き、勝手に話始めるアベル。

 

「お前、魔技使えるんだな。誰に教えてもらったんだ? ロバートさんか?」


「……」


「俺もさ、魔技を教えてもらったんだけどこれがなかなか難しくて。まだ拳大の炎くらいしか出せないんだよ。そういう点ではラケルちゃんのほうが上かな」

 

「……」


 リュティエルの返答もなしに一方的に話し続けるアベル。リュティエルはそんな彼の話を聞き表情には出さないもののアベルの話を楽しんでいた。ロバートとはいつも話している影響で物珍しい話なんて聞くことが出来ないし、他の人間とは大して関わらない。そのせいで人からこういった話を聞くことの無い彼女は彼の話に思わず耳を傾けてしまっていた。


 アベルは適当な雑談でお茶を濁していた。食べ始めてしばらく経ち、半分ほどが減ったところで彼が口を開き、今回彼女のもとにやってきた本題を問いかける。


「お前さ」


「……なによ」


「ロバートさんが魔獣に襲われるの、知ってただろ?」


「……」


 アベルの率直な物言いに口を紡ぐリュティエル。それに気づきながらアベルは言葉を続ける。


「いや、別に言いたくないなら別にいいんだよ。けどもし教えてくれるんだったら何か力になれるかもしれんからさ。それに年もそれなりに近いし、ロバートさんに話すよりも多少話しやすいだろ」


「……」


 サンドイッチにかぶりついた体勢のまま、リュティエルは固まりアベルを見つめながら思考を巡らせる。


 二度も助けてくれて、ここまで言ってくれる。それに朝食の時に父から聞いたアベルの話で、彼が善人であることが分かる。彼になら話してもいいかもしれない。


 だが、彼の疑いをまだ晴らせたわけではないのだ。まだ、秘密を話すことが出来るほど信用はできない。


「……まだあんたの事信用できてないんだから、親にも話せないようなこと話せるわけないでしょ」


「一人で大丈夫か?」


「敵かどうかもわかんないのについてきてほしいなんて思うと思う?」


 リュティエルは指先を舐めながら立ち上がるとアベルに背を向ける。


「……ご馳走様」


 そして背を向けたまま、一言礼を言った彼女は再び森の中を歩き始めた。


「気を付けろよー」


 しかし、一人で森の中を歩こうとする彼女のことをアベルは無理に追わなかった。人には誰にも構ってほしくない時間というものがある。恐らく今の彼女がその時間なのだと判断したアベルは、彼女の気に触れないように追いかけなかった。


 彼女の信頼を勝ち取るためにも下手なタイミングで迫るわけにはいかなかった。


「ま、あんなことがあった後だし、危ないと感じたら自分でどうにかできるだろ」


 夜の闇に消えていくリュティエルの背中を見送ったアベルは町に戻っていくのだった。































「あークソ! なんじゃこの道は!? これじゃどっちに行けばいいかわかんねえじゃねえか!」


 四日ほど駆け足で進み、アベルも同じように悩んだ分かれ道に到着したサリバン一行。誰しもが一度は陥るトラップに彼らは頭を悩ませていた。


「どうすんだリーダー。下手に間違えると時間を大幅にロスすることになるぞ」


 苦言を呈するレオの言葉に耳を傾けながら、思考を巡らせるサリバン。果たしてアベルはどちらに進んだのか、必死に推理しようとするがそんなものわかったものではない。すぐに思考のどん詰まりに行きつく。


「早く町まで行ってゆっくりベットで寝たいよー」


 不満を漏らす仲間たち。しばらく彼らの声に耳を傾けていると斥候として道の先を確認しに行っていたミコトが戻ってくる。


「リーダー、道の先にはどちらも町がある模様。正直、それだけではどちらに進めばいいかというのは判別がつけられませぬ」


「うーん。それじゃもう山勘張って進むしかねえか……」


 彼女の報告でもうどうしようもないことをはっきりと認識したサリバン。そんな彼にミコトが追加の情報を渡す。


「それもう一つ気になることが。分かれ道の間の森の中に、何やら民家のようなものが立っているようなのです」


「こんなところにか? 妙だな……」


「調べますか?」


「俺たち二人で軽く調べてみるか。お前ら三人は先にどっちかに行っててくれ。俺たちはミコトのいう民家とやらを調べてから行く」


「了解だ。それじゃあ左の道の先の町で待っている」


 二手に分かれたサリバンのパーティ。しばらく森の中を進み、その中に立っているという民家に辿り着いた二人は、早速違和感を感じ取る。


「明らかに使われた形跡があるな。こんな森の中にたった一軒で」


「ですが、使われた形跡があるだけで人はいないようです。おまけに建物の中はコケや埃で荒れ放題です」


「よくわかんねえなぁ……。こんなところに建てるってことは目につきたくない奴が建てたってことだろうが……。もし、ここでなにかあぶねえことをしてるんだったら俺たちだけでどうこうするのは無理だろうな。とりあえずいったん引き返してあいつらと合流、その後どうするか考えるぞ」


「了解しました」

 

 この場所を自分たちだけで詳しく探索するのを、危険だと判断したサリバンは撤退の結論を出し、建物から去っていくのだった。





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