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第5-11話 ソードマン・ノウズ・ガールズパスト

 ラケルの容態を確認して病院を後にしたアベル。彼はロバートの提案に乗り、男同士一杯酌み交わすことになった。


 早速酒の飲める店を探そうとするアベル。しかし、ロバートはそんな彼の姿を見て呆れたように口角を上げながら首を振った。


「ダメだよ~、アベル君。そんなんじゃここでうまい酒は飲めないよ」


「え、でも酒を飲むんだったらまず店を……」


「店なんて私がいくらでも教えてあげるよ。そんなことよりもやることがあるだろう」


「酒飲む前にやること?」


 アベルがロバートに問いかけると、彼は鼻を鳴らしながら笑いアベルにそのことを教えるのだった。


「まずはひとっ風呂浴びるのさ。熱い湯に浸かって気持ちよく汗を流して、キンキンに冷やされた酒を流し込むのが一番おいしいのさ」


 ロバートの落語のような仰々しい動き付きの説明を聞き、アベルはその光景を想像し、喉を鳴らす。酒の味を知っているアベルに、その快楽を想像するには難くない。聞けば聞くほどそうしたほうがいいと思えてくる。


「い、いいですねそれ……」


「だろう? 早速入りに行こうじゃないか! 足湯よりももっと気持ちいいぞ!」


「行きましょう行きましょう! デカい風呂、入りたかったんですよ!」


 ロバートの提案に歓喜の声を上げたアベルは、彼の提案を即座に了承し笑顔を浮かべる。湯から上がった後の酒の味でテンションの上がっている男たちは早速大浴場に繰り出していくのだった。



































「あー……、たまんないですね……」


「そうだろう? この後冷たいのをキュッとやるのがたまらないのさ」


 大浴場のお湯を満喫したアベルはその余韻に酔いしれ恍惚とした表情を浮かべていた。今までに様々な快楽を味わってきたが、このような快感は初めてだった。


 この後の酒はどれほどの旨さなのか、想像して口に唾を溜めるアベル。そう考えるアベルは、ふと身体の異変に気が付く。


「なんかすごい身体の調子がいい気がすんな……。全身すっきりして軽い」


「それがここの名物だからね。町の外れの森にある泉の水を引っ張ってきて、それを水で薄めて浄化、温めて風呂として営業しているんだよ」


「なんで薄めるんですか?」


「泉の水はそもそも量が少ないんだ。一年で樽三個分になるかならないかってくらいらしい。それにそのまま使うと効果が強すぎて身体に悪影響なんだって」


「なるほど……」


 泉の水とライーユが湯治の町として栄えてきた因果関係を理解し、アベルは首を縦に振る。


「まあ、町長曰く、泉から湧いてる水も()()()()()()()()()()らしいんだけど。私はよく知らないや。そんなことよりも冷めないうちにやっちゃおう!」


「そうですね! 行きましょう!」


 泉の話もそこそこ二人は酒場に向かう。ロバートの行きつけという酒場に辿り着いた二人は早速酒を頼み、届いたジョッキを手に持った。


「それじゃあ、今日という日に感謝して……」


「「カンパーイ!!!」」


 手短かに乾杯の音頭を取った二人は早速ジョッキに口をつけた。川の水のように冷やされたそれを喉に流し込んでいくと彼の脳は言葉に言い表すことのできない快感に満ちていく。


「……ッ、カァァァー! たまんないっスね!」


「これがこの町の酒の飲み方だよ! さあ、ジャンジャン行こうか!」


「喜んでッ!」


 酒の魔力でテンションがおかしくなりつつあるアベル。ロバートに誘われるがまま、ジャンジャン酒を飲み続ける。周りが心配になるペースで酒を煽る二人。昼から酒を飲んでいるという背徳感がさらにそれを加速させる。


 酔いが回っていくにつれて、思考が鈍っていき、お互いのガードも緩くなっていく。最初こそ真面目なアベルの冒険の話などをしていたのだが、徐々に下世話な話へとシフトしていく。


「アベル君はさァ。あの女の子とどんな関係なのさ!?」


「えー、ラケルちゃんとですか? うーん、一緒に旅する仲間って感じですかねぇ?」


「えー、つまらん。もっと男女の仲とかそういうの聞きたかったなぁ!」


「しょうがないじゃないですか。そういうことはなかったんですから」


 ロバートはアベルの答えに不満そうな声を漏らす。しかし、彼は止まらない。どんどん踏み込んでいく。


「で、実際どうなのよ」


「何がですか?」


「男女のあれこれってやつよ。二人で旅してるんだし。何かしらはあったんじゃないの?」


「んー……。特には何も……。なかったですねぇ」

 

「えー、ホントォ? アベル君金玉ついてるの?」


 ラケルに一度も手を出していないとのたまうアベルに対して辛辣な評価を下すロバート。そんな彼の評価を聞き、アベルは少々ムッとする。軽く言い返す。


「別にラケルちゃんと俺は、対価を求める関係としてやってるわけじゃないんですからこれでいいんですよ。向こうの同意もなしに手を出すほど俺はクズじゃありません」


 そんなアベルに対してさらに言葉を続けるロバート。酒の影響はどんどん遠慮が無くなる。


「でもあんなかわいい子に手を出さないのは男としてダメだと思うよ。それに向こうもなんやかんやで君に手を出されてもいいと思ってるかもよ……」


「えー、そんなことないですよ」


 ロバートの言葉をはぐらかすアベル。


「でも可愛いとは?」


「思うでしょそりゃ。あの子がかわいくなかったらそれこそ金玉腐ってるでしょう。でもそれと手を出すかは全く話が違うでしょう?」


「まあそれも……、そうかぁ?」


 アベルの答えに正当性を見出しそうになったロバートだが、やはり何か思うところがあるらしい。これ以上話を続けると面倒なことになりかねないと思ったアベルは、別の話に切り替えることにした。


「そういえばあの子なんて言いましたっけ……。そうそう、リュティエルちゃん。あの子とロバートさんってどういう関係なんですか?」


「ん? どうしてだい?」


 アベルがその問いを投げた瞬間、ロバートの眼光が鋭くなり周囲の気温が若干下がった気がした。どうやらあまり踏まれたくないことだったらしい。しかし、酒の効力で判断力が落ち、大胆になっているアベルは全く止まるところを知らない。むしろ先ほどの仕返し程度に考えている。


 ロバートに問われ返したアベルは言葉を続ける。


「いやぁ、最初に名前を教えてもらったとき、保護者なんて遠回しな言い方したじゃないですか。なんで父親だとか言わなかったのかなって」


 さらなる酒を流し込みながら言葉を紡ぐアベル。彼の言葉を聞き、ジョッキで口元を隠しながらロバートは口を開く。


「……よく覚えているね」


 フッと小さく笑った彼は、ジョッキを口元から離すと音を立てながらジョッキをテーブルに置いた。一息吐き、何かを決意したかのように表情を強張らせると口を開き始めた。


「破神装のことは知っているね?」


「ええ」


「じゃあ、その作り方は?」


「知ってますよ。胸糞悪いあれですよね」


「それじゃあ、アリアンは?」


「なんとなくは。確か気づいたころには五万人近い住人すべてが死んでたっていうところですよね」


 問いに答えるうちになんとなく何が言いたいかを察し始めるアベル。そしてこの後、ロバートが教えてきたリュティエルの真実は、やはりアベルの想像通りであった。


「あの子はね。おそらく破神装を作る依り代のとなるはずだった最後の一人の生き残りなんだ。ちょうどそのころ、身体の都合で私は獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)をやめていたんだが、たまたまアリアンの近くを通ったんだ。そのとき、通りかかった川で赤ん坊だったあの子を拾ってね。それからずっと育てているんだ」


 思っていた以上にヘビーな内容を聞かされ、アベルは冷静さを取り戻す。様子を見てダメそうならば、止めようと思い始める彼だったが、ロバートは言葉を続ける。


「あの子のことは本当の娘のように育ててきたつもりなんだが。本当の父親じゃないと薄々感づかれてる感じでね。そのせいなのかわがままな子に育ってしまって、友達もいないみたいなんだ」


「……あの子はあなたのことを大切に思ってると思いますよ」


「はは、それこそどうだろうね」


 アベルはフォローしようとするが、ロバートは自嘲するように笑う。


「それに自分の出自をなんとなく察してるのか、一人でいたがるんだ。この前、町の外にいたのはそのせいだろう」


「ああ、なるほど。周りを巻き込みたくないと……」


 ロバートの説明を聞いて、アベルはあの娘がなぜあのような言動を働いたかを理解する。自分が世界に混乱をもたらす武器、その原材料にされるかもしれないという恐怖は年頃の少女にはヘビーすぎる。


 もちろん、破神装の原材料が何かなどリュティエルは知らないし、そもそも破神装という物自体あることを知らない。それでも何かの材料になることを本能で悟っているならば、追手の一人や二人、差し向けられる可能性があることも予想がつく。それで周りの人間が傷つくことを彼女は恐れているのだろう。


 五万人の中からたった一人生き残った少女とは思えないほど優しい性格をしている。親の教育の賜物だろう。


「だから君たちにはお願いがあってね。できるだけあの娘と仲良くしてほしいんだ。年も近いしね。年頃のあの子に友達の一人もいないというのはあまりにも寂しい」


「……どこまでできるかはわかりませんが、できる限り全力でご協力します」


「そう言ってもらえると、非常にありがたいよ。私ではどうすることもできなかったからね」


 アベルが彼の頼みを快く引き受けるとロバートは柔らかな笑みを浮かべた。父親として娘のことに手を貸せないのはどれほど悩ましかっただろうか。彼の苦しみの量を父親ではないアベルには理解できないが、それでも苦しいということははっきりと理解できる。


 肩の荷が下りたようなすがすがしい表情を浮かべるロバートははジョッキを持ち直すとアベルに向けて差し出す。


「さあ、湿っぽくなってしまった。もう一度飲みなおそうじゃないか!」


「喜んで。今日一日お付き合いしますよ!」

 

 重くなった空気を掻き消し、再び楽しい宴会の時間にするため、アベルとロバ―トの二人はジョッキを中身を飛び散らせながらジョッキをぶつけ合うのだった。

































 昼から始まった二人の大宴会。それは太陽が西に傾き、地平線の向こうに沈むまで続き、とうとう夜の帳が降り、人通りがまばらになる時間まで続いた。


 途中からペースを落としてある程度酔いが抜けているアベルに対して、まったくペースを落とさず吐くまで飲み続けたロバートは、アベルの肩を借りなければ、むしろ肩を借りてもふらつくほどに足元が覚束ない。


 店の明かりも消え、月光の照らす道を肩を並べて歩く二人。しかし、彼らには問題があった。アベルはロバートの家を知らないのだ。このままでは彼の家がわかるか、酔いがさめるまで夜の町を歩き続けることになる。


 幸い、本人の意識はある。聞くことができれば話は早いのだが。


「あぁん? うちの娘がかわいいって!? んなもんあたりめぇよ!」


 このありさまである。会話にならないのでは聞くことなどできない。


 どうしようかと考えながら夜の町を進むアベル。そんな彼の視界の端にリュティエルが姿を現した。なぜ、こんな時間に歩き回っているのかなどの疑問はさておき、ロバートの家を知っている人物が現れたのだ。これを逃す手はない。


「おーい、リュティエル。ちょっといいか」


 アベルがリュティエルに向かって声をかける。彼女はこちらに気が付くとゲッとした表情を浮かべ、その場を去ろうとする。


「あー、待った待った!」

 

 しかし、アベルは持ち前の運動能力で追いつく。逃げ切れなかった彼女は嫌そうな表情を浮かべながら口を開く。


「……何?」


「お前の家教えてほしいんだよ。ロバートさんがこのありさまでな」


 彼女にロバートの姿を見せると、彼もリュティエルに気づき、両手を広げて近づいていく。


「おー、我が愛しき娘よー」


「酒くさッ! どんだけ飲んだの!?」


 アルコール臭を吐き出すロバートに不満タラタラの彼女は両手で彼のことを押し返す。


「うっ、とうっ、しいッ!」


 はじき出されたロバートを受け止めたアベル。リュティエルは服を整えるとアベルに再び視線を向けた。


「……ハァ、家でしょ。ついてきて」


 大きくため息を吐き、ぶっきらぼうな口調で言葉を紡いだ彼女は二の句を紡ぐ暇もなくさっさと歩きだしてしまう。ロバートの身体を支えたアベルはそれについていくため歩き出した。


 しばらく大通りを進み、小さな路地に入ったところにある一軒家。その扉に彼女は手をかける。


「ここよ。さっさと寝かせて行ってちょうだい」


「入っていいのか?」


「こんなところで預けられても困るんだけど。ほら、さっさと行って」


 彼女の指示に従い、家に足を踏み入れたアベルは家の中に置かれたベットにロバートを眠らせると、足早に外に出た。彼の姿を視認し、リュティエルは扉を閉めようとする。


「ん、ちょっと待て。お前は入らないのか?」


 しかし、彼女のその行動は家に入ろうとしないリュティエルを見て不審に思ったアベルに防がれる。


「はぁ? あんたには関係ないでしょ」


 アベルの問いにぶっきらぼうに答える彼女だったが、アベルは全く押されない。


「いや関係あるね。年頃の娘がこんな夜遅くまで出歩くなんて見過ごせないね」


「私、もう子供じゃないんだけど」


「やかましい。一人で生きていけないような奴がいっぱしの口を聞くんじゃないよ」


 そういうとアベルはリュティエルに素早く近づき、以前のように彼女を背負いあげ家の中に連れ込む。


「ちょっと、離しなさいよ」


 彼女は逃れようとするが、夜遅くで大きな声も出せないうえ、ラケルを背負っていないアベルのパワーにかなわない。逃れられないまま、ベットまで運ばれる。


 投げるようにベットに置かれた少女。ベットから離れ再び外に出ようとするが、そんな彼女を後ろから伸びてきた手が抑え込む。彼女を取り押さえたのはロバートの手。半引退とはいえ、戦士として未だに槍を振るう彼の手から、リュティエルが逃れることは困難である。


「ちょっ、とっ。離してッ!」


「それじゃあ。よい夢を」


 抱き枕のように抱きしめられ、その手から逃れようとするリュティエルを見て脱走の恐れがないことを確認したアベルは、その場を後にし、扉を閉める。


 そのまま道を歩き始めると、ラケルの眠る病院に向かうのだった。



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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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